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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第一部 午刻の章 ―― 龍になった少女 ――
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第二十五話 貴族と獣と女達

 さて、貴族の少年リィとキメラの少女。

 二人による恐ろしい食人計画は未遂に終わり、大きな事故も人死にも起きずに終わった。

 結局被害は無いということで、事情を知る者による厳重注意で終わったわけなのだが……。


「さあ、美味しいケーキができたよ~」

「あ、ありがとうございます……さ、一緒に食べよう」

「う……?」


 リィと少女は飢えに苦しんでいたということで、現在は祭りのスタッフ詰め所で、食事を馳走になっている。

 今ちょうどデザートが出されたところだが……どちらもおっかなびっくり、といった様子だ。

 特にキメラの少女は、ほぼ獣同然で言葉すら知らない様子。

 その姿を見ていると……ブラエドという国の非道さがうかがえる。


「ふふん……しょうがない、緊迫しているなら! このアタイ達が特別に、お前達のために歌ってやる! いくぞカントゥス!」

「はいはい、ソヌス姉……じゃあ本気出しますか」


 緊迫した空気を打ち消すためか、歌を歌い出すソヌスとカントゥス。

 一方で、ラクエウスもにこやかにリィ達の頭を撫でまわす。


「追っ手の心配はもうありませんわ! この! わたくし! ラクエウスが! トラップの作り方を伝授いたしましてよ! んぉーーーっほっほっほっほ!!!」

「は、はあ……どうも」


 ラクエウスのテンションに二人は引き気味だが……。

 しかし、楽しそうではある。

 一方……この場の雰囲気にそぐわない、緊張した面持ちのままの者もいた。

 クリムだ。


「……」

「クリムちゃん……やっぱり、何か変ね、リッちゃんに何かあるの?」

「それは、その……」


 心配し、訳を尋ねるピーヌス。

 言うべきか言うまいか、クリムは一瞬悩んでしまう。

 だが、自分をわざわざ心配してくれたのだ。

 なら、ここで隠すのも失礼だろう。

 それに……ピーヌスは運命の半身で、自らの兄殺しを知っている間柄なのだ。

 ならば、言わないわけにはいくまい。


「……似てるんです、弟に」

「弟……?」

「兄を慕ってて、私が兄を殺したことで関係は冷え切りました、元々仲が良かったわけでもないんですけど……それで、結局そのまま私は病死して……せいせいしてたんだろうな」

「……思い出しちゃうのね」


 ピーヌスの言葉に、クリムは静かに頷く。

 そんな彼女をピーヌスは優しく抱きしめ……頭を撫でた。

 愛おしげな、慈しみに満ちた手つきだ。


「よしよし……そういう繊細なところ、私は好きよ」

「あ、ありがとうございます……でも本当に弟と似てるんですよね……まるで、生まれ変わりか何かじゃないかっていうくらい……」


 生まれ変わり、そう言いたいくらいリィはユウリと瓜二つ。

 中性的な顔立ち、小柄な背丈、そこまで筋肉のない体。

 ボブになっている髪型も含めて、全てが似ている。

 そんな容姿を見れば……どうしても 重ねてしまうのだ。


「あの……どうかされましたか?」

 

 クリムのそんな視線に、リィも気付いたらしい。

 おずおずと、クリムに質問をする。

 そんな彼に、クリムはパニックを起こしてしまう。


「え、ええと……前世とか生まれ変わりとか信じる?」


 つい、口をついで出てしまった言葉。

 やってしまったと後悔するがもう遅い。

 周りの目が点となり、ピーヌスが「あちゃー」と言わんばかりに頭を押さえた。


「何をいきなりスピリチュアル系になってんでぃ」

「あ、あー、いや、その……忘れてください……」


 もしも肉体が人間のままなら、顔が真っ赤になっていただろう。

 そのくらいの恥ずかしさと共に、クリムは縮こまる。

 縮こまったところで龍の体格では大きいままだが、そこはご愛嬌だ。

 一方、リィはというと……そんなクリムを見ながら、優しげに微笑む。


「ボクは、今というのはかつてできなかったことを成すために与えられた時間……だと思っています」

「かつて、できなかったことを……」

「そういう意味では、貴女の仰る前世や来世を信じている、と言えるのかもしれません、でもどうして急にそんな話を?」


 リィの問いかけに、クリムは答えられない。

 あなたがあまりに弟そっくりだから。

 もしかして生まれ変わりではないのかと思った。

 そんな風に素直に言えれば、どれだけいいことだろう。

 しかしクリムにはそれができず、沈黙が流れた。

 そこに助け船を出したのは……ケラススだ。


「そういやリィ、お前さんら二人の経緯をお浚いしたいんだが」

「あっ、はい!」


 ケラススへと向き直るリィに、クリムは安堵の息を吐く。

 そして一礼すると、ケラススは「気にすんな」とばかりに首を左右に振った。

 そんな安堵になど気付かないまま、リィは事情を話していく。

 事の起こり……だいたい一ヶ月前の出来事から……。

 


