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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第三十四話 転生の真実、異世界の真実

「クルテルさん」

「ん……センチメンタルは終わりか」

「嫌味ですね」

「しょうがない、神としての側面を出すと……嘘がつけなくなる、ついでに言うと嫌味のつもりはない」


 大の字のまま笑うクルテル。

 その傍らで、クリムは息を吐く。

 正直体のあちこちが痛い。

 だが休んではいられないようだ。


「まずは……あの地下の世界から、私が死んだ日に何があってあの世界は終わったのか……それを教えてください」

「ああ……良いだろう」


 クリムの問いに、クルテルは立ち上がる。

 そして彼女は語り出した。

 あの日起きたこと、終わった世界に訪れた神罰を……。


 全てのきっかけは、14年前。

 天子田(あまこだ)総合病院の近くでは、一つの実験が行われていた。

 細菌を周囲に放つ、恐ろしい爆弾の開発だ。

 偽装された工場で秘密裏に行われていた実験は、予想外の形で幕を閉じた。

 工場の爆発。

 誰の悪意が絡んだわけでも無い、純粋な事故。

 それにより起きた爆発は周囲に細菌をばらまき、それは流行病となった。


「じゃあ、あのクレーターは……」

「細菌兵器を研究していた場所だ、そんな曰く付きの場所だから一向に整備は進まなかった……」


 細菌兵器は半分成功で半分失敗だった。

 大人達には一時的な体調不良をもたらす程度の毒でしかなったのだ。

 だが、子供にはどうだろう。

 体の大きい大人と小さい子供では、細菌の影響も当然違う。

 当時の子供達は、大きな後遺症を抱えることとなった。


「それが、お前であり、松田莉子であり、他の子供でもある」

「……私達は、人のせいで苦しんだ……? 病は、天災じゃなかった……!?」


 神々は人間の蛮行に怒った。

 無闇矢鱈な武力拡大の果てに得たのが、その武力で守ろうとした子供を病に犯し、挙げ句の果てにはその罪を隠蔽する行為。

 そんなのはあんまりすぎる。

 そして子供達に同情した、どうか彼らを幸せにしてあげたいと。

 そうして作られたのが、アカシックレコード観測装置……シャングリラ・オンラインだ。


「シャングリラ・オンラインが……神の作った観測装置!?」

「おかしいと思わなかったか? 病院にこもっている子供でもできる基本無料、課金要素すらどこにもない……でも、いつまでもサービスは続く……それもそうだろう、運営は神だったのだから、儲けが無くても続くんだ」


