プロローグ2 秋風と赤い花
クリムとクリムゾンフレアは、一つになることで新生した。
そのことに真っ先に気付いたのは他でもない、ピーヌスだ。
城へと戻ったクリムを、ピーヌスは入り口で真っ先に出迎えた。
その時……見た目が違うだけじゃない、中の魂も異なっていると感じたのだ。
だが、同時にその魂はずっと傍らにあった魂達だ、そう感じてもいた。
ずっと旅を共にした愛しき半身、そしてどこか懐かしい魂……自分の龍玉に宿った魂にも似た誰かの魂、それらが混じっていると。
だからだろうか、驚きはあっても怖くはなかった。
「クリムちゃん」
「ピーヌス、我は……」
「クリムちゃん……龍として更に進化したのね、これから頑張ろうね」
ピーヌスの判断は速い。
絶対に「別物だ」などとは言わせないために、クリムゾンフレアの言葉を遮る。
何故ならピーヌスは、彼女が今までと別物だなどと思っていないのだから。
絶対にそれだけは言わせない。
そう、絶対にだ。
「ああ、ピーヌス……ありがとう」
「ん……」
抱きしめあい、目を閉じる。
これだけで今は幸せだ。
何があったかはまた今度聞こう。
今度というのがいつになるかは分からないが……。
今はこれでいい、そう思った。
「……ん、戻ったのかクリ……いや、ん……んん?」
「ルーヴか、それにガットネーロ」
「……えーと……腕が増えたな」
「いや、そこッスか? 明らかにもうちょっとツッコミどころ有るでしょ……」
「言うな、混乱してるんだ……」
額を押さえて顔をしかめるルーヴ。
その隣でガットネーロは呆れかえる。
そして、クリムゾンフレアを上から下まで見ると目を細めた。
「なんというか……禍々しいッスね」
「禍々しい、か……ふ、復讐をするには相応しい姿ということだな」
「……やるのか」
「ああ、クリムゾニアの侵攻開始だ、我は皇帝として軍を率いる」
遺跡……いや、居城に入りこれからの行動を説明するクリムゾンフレア。
その表情には一切の迷いがない。
強い復讐心を抱きつつも、しっかりとすべきことを見据えている顔だ。
「ならばあたしはお前に斧を捧げよう、これからは手足と扱ってくれて構わない、ガットネーロはどうする? あたしとしてはあまり危険なことは……」
「して欲しくないとは言ってらんないでしょ、アタシはこれでも元シークレットサービスなんスからね、養父さんも手伝えってうるさいッスし」
「むう……」
「ま、というわけでルーヴ・ルージュ及びガットネーロ・ヌッラはクリムゾニア軍に入るッスよ、将軍待遇でよろしく!」
若干納得がいかない様子のルーヴ。
その隣で、ガットネーロは人差し指と中指をビシリと立てて笑う。
そんな彼女はクリムゾンフレアは「心得た」と小さく頷く。
その反応に、ガットネーロは「おや意外」と呟いた。
「マジでしてくれるんスねえ、将軍待遇」
「ああ、マジでだ」
クリムゾンフレアの中にあるビジョンとしては、ルーヴ達や大罪の7姉妹の戦闘要員は将軍待遇で雇用するつもりだ。
非戦闘要員は、軍楽隊などといったそれぞれの得意を活かしたポジションで雇用。
そしてユウリィとウルスに関しては……戦わせないつもりだ。
二人は守っていく、それでいいだろう。
そう構想を練りながら、クリムゾンフレアは奥へ進んでいく……。
そして、ウロボロスによる説明が行われた会議室の前まで来た時だ。
会議室の前は小さなホールになっているのだが、そこが少し騒がしいことに気付く。
「どうした」
「おう、雇い主様かい、っと……なんだ、雰囲気変わったな」
「なんかあったんスか?」
「んぉーーっほっほっほ!!! わたくしの! トラップが! 敵の間諜を捕らえましたの!」
間諜、即ちスパイだ。
それを捕縛したというのなら、ハイになるのもしょうがないお手柄だろう。
そんなラクエウスの隣で、ケラススは間諜の女性に剣を突きつけている。
捕縛された女性は青くなり、縛られたまま震え上がっているようだ。
「どうする、いつでも殺せるぞ」
「その前に拷問とかいるんじゃない? ちょうど私は毒が使えるわ……」
問いかけるケラススに、ピーヌスが拷問を提案する。
故郷を滅ぼされた怒りと毒を使う快感が綯い交ぜになった表情だ。
その尻尾からは既に毒液が滴り、石の床を少し溶かしている。
「や、やめ……私は、まだ何もしちゃいない! 信じて! ここにはついたばかりなの!」
「舐めるなよ、ついたばかり? それがどうした、敵は一兵でも減らせるなら減らすもんだろうが、お前さんも軍人なら腹ぁくくれや……」
胸ぐらを掴み、顔を近づけるケラスス。
