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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第一部 午刻の章 ―― 龍になった少女 ――
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第二十七話 第二の故郷と湯煙

 さて、ここでピーヌスの生い立ちについて詳しく話そう。

 ピーヌス・ウェネーヌム、17歳。

 父は農夫で母は温泉宿の雇われ女将という、どこまでも普通の家庭に生まれた一人っ子。

 しかし彼女は非凡な魔術の才を持ち、同時に一つの夢を小さい頃から見ていた。

 人の魂と龍の魂、それを併せ持つ者と一緒に旅をする夢だ。

 その夢は不思議とリアリティのある夢で……毎日目にするその龍は、実在する存在だと何故か確信できた。

 そして同時に、毎日夢に出てくる彼女をピーヌスは「自分の運命の半身」だと思うようになり、龍がいつか迎えに来てくれる、そして自分も龍になって龍のお嫁さんになる、という夢を抱き始める。

 その荒唐無稽な夢を周囲は笑った、実際待てど暮らせど龍はこなかった。

 だが……そこで諦める女ではない。

 ピーヌスは、数年前「待てど暮らせど来ないなら、こっちから会いに行く」と旅立ちを決意。

 魔術の修行と、龍の捜索の為に旅立ったのだ。

 いつまでも龍になりたいなどと夢見ているのは思うところがあるが、しかしそれが彼女の夢ならば送り出してやろう。

 それで折れて戻ってくるなら、その時はその時だ。

 両親や周囲はそう考えながら、ピーヌスを見送った。

 そして、そこからは野を越え山を越え……旅の毎日。

 そんな中、ピーヌスはサーペンタイン首都メルクリアに辿り着く。

 そこである人物に師事した彼女は、魔術の腕をメキメキ高め……。

 そして師事が終わる日、彼女はこう伝えられた。

 これから先、ニライカナイに滞在すれば貴女は夢を叶えられる。

 その助言が授けられると同時に、師は彼女に一つの命を授けた。

 これから出会う事があろうと、良いと言わなければ他人として振る舞う、そしてメルクリアが古巣であることも明かさないと。

 こうしてピーヌスはニライカナイに単身滞在し、運命の日を待つこととなったのだ。

 そして……二人は出会った。


「とまあ、こういう経緯で龍になったのよ」

「なるほどねえ……」


 そこからの旅路を経て、今はこうして故郷テルメ村に戻り、母にいきさつを話している。

 しかしその姿はかつての人間の姿ではなく……毒龍の姿だ。

 望めば人間に変身することもできるのだろうが、龍になることが夢だったピーヌスはまずそれをしないだろう。


「親として産んだ以上、授けた肉体を捨てられたのは癪だけど、まあ無事で何よりだよ」

「捨ててないわよ、飽くまで龍玉が宿ったことにより、その魔力を受けて肉体が龍に変異しただけであって」

「あー、はいはい、うんちくで人の言葉を台無しにしない」


 わちゃわちゃと騒ぐピーヌスと母親。

 そんな二人を見ながら、クリムは息を吐く。

 これが親子の微笑ましい風景。