 シャングリラ・オンラインは子供達を楽しませるための観測装置であると同時に、相手に来世を知らせる装置でもあった。

 キャラメイクのつもりで入れていたのは、アカシックレコードを脳内に一部入れられて理解した自らの来世に関する情報。

 そしてキャラというのは全てそのまま、来世の自分達だったのだ。

 だからキャラは一つしか作れず、作り直しもできなかった。

 そして多様性が無限にあったのもこれが理由だ、そこは遠い未来の実在世界なのだから多様性があって当然だろう。


「警告でもあったよ、これは」

「警告……?」

「お前達はこのままだと文明を捨てることとなる、それがいやなら……というものだ」


 文明を捨てることになる、確かにその通りだ。

 この世界にはかつてのような文明が存在しない。

 代わりに存在する魔術文明も、かつてほどの高度文明ではないものだ。


「我々も……脳内に植え付けた警告に危機感を覚え、彼らが文明を捨てたくないと必死になるなら……許すつもりだった」

「……」

「だが彼らは、我々が脳内に刻んだ警告にある言葉を守らなかったのだ、だから裁いた」


 警告にある言葉、それは単純。

 苦しむ子供達に幸福な最期を。

 彼らが世界を恨まずに、せめて心安らかに逝けるようにしてあげて欲しい。

 苦しんで死んだ子供が100を越えれば……世界は滅ぶ。


「だが彼らはそれができなかった、一人たりとも救えなかった……子供達はみな苦しんで死んだ」

「……」

「一番知っているのは、お前だ」


 うつむくクリム。

 その脳内には死んだ瞬間のことがよぎっていた。

 あの時クリムは無念を感じて、苦しみもがいて……。

 そして死の瞬間、確かに感じたのだ。

 生への嫉妬、そして憎悪を……。


「こうして世界を滅ぼすことが決まり、まず第一の刃として私が派兵された」

「クルテルさん、が……?」

「そうだ、神にも成り立ちが色々あるんだ」


 神とは概念や自然現象が長い時を経て意志を持った存在を指す。

 そんな中でも、クルテルは生まれたばかりの神ながら特別な概念を持つ神だった。

 それ故に、一番槍に選出されたのだ。


「私は、希死念慮の神」

「希死念慮……?」

「言うなれば……人の中にある、滅びを望む因子だよ」


 自殺願望と異なり、漠然とした滅びたいという気持ち。

 言うなれば、唐突に飛び降りてしまいたくなるような衝動、死の渇望。

 それが形を成した神……それこそがクルテルだ。

 故に彼女は、命を奪う影の霧を発することができ、人の魂を回収して世界を終わらせるのに適した存在として暴れ回った。


「最後に死んだ子供の身に宿り私は顕現した、滅びは人の望みだと思っていたし、子供の憎悪も聞こえていたし……迷いは無かったよ」

「……!!」


 クルテルが髪をかき上げ、顔を見せる。

 そこから出てきたのは……辰巳ユウコの顔だ。

 だからユウコの病室はあの日のまま。

 時が止まったように全てが終わっていたのだ。


「滅びは君達の望み、一緒に滅びよう、滅びて幸せになろう……そんな気持ちを胸に、私は影の霧で人々を取り込んだ、そして魂を糧に異形化して巨大化……人々の滅びのイメージを元に変化し、言うなれば怪獣とでも言うべき姿になった」