その圧に女性が更に震える。
無論、殺すというのは本気ではない……今はまだ。
まずは脅しや拷問で情報を引き出し、それから殺す。
こういった状況に置ける定石と言えるだろう。
だが、クリムゾンフレアはそんなケラススの肩に手を置くと、首を左右に振った。
そして女性に優しい笑みを向ける。
「お前の名は?」
「わ、私は……アラクネです……アラクネ・アルテューマです……」
「そうかアラクネ、何……怯えることはない、取って食いはしないさ」
そう告げて微笑んだ後、クリムゾンフレアは一人一人に指示を出していく。
指示を受けたのはそれぞれ、ソヌス、カントゥス、カペル、プラケンタだ。
それぞれが動き出したのを見て、ゆっくりとアラクネに向き直る。
「改めて……安心してくれていい」
「あっ……」
顎を掴み、無理矢理見つめ合う状況を作るクリムゾンフレア。
その時、アラクネの胸が高鳴りだした。
明らかにおかしい、と異常を感じる。
だが高鳴りは止まらない。
実はアラクネの後ろではカペルが頭に手をかざし、サキュバスの力で無理矢理ときめかせているのだが……それを知る術はないだろう。
「や、やめて……私……」
「安心していい、私達はお前が味方をするなら、傷つけはしない」
「い、いや……おねが、あ……あ……!」
よだれをたらしながらもがくアラクネ。
しかしその耳に、安らかな旋律が聞こえてくる。
心を落ち着かせる、穏やかな曲だ……。
緊張が解けてしまうのを感じながら、アラクネは涙を流す。
「泣く必要は無い、我は味方なのだから」
「み、味方……違う、味方じゃない、味方じゃ……!」
「我は味方だ、お前の味方だ、味方には何をすれば良いか分かるだろう?」
囁かれる度に、頭がおかしくなりそうになる。
あふれ出すときめき、囁かれる度に生じる快感。
その奔流の中で、アラクネはだらしなく口を開く。
その口に、プラケンタは皆のおやつにと作っていた卵菓子を入れる。
落ち着く味のものを用意してくれ、と頼まれていたのだ。
「えへへ、食べながら落ち着いてね」
「あ、ん……ん……」
優しい味と食感に、思考が邪魔されていく。
口を動かしているともう何が何だか分からない。
ただ、心が安らぐというのは間違いがないようだ。
「さあ、改めて言おう、我は味方だ、我を信じ我に全てを委ねよ」
(み、かた……しんじ、る……)
口が塞がって声が出せない分、頭の中で言葉を繰り返してしまう。
段々と減っていく否定する力、目の前の龍は自分の味方なのだという気持ちが増していく。
うっとりと細められる瞳、上気する頬。
そんな状態で……アラクネは菓子を食べ終えて口を開き、息を荒くして舌を垂らした。
舌の先端から唾液が滴り落ちるのもお構いなしだ。
「さあ、自分でも繰り返すのだ、我を信じ、我に全てを委ねよ」
「貴女を信じ、貴女に全てを委ねる……」
口にすると、全身をゾクゾクと快感が駆け抜けていく。
まるで電流のような鋭い快感。
自分はこのために生まれてきたのだと理解するような絶頂感……天にも昇る心地とはまさにこのことだ。
そんな感覚の中、アラクネは「貴女に全てを委ねる」とうわごとのように呟き続ける。
そして……クリムゾンフレアはゆっくりと、自らの手に魔力を集中させた。
「魔炎、異形化」
龍言語魔法によって手の上に、まるで黒い炎のようなものが出てくる。
そのきらめきを見ながら、アラクネはうっとりと目を細めた。
もはや彼女の中に、クリムゾンフレアの力を恐れるといった気持ちはない。
「この炎は、受け入れた者に新たな力を与える、その精神性に見合った力をだ、欲しいか?」
「はい、欲しいです……」
「受け入れればお前は人間でなくなり故国に戻れなくなる、それでもか?」
「故国なんてもういりません……欲しいのはあなただけ、です!」
「我が国の一員として働くのだな?」
「はい、私はこの国の一員です!」
うっとりと、国を捨てて仕えると宣言するアラクネ。
それを確認したクリムゾンフレアは、炎を彼女に宿した。
するとどうだろう、その全身が燃え上がり……衣服も縄も燃え尽きていく。
「あっ、あっ、ああああぁぁぁ!!!」
だがアラクネの叫び声は苦しみによるものではない。
快感……。
そうだ、快感に心を焦がしながら彼女は叫び、もだえる。
そしてその全身が変化し始めた。
全身を覆う茶褐色の毛……しかし、獣人になるわけではない。
音を立てて増えていく腕、複数の単眼になる瞳。
更には鋭い二本の牙が生え、触覚も額を突き破って生える。
言うなれば蜘蛛の怪物、だろうか?