 両親に大事にされていたとは言いがたかったクリムには、父子にせよ母子にせよ新鮮そのものだ。


「おっと、見苦しくてすみません」

「い、いえ……むしろ良いなって思いました、私は……あまり両親に大事にされていませんでしたので」

「クリムちゃん……」


 苦笑するクリムに、ピーヌスは複雑そうな顔をする。

 そして……クリムの手を握ると、勢いよく母の方を見た。


「良いのよクリムちゃん、母さんのこと貴女も母さんって呼んでも!」

「え、え、えっ!?」

「だって私達運命の半身じゃない! 愛し合ってるじゃない、それってもう夫婦とか番とかそういうことでしょ!」


 ピーヌスの突飛な発言にクリムは面食らう。

 確かに両親に紹介するとは言っていたが……。

 だが、これはいくらなんでも急すぎる。

 勿論まんざらではないし、ピーヌスが良いならそれでいいのだが。


「わ、私達が夫婦……番……」

「……口にされるとなんかドキドキしちゃうわね……」


 息を呑み、見つめ合うピーヌスとクリム。

 そのまま二人の口が近付き……。

 くっつく寸前で、ピーヌスの頭が母親にはたかれた。


「あいた!」

「痛くないでしょ龍の体で、それより人様の前でイチャイチャしてないで、紹介するならさっさとおし!」

「痛くなくても条件反射ってあるのよ! もう!」


 母に怒られ、自らも肩を怒らせるピーヌス。

 彼女はゆっくり息を吐き……。

 そして、にこやかな笑みを浮かべた。

 いや、にこやかというよりは……とろけるような、デレッデレの顔の方が近いか。


「この子はクリムちゃん、とても優しくて強くて可愛くて、真面目なんだけどたまーにドジだったりもして、でも凄い努力家でね、あと体がとっても暖かくてそれでね」

「あー、はいはい、良い子なんだね」

「ちょっと!」


 あきれ顔の母に発言を遮られ、ピーヌスは頬を膨らませる。

 そんな彼女を無視し、母はクリムをじっと見つめた。

 その視線に、クリムは少し緊張してしまう。


「さて、うちの馬鹿娘はあなたを運命の人と言ってますが……」

「バカって何よ、勉強できるのよ!?」

「勉強のできる馬鹿はいるんだよ、はいそれはさておき……あなたは娘をどう思ってるんでしょうか?」


 問いかけられ、クリムは視線に息を呑む。

 正直に全てを話してしまえばピーヌスのように暴走するかもしれない。

 愛する親友の生き写し、今の愛する存在。

 最初はどこか生き写しとして見ていたかもしれないが、今は何だかんだで個人として愛している、と思う。

 正直に言えば裸を見られれば嬉しいし、肌と肌が触れあうと興奮するし、キスをするなら呼吸の続く限り延々したい。

 内面だって、いつも頼りになる人で知識も豊富で、それでいてうかつさもあってかわいらしい人だ。

 なおかつ自分をいつも気にかけてくれていて、これでは惚れるなというのが無理だろう。


「え、ええと……」

「ええと?」

「もう、逆鱗って龍の弱点なんですけどね! その逆鱗をピーヌスちゃんに晒して、触っても良いよ……ってしたいくらい大好きです! むしろピーヌスちゃんの全身を舐めるように観察して逆鱗を見たいくらいといいますか!」