「怪獣……」

「あの頃は色々な名前で呼ばれたよ、影の霧をもたらすもの、見下す逆さ顔、大いなる闇……ガタノトーイとかガタノソアとか、そんな呼ばれ方もした」


 人の体で何をしているのだと言いたくなるが、クルテルの優しい顔を見ていると何も言えなくなる。

 彼女はきっと、心から人類と……そしてユウコ達苦しんだ子供のために、戦ったのだろう。


「けど人類は抵抗した、予想外だったよ、死にたい気持ちの塊である私には抵抗が予想できなかった」

「抵抗……もしかして」

「そう、その時私を倒したのが今で言うケラススお姉様……当時は、マドカ・ティアだったかな」


 死の霧による世界の沈静は進み、数少ない生き残りは肩を寄せ合いながら生きていた。

 そのリーダーだったのが、米系日本人のマドカ・ティア。

 優れた戦闘機乗りであった彼女は、果敢に戦いを挑んだ。

 本来ならば神と戦闘機、差がありすぎて敵うわけなどない。

 だが、大いなる闇には隙があった。

 立ち向かう人間に興味を持ってしまったのだ。

 だから問いかけた、戦闘機に乗る人間に。


「何故、あなたは滅びにあらがう?」

「決まってる……! 誰だって滅びたくない! 大事な人と手を取り合いながら生きたいんだよ! 愛する者と、明日へ向かって飛んでいきたいんだ!」


 ティアの一喝に、取り込んだはずの魂達が反応する。

 その魂と……生き残りのうち、特に彼女に共感した5人。

 その光が戦闘機を光の巨神に変え、霧を払った。

 5人の中には神によって間諜として生み出されたはずの悪魔もいたのに、それすらティアに力を与えたのだ。

 それにより、神は敗れた。

 魂を強制的に解き放たれ、ベースとなったユウコの肉体に戻されたのだ。

 その状態で力尽きた彼女に、ティアは手を伸ばした。

 そして笑ったのだ。


「お前は人を何も知らない、だからこれから知るべきだ、人がどう生きてどう死ぬのか」

「人を、知る……」


 ティアは大いなる闇を妹として扱った。

 そんな彼女を大いなる闇も不思議と慕い……姉と思うようになった。

 だが神々はそんな気持ちが理解できなかった、それどころか本来は有する概念以上の意志など持たないはずの神にエラーを与えた人間を恐れた。

 それ故に滅びをもたらすことを諦めて、世界に天蓋を作ったのだ。

 天蓋の上は創世されたばかりの新しい世界……そう、言うなれば異世界だ。

 だがそこへ行こうにも次元は歪み、掘れど砕けど一切繋がらない……分厚い蓋。

 それによって再び暗くなった世界で彼らは生き、そして老衰で死んだ。

 最後に「また姉妹になろうね」と指切りをしながら。

 生き残りは女性しかいなかったので子供は作れず、旧き人類は滅びを迎えたのだ。


「私は一人になった、間諜の悪魔も上に生まれなおすために自死を選び……一人ぼっちで寂しかった、悲しかった、でもあの場所から離れたくなかった」

「だから……」

「そう、だから私は私の中の未練を切り離した……もう一度お姉様の妹になるために、そして上へと這い上がった、一万年の時をかけて……」


 そこまで語り、クルテルはハッとなる。

 そして、恥ずかしそうに顔を赤くした。


「……あの日何が起きたか聞かれただけなのに、つい自分語りになってしまった」

「良いんです、あなたが知れて……なんか、良かったです」


 これまでは人間を見下していて威圧的、そう思っていたクルテルだが……。

 実際に話を聞いてみれば、人間を愛していることが伝わってきた。

 だが、だからこそ……神として弱みを見せたくない一心で、つっけんどんになってしまうのだろう。

 可愛らしいものだ、とクリムは思った。


「……なんだその目は、私は旧人類よりは年下だが……この世界が創世される前より生きているのだぞ」

「私、旧人類ですよ」

「む……」


 都合が悪くなったからか、クルテルは顔を背ける。

 若干不機嫌になったのかも知れない。

 カペルが以前「神の癖に意外とみみっちい」と言っていたのをなんとなく思い出した。


「とりあえず、時系列の整理をしますね」

「ふん……」


 不機嫌そうなクルテルに苦笑しながら、クリムは時系列を整理していく。

 最初には旧人類の世界があった。

 だがそれは人の蛮行に怒った神により滅びを迎える。

 しかし滅びの徒として遣わされた神は人間に敗れ絆され、そんな奇跡を起こした人間を恐れた神は世界を滅ぼすのを諦め、天蓋で塞いでその上に異世界を作った。

 残された旧人類の生き残りはみな寿命を迎え、上の世界へ転生。

 こうして下の世界は少し遅れて滅び、クルテルはなんとか上の世界へ行こうとする。

 一万年をかけて穴を開け、彼女は上と下の唯一の通り道を築き上げたのだ。

 そして下の世界には、クルテルが切り捨てた未練と地下研究施設の白蛇だけが残った。


「一万年後の世界って言うのは……」

「今から1000年前、その世界で私はお姉様と再会した」


 目を細めながら、クルテルは過去に想いを馳せる。

 傭兵として気ままに生きていたケラススと再会した喜び。

 未だに忘れることはできないものだ。

 だが、そこから先に悲劇は起きた。


「世界のリセット……お姉様は何もしていないのに、他の姉妹だってそうだ、ブラエドのせいで巻き添えを食らいみんな死んだ、気が狂いそうだった」


 再会できたのに、再び笑い合えたのに。

 また姉妹になれたのに。

 何故、何故なんだ。

 何故私だけ生き残り、私だけ苦しむんだ。

 何故。

 そんな嘆きと共に、クルテルはさまよい歩いた。

 その先で出会った数少ない生き残り……それがウロボロスだ。

 予知能力を修行により得た彼女は、それを利用してクルテルと接触を図った。

 そして始まったのだ、今度こそ世界を滅びさせないための計画……。

 箱船計画という、壮大な共犯が。


「私は、とっととブラエドの祖となる地域を潰せば良いと思ったが、ウロボロスはそうじゃないと言った」

「そうじゃない……?」

「奴の未来視によるとブラエドの祖を潰せば他の国が、そこを潰せばまた他の国が悪しき発展をするという」


 それを見たとき、ウロボロスは気付いたのだ。

 悪しき発展の裏には、何かしらの黒幕が存在すると。

 ならば発展前に潰す……では意味が無い、発展を始めた頃、発展しきる前……その段階で、黒幕ごと国を潰す。

 でなくては堂々巡りが起きるだけだと。


「だから、この時代に私達は行動を起こした」

「なるほど……あの、ところで一つ良いですか?」

「ん?」

「気になってたんですけど、ウロボロス様ってまさか……下の世界で生まれたんですか?」


 クリムの問いに、クルテルは静かに頷く。

 それを見ながら、クリムは「やはりそうか」と息を吐いた。

 それならばクリムを気にかけるのも納得がいくのだ。


「クリムゾンフレアとピーヌスが下の世界から持ち帰った二つの卵から白蛇の姉妹が生まれた、その妹の方があのウロボロスだ」

「妹……? では姉は?」

「見ただろう? コキュートス大河で、あれが姉……ミドガルズオルムだ」


 特殊な技能を持つ方向で進化した妹と違い、体を成長させる方向で進化した姉、それがミドガルズオルム。

 彼女は大きすぎて街に住めないため、コキュートス大河から人々を見守っているのだ。


「二人は戦争が始まるにあたり、下の世界に戻されていた……だが、自力でなんとか上に戻り……しかしその頃には全てが終わっていた、だからお前達に尽くす気持ちも人一倍なのだろうよ」