そんな姿になったアラクネは、恭しく跪いた。
顔貌は人間と違いすぎるため、表情は読めないが……。
不思議と、うっとりしていると分かる。
「ああ、素晴らしい肉体……こんな美しい体を、ありがとうございます……陛下……」
「何、良いさ……我は無益な殺しは好まぬからな、それよりもお前はここに一人で来たのか?」
「いいえ、陛下! 私はここに二人で来ました、私の幼馴染み……かつて間諜だった頃の同僚と共に!」
そう言うと、アラクネは糸を発射した。
その糸は意志を持つかのように自在に動き、この場から離れようとしていた一人の男を捕らえる。
サーペンタイン兵の服装をした、若い男だ。
「ご苦労、教えてくれて有り難い、良い子だな」
「いえ……お安いご用です、陛下!」
敬礼し、アラクネは男に歩み寄る、そして上にのしかかると自らの胸に手を這わせた。
誘惑するかのような動きだ。
「ふふ……見てこの姿、凄く魅力的でしょ?」
「や、やめろアラクネ、正気に戻るんだ! お前は洗脳されてるんだ、故国への忠義を思い出せ!」
「洗脳されてるじゃなくて、洗脳して頂いたのよ、くだらない国への忠義を崇高なるお方への忠義で上書きして頂いて、歓喜に満ちあふれているくらいだわ」
必死に説得をしようとする男。
だが彼の懇願を、アラクネは笑いながら否定する。
もはや彼女は精神の根底までクリムゾニアの一員。
ブラエドへの忠義などもう無いのだろう。
「ねえ、あなたも私達の仲間になりましょう? まだ何の罪もおかしていないなら、クリムゾンフレア様は寛大よ」
「い、嫌だ!」
「嫌なの?」
「ああ、忠義を捨てるなんて無理だ! やめてくれ!」
「ふうん……」
首を振って懇願する男。
そんな彼に、アラクネは顔を近づける。
そして……。
「じゃあ、もういらないわ」
「ぐえっ……!!!」
口から糸を出し、男の首を絞めた。
窒息狙いではない、首をへし折るほど強靱な糸。
それにより男は首が折れ、絶命した。
そんな二人の傍らに立ち、クリムゾンフレアは問いかける。
「その男は幼馴染みではなかったのか?」
一応、洗脳が解けないかの確認ではあるのだが……。
周囲には若干悪辣な問いかけに映る。
しかし、アラクネは気にした様子も無く、むしろ声をかけられた喜びに身をよじった。
「ほほほ……かつてはそうでした、ですがこの男はもはや敵、かつて感じていた愛も友情も全ては無意味、それより陛下、この死体を処理してもよろしいですか? もうお腹がすいてすいて……」
「間諜は全て片付けたのだな?」
「はっ、私の所属していた機関より派遣されたのはこの男と私だけです」
「なら良い……ご苦労だった、私の記憶が正しければ会議室の隣が空き部屋だったはず……そこで食べると良い」
「ありがたきお言葉! 心より感謝いたしますわ!」
もはやエサとしか見ていない死体を片腕に担ぎ、空き部屋へと消えていくアラクネ。
その姿を見送ったケラススは、口笛を鳴らした。
「洗脳、そして異形化ね……またダーティーな手段を使う」
「戦争に綺麗も汚いもない、これは我は今後どのような汚い手段も用いるという決意表明のようなものだ、拷問に時間をかけていては他がいた場合逃げられるから……というのも有ったのだがな」
腕を組み、目を細めるクリムゾンフレア。
彼女は周りを見渡し、一人一人の顔を確認する。
表情は十人十色だ。
「なるほど……こういう手があるのね」
「驚いたな……なんというか、上手く言葉が出ん」
「お姉ちゃん、ビビリすぎッスよ」
平然としているピーヌス、驚いているルーヴ、笑顔のガットネーロ。
「なるほど、ねぇ……」
「……」
「えーと、そろそろ目から手を外しますわね……」
目を閉じているケラスス、腕を組んでいるクルテル、子供には見せられないとユウリィやウルスの目を塞いでいるラクエウス。
「ったく、アタイらを洗脳に使うとは」
「まあまあ……それだけ、私達の音楽も認められたって事じゃん……」
「えへへ、お菓子味わってくれて嬉しいなあ……あれ、カペルちゃん?」