 興奮しすぎて、本能のままにハッスルしてしまうクリム。

 その口から発する言葉は……母を若干引かせた。

 しかし、同時に本気で好きということは伝わったらしい。

 母は笑顔でクリムの手を取ると、少し涙を浮かべながら頭を下げた。


「帰ってきたら龍のお嫁さんになっていて不安でしたが……貴女なら娘を大事にしてくれるのは確実ですから大丈夫そうです、娘をよろしくお願いします」

「は、はい……その……」

「お母さん、お母さんって呼んでいいわよクリムちゃん」

「お、お母さん……その、娘さんを大事にします……」


 ピーヌスに耳打ちされながら、人間だったら顔を真っ赤にしていそうな状態で頭を下げるクリム。

 そんな彼女に母親は苦笑する。

 そんな二人を見ながら……ピーヌスは目を細めた。

 感慨深げ、といった雰囲気だ。


「そうか……私、龍になってクリムちゃんの運命の半身になって……旅の目的が達成されたんだ」

「ピーヌスちゃん……」

「これからは、もっともっとクリムちゃんのために頑張れるって事ね! ねえ、猫又之国まで行ったら次はどこへ行く? あなたの目指すところへ行くわ」


 そこまで言うと、ピーヌスは少し目を伏せる。

 そして、顔を上げると艶っぽく潤んだ瞳をクリムに向け……口を開いた。


「それでね……もし、あなたの旅の目的がなくなったら……その時は、この村で一緒に暮らさない?」

「……! 一緒に、ですか……?」


 ピーヌスの誘いに、胸がドキドキする。

 今だって一緒に旅をしている以上一つ屋根の下で寝ることは多々ある。

 だが……一緒に暮らすとなれば、また別の話だ。

 愛する者と二人で暮らす、それは完全に夫婦だろう。

 5年後の死を覆せたら……それも良いかもしれない。

 そんな幸せを思い浮かべながら、二人は手を握り合って見つめ合う。

 母は二人を見ながら「ごちそうさま」と肩をすくめ……。

 その時だ、ドアが突如開く。


「ピーヌス! 戻ってきたんだってな! お父さんだぞー!」

「んっ、お父さん!?」


 日に焼けた肌の、大柄な男性……。

 恐らく彼が、農夫をしているという父なのだろう。

 彼は両腕を広げて飛び込んできたが、クリムとピーヌスを見ながら硬直する。


「……」


 クリムを一瞥、ピーヌスを一瞥。

 そして、茶をすする妻を見つめて首をかしげる。

 ……。

 一拍の間。

 そこからはあっという間だった。


「ぎええええぇぇぇ!!!!」

「あんた、うっさいよ!!」


 絶叫と怒号がこだまする。

 その轟音に顔をしかめるピーヌス。

 一方で、クリムは賑やかで良いなと笑うのだった。

 もしも、もしも無事に旅が終われば……。

 自分はこの風景の一員になれる。

 優しい母と、賑やかな父、そして愛するピーヌス……。

 大事な者達に囲まれて過ごせる。

 そんな日がいつか来るのなら……こうしてこの村に来たのは決して間違いではない。

 そう思える愛しさだった。



「おーう雇い主様、ピーヌスの家で寝るんじゃなかったのかい?」

「ええと、お母さんがせっかくだから宿の温泉を使えって……」


 その夜、許可を貰って宿の風呂まで来たクリムは宿の風呂場を訪れる。

 そこでは、一足先にケラススが湯船に浸かっていた。

 服の上からでは分からなかったが、体のあちこちに傷がついた肢体はまさしく歴戦の戦士。

 裸同士ではあるが、そういう気持ちよりも先にたくましさに目が行ってしまう体だ。


「お母さんね、なるほどなるほど」

「うう……ニヤニヤしないでくださいよ」

「へへ、悪い悪い、こいつぁ下世話だったな」


 伸びをしながら、ケラススは星空を見上げる。

 そんな彼女を見ながら、クリムは洗い場に向かった。


「他の皆さんはもう寝ていらっしゃるんですか?」

「二日酔いコンビはなぁ、だが他の連中はまだどんちゃん騒ぎよ、一応ほぼ全員風呂には入ったが……リィの奴だけは最後に入りたいらしい、混浴だから一緒でも良いんだがな」

「まあ、一人だけ男の子ですもんね……」

「へへ、あんなガキに欲情するなんざ、俺らの中じゃあカペル程度だがな、だいだい男だってぇあいつあ……いや、いいか……」


 酒を一口飲み、ケラススは息を吐く。

 とても気持ちが良さそうだ。

 その姿を見ていると……クリムも早く風呂に入ってみたくなる。


「それにしても、良いですね故郷って……もしかしたら、ここが私の第二の故郷になるかもしれないなんて……」

「へえ、そりゃあいい話だ、しかし故郷か……」


 故郷、そう言いながらケラススは顔をしかめる。

 故郷に何か思うところがあるのか……。

 どこか複雑そうな表情だ。

 思えばケラススは故郷の話を特にしていない。

 少しだけ、聞いてみたい……。

 クリムはそう考える。

 だがケラススは湯船から上がると、そのまま歩き出した。


「寝るわ、あんま長風呂しすぎるんじゃあねぇぞ」

「あ、はい、おやすみなさいケラススさん」


 ケラススを見守り、クリムは息を吐く。

 そして体を洗うのをやめ、自らも湯船に浸かり始めた。

 暖かい……安らぐ暖かさだ。

 その温もりに目を細めていると……風呂場のドアが開く音が聞こえた。

 誰かが入ってきたのだろう。

 クリムがそちらに目を向けると……。

 そこには、リィがいた。

 一糸まとわぬ、生まれたままの姿のリィが。

 その体のある部分を見て、クリムは目を見開いた。


「え、あ、あの、あなた……」

「……! す、すいません、まだいたんですね……! すいませんでした!」


 謝罪しながら逃げるように出て行くリィ。

 そんな彼を見て……クリムは一つ、疑念を抱く。

 弟に対してすら矛先の向く一つの疑問を……。

 しかしそれに答えが出ることは、今はないだろう。

 クリムは湯船から空を見上げ、しばらくは答えの出ない思索にふけるのだった……。

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