 元々、リィの家はブラエドでも有数の名家の一つだった。

 リィ自身も将来を期待されており、王族との婚姻すら既に決まっていたという。

 だがある日、リィはその身分を捨てることとなる。

 キメラの少女に出会ったのだ。

 彼女は生みの親である研究機関から逃げてきたようで、街の広場でまるで動物のように周囲を警戒していた。


「ねえ、あれ見て……」

「やだ、きたない……」

「どこから来たんだよ、ああいうののせいで平民全体が……」

 

 他の者は貴族も平民もみな彼女を汚らしく扱い、警戒する。

 そんな中、リィだけは純粋に彼女を心配し、手を差し伸べた。


「あの……大丈夫?」

「うぅ……」

「怯えなくても良いよ、ボクも……一人だから」


 リィは噛みつかれても優しく笑い、そんなリィに彼女も心を引く。

 だがそこへ、研究機関の者がやってきて、キメラの引き渡しを要求したという。


「引き渡しですか?」

「はい、そちらの獣は我らの所有物ですので」

 

 しかしキメラが怯えているのを見て、リィは義憤に震えた。

 こんな風に少女を怯えさせ、所有物扱いする。

 そんな者に義など有るわけがないと。


「断ります、この子は私が面倒を見ますので、それでは」


 わざと周囲に聞こえるよう、よく通る声を上げてリィは去る。

 人の目ができたことで襲って奪うわけにもいかなくなった研究員は、みな歯痒そうにしていたという。

 良いことをした……その確信は今でも持っているし、この時は上手くやったとも思った。

 一研究機関が名家に手を出すなど以ての外の越権行為。

 家に連れ込んでしまえば安全だ、そう思ったのだ。


「そうか……立派だぞ」

「ありがとうございます!」


 幸い両親も、少女の獣同然の精神には顔をしかめたものの……リィのノブレス・オブリージュ精神を認めて少女を保護することに同意してくれた。

 これからその少女には人相応の常識を教えよう、まずは新しい服を与えるところからだな、と父は言う。

 その様子に、リィは胸をなで下ろしながら……その日は少女と一緒のベッドで眠るのだった。

 だが……その矢先だ。

 少女に揺さぶられ、リィが起きたとき……。

 真っ先に感じたのは、木が焼ける嫌な臭いだった。


「くそっ、奴らめ……! 家に火を付けて押し入るか!」

「お父様!?」


 部屋に入ってきた父は、リィにこう伝えた。

 研究機関が訪問に来たが拒否したところ、家に火を付けて無理矢理押し入ったのだと。

 当然それが知れれば重罪となる。

 つまり研究機関の者は、リィの家の者を家族も使用人も皆殺しにしてキメラを奪う腹づもりなのだ。


「このままでは殺される、ならば私達に時間稼ぎを任せ、逃げるのだ! だがこの国の者はどこが奴らと通じているかは分からない……できる限り、東方へいけ!」

「ですが、お父様……!」


 自分を見捨てて逃げるよう伝える父に、リィは難色を示す。

 だが問答の暇などない、父は少女にリィを抱えて窓から逃げるよう命じ、少女は言葉が通じないなりに意図を理解して、頷く。

 そしてリィを連れて走り出した。


「いいか、お前は決して間違えてなどいない! 正しいことをしたのだ、ならば間違っているのは奴らだ! 後悔はしてもいい、泣いてもいい、だが常にその胸に己は正しいことをしたのだという誇りと正しさを抱き、立ち止まらず歩むんだ!」


 研究機関の者を引きつけるという意図も込め、父は叫ぶ。

 その声を聞きながら、リィは抱えられたまま涙を流し、燃え上がる家を見つめるしかできなかった。

 そうして、旅が始まったのだ。

 追っ手の可能性を考慮して町や村には寄れず、偶然出会った行商人から食料を買い、休みなく歩き続ける……。

 東へ、とにかく東へと……。

 しかしそうして歩き続ける中、父が咄嗟に託した路銀は尽き……。

 食料はあっという間に不足、歩き続けることもままならなくなった二人は山の中へ避難して、木の実や草、酷いときは木の根を食べながら生き続けていた。

 そんな極限状況は、まだ幼い二人に究極の選択をさせるには充分すぎたのだ。


「ボクは正しいことをしたはずなのに……どうしてこんなことに、ボクが正しいなら……何故苦しまなくてはいけないの……?」

「う、ぅ……」

「……ごめんね、お肉……食べたいよね……そうだよ、お肉だ……お肉を捕まえればいい、狩りができなくても、ボクの精神魔法なら……人間相手に、できる……正しくない奴相手なら、したって……」