「は、話しかけないで……疲れて、るのよ……」
演奏をやめて息を吐いているソヌス、今にも寝そうなカントゥス、菓子の出来に満足しているプラケンタ、疲れた様子のカペル。
「今の声……えっと、そういうことですよね……仕方がないんだ、これが戦争……」
「う……?」
そして……見せては貰えなかったものの全てを察している様子のユウリィと、首をかしげるウルス……。
みな、表情はどうあれクリムゾンフレアを見つめている。
そんな彼らに、クリムゾンフレアは腕を広げた。
「改めて……我は今後、どのような汚い手段であろうと用い、勝利を導く! それが嫌なら軍を抜けても良い、嫌でないならば、共に行こう!」
クリムゾンフレアの問いかけに、みな静まり返る。
だが逃げる者はいない。
みな、覚悟は決まっているようだ。
その様子に、クリムゾンフレアは満足げに頷く。
すると、ケラススが歩み寄ってきた。
「お前さんの覚悟は見せて貰った、これからは傭兵と雇い主の関係じゃあねえ、正式にお前さんに剣を捧げよう! 陛下!」
「ありがとう、ケラスス」
剣を捧げ、ケラススとクリムゾンフレアは見つめ合う。
皇帝としての覚悟を確かめられているのか、はたまた言葉通りにクリムゾンフレアを認めてくれたのか。
それは分からないが、ケラススは正式にクリムゾニア軍に所属してくれるようだ。
そうなれば、残りの姉妹は絶対についてきてくれるだろう。
「あの……ボクも、一緒に戦います!」
駆け寄ってくるウルスとユウリィ。
だが……クリムゾンフレアは首を左右に振った。
無論ユウリィは呆気にとられる。
「な、何故ですか!?」
「お前達はまだ幼い、しっかりと特訓し腕を磨いてからだ」
「でも……」
「でもでもだっては無しだ、言うことを聞けないなら幽閉してでも聞かせるぞ」
クリムゾンフレアの脅しに、ユウリィはしぶしぶ後ろに下がる。
そして、城の奥へと走って行った。
ウルスもまた、ユウリィを追いかけていく……。
そのやり取りを見て、ルーヴやケラススが口々に「過保護」と茶化しだす。
少しだけ恥ずかしいが……しょうがないだろう。
「ふ……過保護、か……」
「どうやら……変わってもそこはそのままのようね」
「……言うなクルテル、これもサガさ」
辰巳ユウコの弟……いや、もしかすると妹だったのかもしれない。
その生まれ変わりともなれば、どうしても気遣ってはしまう。
前世で弟と仲良くあれなかった分、現世において良き姉でありたい……。
そんなクリムの気持ちが、胸の中に残っている気がするのだ。
だが、いつまでもその気持ちに浸っているわけにはいかない。
クリムゾンフレアは踵を返すと、会議室へ歩いて行くのだった……。
「……強くなりたいなあ……ね、ウルスちゃん……」
「う……」
廊下の片隅で、二人は座り込む。
その顔は少し寂しげだ。
確かに、二人には力があまりない。
かつては街全体に脅威をもたらした精神魔法も、極限状態を過ぎてしまえばせいぜい恐怖を忘れて戦意を高揚させる程度の大したことが無いものに戻ってしまった。
何故これが大したことが無いかと言えば、恐怖を忘れてしまえば無謀な行為が多くなる。
つまり戦場では禄に使えないものなのだ、せいぜい使い勝手など、家に湧いた虫の退治をする時に恐怖を消すくらいだろう。
それ以外に出来ることといえば、レイピアを用いた剣技だが……。
しかしそれも飽くまで貴公子の嗜みとして学んだ程度、実戦経験が無いのもあって戦場に出られるほどじゃないはずだ。
ウルスはキメラとしての身体能力と野生の勘を持っているが、逆に言うならそこまで。
今のままでは、それ以上を望むことは出来ないはずだ。
「力不足を感じるって、こんなにキツかったんだな……」
「うー……う……」
「慰めてくれるの? ありがとう……」
ウルスと抱き合い、慰め合う二人。
その時だ、ユウリィの隣に、何かが着地した。
蜘蛛の怪物となったアラクネだ。
「ん……? うわあ!?」
「ユウリィ・ドゥルキス様……!」