「でも、私達は……」

「かつての記憶がないなんて無粋なことを言うなよ、記憶がなかろうとあいつらにはただ二人の親なんだ、私にとってのお姉様達と同じ……何にも代えがたい存在なんだ……」


 クルテルはそう言い、目を細める。

 ウロボロス達の気持ちに共感しているのだろう。

 その気持ちが分かるのは自分くらいなのだから。

 かつての記憶を維持している者には、不変の魂を持つカペルもいる。

 だがカペルは神と違い死ねるので、死んで愛する者と近い時代に生まれ変わることができるのだ。

 ならば、長い時間をずっと待っていたウロボロス達やクルテルとは大きく違うだろう。

 そう考えるクルテルの頭上で、雨がやむ。

 同じ頃……テルメ村では、村人達の埋葬が行われていた。


「……お手伝い頂き、ありがとうございます……」

「いえ、良いのですよピーヌス、私達は…………師弟なのですから」


 言葉を濁しながら、ピーヌスを抱きしめるウロボロス。

 その腕に抱かれながらピーヌスは少し目を逸らした。


「……ウロボロス様は、何故私に優しいんですか? 行きずりの私を弟子にしたこともそうです、ウロボロス様はいつも……私を思ってくださる」

「それは……」


 ピーヌスの問いに、ウロボロスが言葉を詰まらせる。

 そして、言うまいかどうか迷った後……彼女は、ピーヌスの目をじっと見つめて微笑んだ。


「あなたとクリムゾンフレア様は、私のお母様……ですから」

「え……?」

「ずっと、この言葉が言いたかった……でも言えば訝しまれるのが予言で分かっていたから、できなくて……でも、今ならお母様も理解できるでしょう、世界に何が起きたかを理解した今なら」


 世界に何が起きたか……。

 1000年をかけての輪廻転生。

 そして、1000年前にはただ前世というだけではない、名前すら同じ存在がいた。

 つまりは……。


「……そっか、私……家族を全部失ったと思ってた、でも……まだいたんだ」

「ええ、私もミドガルズオルムも、そしてクリムゾンフレアお母様も……みんないます、1000年間ずっと……お待ちしておりました、ピーヌスお母様」

「……ありがとう、ウロボロス様……ううん、ウロボロスちゃん……」


 ウロボロスの胸に顔をうずめ、ピーヌスが涙を流す。

 そんな彼らの頭上で、ようやく晴れ始めた空が光を放つ。

 それを見ていたウロボロスは、まるで天へ向かうピーヌスの両親が「娘を頼みます」と言っているかのように感じていた。


(ええ、お任せください……おばあさま、おじいさま……)


 今度こそ世界を終わらせない、二人を生かしてみせる。

 その決心を深くしながら、ウロボロスは笑みを浮かべた。

 天上へ向かう者達を安心させるように……。


 一方、その頃クリムは一つの疑問を抱いていた。


「あの……そういえば何故私だけは前世の記憶が……? 転生者なのはこの世界のほぼ全員が同じですよね? 貴女が肉体を使ったから、ですか?」

「いや……私が入った時点でお前は天へ向かっていた、だから関係ない……でもお前がイレギュラーなのは確かだ、前世の記憶など他の転生者は持っていないからな」

「じゃあ、なんで……」


 問いかけるクリム。

 だがクルテルは、その龍玉を小突いて歩き出した。


「ひゃんっ……!」

「それはクリムゾンフレアに聞くと良い、私はそろそろ……お姉様のところへ戻るわ」


 神としての口調から人に紛れているときの口調に戻り、クルテルは歩いて行く。

 少しフラフラとしている辺り、神として喋るのはそれだけで疲れるのかもしれない。

 その背を見送りながら……クリムはゆっくり意識を集中する。

 そして、いつかのように、意識の海を泳ぎ始めるのだった……。

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