 こうして、記憶を失ってなお山に忍び込んだ者は問答無用で追っ手と見なし、襲って食ってしまおう……という発想が生まれたのだ。

 子供らしい発想の飛躍……だが、発想の内容はあまりにも恐ろしい。

 ノブレス・オブリージュを志し、親から誇りを授かり、今はこうして大人しくしている控えめな少年……。

 それがここまで狂った発想をしてしまう。

 それこそが、彼らの経験した飢餓の恐ろしさを物語っている。

 クリムはただただ、息を呑むしかできなかった。


「ねるほどねぇ……ちなみに……その研究所ってグシ研か?」

「いえ……先ほどその……毒死した追っ手の方を確認したところ、クレフティス家の家紋が……」

「……そうかい、なるほどねぇ……」


 クレフティス家の名を聞き、ケラススは頭をかきむしる。

 そんな彼女の隣で、クルテルが書状を片手に耳打ちをした。


「お姉様、生物兵器の件……持ち込んだ奴の情報が出たみたい」

「ああ、だいたい予想はついてるが……言ってみな」

「犯人は、グシ研から研究結果を盗んだクレフティス家の者」


 名前を聞き、ケラススは「だろうな」と言わんばかりに息をつく。

 そして目を細めると、ゆっくりとリィの頭を撫でた。


「しゃあない……うちの傭兵団でお前らを保護するよ、そうすれば奴らもそうそう手を出せんさ」

「ほ、ほんとですか……!? ありがとうございます! ここまでよくしてくださって、どうお礼をすれば良いのか……!」


 感涙するリィ、そんな彼女をキメラの少女が心配そうに見つめる。

 だが彼女の頭を、ラクエウスは「これは良い涙なのよ」とポンポン叩く。

 その姿を見ながら……プラケンタはおっとりと首をかしげた。


「ねえねえ、気になってたんだけど、その子のお名前は?」

「あ、えっと……私は、便宜上ウーちゃんって呼んでました……けどそうですよね、ちゃんとした名前……考える余裕、もうあるんだ……」


 改めて、自分の状況が好転していると確信して涙を流すリィ。

 その涙を見ながら……クリムは、ふと口を開いた。


「じゃあ……ウルスちゃん、なんてどうですか?」

「ウルス……? いい名前ですね、これからあなたはウルスちゃん、大丈夫?」

「う……」


 どうやら、特に嫌がる様子は無いらしい。

 そのことにクリムは内心安堵する。

 まだ、弟の生き写しであるリィに苦手意識はあるが……。

 だが、これからは共に旅するのだ。

 ならば、こちらから歩み寄って苦手意識を無くしていく。

 そのくらいのつもりでいた方が良いだろう。


「わぁい、じゃあじゃあ、クリームでウルスって書いたスペシャルケーキ作るね!」

「またケーキ? 栄養が偏るのは良くないから、もっと別のにしなさい」

「えー、じゃあカペルちゃん、メニュー一緒に考えてよ」


 名前が決まったということで、わいのわいのと騒ぎ出す一同。

 そんな中、ケラススがクリムを向く。


「さて、じゃあこれで俺らの寄り道は終わりだ、明日からはテルメ村を経由して猫又之国……改めてよろしく頼むぜ、雇い主様」

「あっ、はい、よろしくお願いします!」


 がっちりと握手を交わすクリムとケラスス。

 その様子を、ピーヌスとクルテルが見守る。

 その時だ……突如、誰かが倒れる音がした。

 音の主は……今詰め所に入ってきたルーヴとガットネーロだ。

 その顔色はどちらも青い。


「ヤバいッス……一大事ッス……」

「ああ、もうダメかもしれん……」

「いったい何が……!?」


 駆け寄り、抱き上げるクリム。

 そんな中、ルーヴはよろよろと壁を指さす。

 そこには……袋があった。


「あ、あれでいい……何か袋を……」

「へ?」

「お酒、飲んでたら……飲んだ数食べた数の管理が、急によく分からなくなって……飲み過ぎ、食べ過ぎで……」

「吐く……あたし達は、このままでは……うっ、おろろろろろろろ」


 クリムの腕の中、限界を迎えて嘔吐するルーヴ。

 吐瀉物はどこに当たるかは言うまでもない。

 こうして、スタッフ詰め所にクリムの叫び声が響き、リィはしばらく謝り続けるのだった。

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