「え、あ、あなたは……ボクをご存じなんですか?」
問いかけるユウリィに、アラクネは勢いよく頷く。
喜色満面……といった雰囲気だ。
「どれだけ周りから阻害されようとも、一途に自分の道を歩むお姿……! 常に尊敬しておりました! ここへ潜入することに志願したのも、ブラエドでは貴女様が誘拐されたことになっているからでして!」
「は、はあ、それはどうも……えっ、誘拐!?」
「恐らくはユウェル王子を動かすため、かと思われます」
ユウェル王子を動かす、その言葉にユウリィは複雑そうな表情になる。
騙されているのならば、なんとか説得したいものだが……。
しかし、今のユウリィには戦場に出るだけの力が無い。
「あの……よろしければ、私がお二人を鍛えましょうか?」
「え……良いんですか?」
「はい! 憧れの方のお力になれるなんて、嬉しい限りです!」
社交界では一人ぼっちだった自分に、こうも良くしてくれる。
そんなアラクネに、ユウリィは元々変わり者だったのか、はたまた異形化でたがが外れたのかと思いつつも、同時にありがたさを覚える。
だが……少しだけ、そう少しだけ、見た目が怖い。
「あ、あの……有り難いんですけど……擬態とか、できます……?」
「それは無理です! この姿は私の誇りの証し、クリムゾンフレア陛下御自らの手により転生させて頂いた喜びの証しですから!」
「あっ、はい!」
「そもそも人間だった頃の姿など、思い出すだけでも汚らわしく、私自身あんな国のお高くとまった貴族だったなどと、いっそこの記憶を糸でがんじがらめにして捨ててしまいたいくらいに」
熱弁するアラクネに、ユウリィは「言ってはいけないことを言ってしまった」と息を吐く。
そして、何はともあれ慣れるしかないなと決心をするのだった。
その頃、会議室では……。
「お母様、その姿は……一つになられたのですね」
「ああ、寂しい思いをさせたな、ウロボロス……すまなかった、ミドガルズオルムにも謝罪に行かねば」
「いえ……いえ! お母様がそう言ってくださるだけで、私は……!」
涙をこぼすウロボロスと、優しく撫でるクリムゾンフレア。
そのやり取りを見ながら、ピーヌスとクルテル以外は疑問符を浮かべた。
「お、親子……?」
「色々あるのよ、今度話すわ」
呆気にとられるルーヴに、ピーヌスは息を吐く。
どう説明したものか……と悩んでいるのだ。
「ねえウロボロスちゃん、再会に浸るのも良いけど、やることをやりましょ」
「あ……はい、ピーヌスお母様!」
「え……師弟じゃなかったのか?」
「だから! 色々あるのよ!」
説明が思いつかず頭を抱えるピーヌス。
その様子に、クリムゾンフレアが少しの微笑ましさを感じていると……。
ルーヴの父ガルムが一つの鎧を持ってきた。
翼や尻尾用の穴が開いた……漆黒の鎧だ。
「陛下、お召し物を」
「うむ……ご苦労」
翼が四枚になると予見されていたのだろうか、穴はしっかり4つ有る。
サイズも体格にぴったりとフィットするようだ。
そして……どこか、不思議な力も感じる。
魔力がこもっているのだろうか。
「では……これより、戴冠式を行います」
カシャの言葉に従い、冠が運ばれてくる。
ハナから後戻りなどするつもりはないが、もう後戻りは出来ない。
ここから待つのは皇帝としての茨の道だろう。
頭にかぶせられる冠……その重さを感じながら、クリムゾンフレアは決意をより深くする。
戴冠式が終われば各地を巡って即位の挨拶、併合の通達、ルイン村への協力要請……そしてブラエドへの宣戦布告と、やることが沢山だ。
しばらくは休む暇もないだろう。
だがそれこそが選んだ道、ならば悔いはない。
「我が名は……魔龍帝クリムゾンフレア、皆の者……我についてこい! 全ては世界と、奪われし命のため! 復讐の始まりだ!」
悪の道であろうと迷わず進む、その決心を示すかのように刻み込んだ魔一文字。
それを掲げ、クリムゾンフレアの……そして仲間達の戦いが始まる。
その道に迷いは許されない。
皆それを理解し、力強く敬礼をするのだった。




