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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第一部 午刻の章 ―― 龍になった少女 ――
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第二十一話 穴の底と名も無き者

 遺跡の奥、深い穴の底……。

 そこには確かに、都市があった。

 肩に落ちてきた蛇の抜け殻への恐怖から、一気に底へと落ちた二人。

 その視線は、わずかな光に照らされた町並みに釘付けだ。


「これは……凄いわね」

「……」


 呟きながら建物を見るピーヌス。

 その隣で、クリムはただ愕然とする。

 なぜなら……。


(……コンクリート、ビル……!?)

「これ、どういう造りなのかしら……石とも木とも違う……これも遺失文明なの?」


 呟きながら、奥へ歩いて行くピーヌス。

 辺りにトラップは無いということなのだろう。

 それもそのはず。

 辺りは日の光一つ差さない真っ暗闇だが……どう見ても、ただのビル街と道路なのだから。


(倒れてる建物もいくつか有る……何故……?)

「クリムちゃん? どうかした?」


 ピーヌスに声をかけられ、クリムはハッとなる。

 だが……足が重い。

 このまま進んでしまえば、知るべきでないことを知ってしまうのではないか。

 自分が今いる世界はシャングリラ・オンラインの世界だ。

 その前提が全て覆ってしまうような気がして、どうも足が進まない。

 そんなクリムの手をピーヌスが優しく引いた。


「怖いのね……でも大丈夫よ、罠とかはないから、ほらこっち」

「あっ……」


 ピーヌスに手を引かれ、クリムは歩き出す。

 その時……ビルの隙間から、それが見えた。

 かつて病院の窓から見ていた中華料理屋……その看板が。

 一度で良いから行ってみたいと願い、ずっと叶わなかった場所。

 なのでよく覚えている、見間違いなどではないはずだ。


「ここは、もしかして……」

「……? 何か心当たりがあるの……?」


 ピーヌスに問われ、クリムは生唾を飲み込みながら辺りを見回す。

 そして……クリムは見つけた。

 見覚えのある白い建物を。

 兄が見せてくれた、外からの写真で見たその形……。

 忘れもしない、自分が生き、そして死んだ場所。


「天子田総合病院……」

「総合病院……? 何かしら、どこかで……」


 額を指で押さえるピーヌス。

 その隣で、クリムは一歩一歩と、病院へ近付いていく。

 そして、その中へゆっくり入っていった。


「……知ってるんです」

「……! 病院、そうか、クリムちゃんが過ごしてたっていう……!?」


 ピーヌスの問いに、クリムは静かに頷く。

 その視線の先には無人の受付が見える。

 物は散らかり放題で、何があったのかは分からないが相当な騒動が起きたようだ。


「でも、なんでその病院がここにあるの? 実はクリムちゃんって古代人……?」

「わかりません……何も分からないんです」


 首を左右に振り、クリムはエレベーターを見つめる。

 昔、院内だけなら動いて良いと言われたときに使った覚えがあるエレベーター。

 しかし、今は電力が通っていないようでパネルには何の表示もない。

 その隣の階段なら、なんとか上り下りができそうだ。


「その……6階に行っていいですか?」

「ええ、いいけど……」


 問いかけるクリムの腕を、ピーヌスが握る。

 実はこういう雰囲気が怖いのだろうか、その顔は不安げだ。

 そんなピーヌスを抱き寄せ、クリムは自身の熱を分け与える。

 人間だった頃に莉子が教えてくれたことだ。

 不安なときでも抱き寄せ合って、互いの熱を分け合えば乗り越えられる。

 最期は重病者用の個室に移動したため、それもままならなかったが……。

 今はそれができる。

 それは人間だった頃にはなかった、確かな強さだろう。


(ピーヌスちゃんが一緒で良かった……)


 きっと一人きりなら、この階段を上るのを躊躇っていただろう。

 そう考えながらクリムはゆっくり階段を上る。

 1階から2階へ、2階から3階へ……。

 確実に上っていく二人。

 そして、とうとう6階に到着した。


「ねえ、この階に何があるの?」

「……もしここが私の思うとおりの場所だとしたら……私の、病室が」


 病室、そう言いながらクリムは息を呑む。

 目の前には馴染みのあるナースセンター……。

 だが、そこにも誰もいない。

 棚は倒れ、物は散らばり……荒れ放題だ。

 そのナースセンターの右側、重病患者用の個室病棟にユウコはいた。

 ……正直、見るのが怖い。

 だがここで恐れに屈しては、何故ここまで来たのかが分からないだろう。

 クリムは意を決して、右を向いた。

 そこには……。

 

「これは……」


 乱れたシーツ、血の痕がついた床……。

 置かれたままのノートPC、ヘッドセット……。

 そこはまさしく、辰巳ユウコの病室だ。

 ドアの隣のネームプレートには辰巳ユウコと書かれており、ここがユウコの死んだ日そのままだということを伺わせる。

 まるで時が止まったかのような光景。

 だが……一つだけ違いを述べるならば、ここにはユウコの死体が無い。

 あるのはシーツに残る痕跡、吐き出した血、そして遺品だけだ。

 時が止まったかのような光景なのに……それだけは違う。


「……ここが、私の死んだ場所です」

「そうなの……? ねえでもこれ」

「ええ、掃除も何もされてない……」


 クリムはユウコのノートPCを触るが……かなり時間が経ったのだろう、充電は切れており起動する様子は無い。

 勿論、起動したところでネットになど接続できないと思われるので、意味は無いのだが……。

 それでも触ってみたいと思ったのは、淡い期待だったのだろうか。


「それは……?」

「え、ええと……」


 PCを指し、それは何かと聞くピーヌス。

 しかし、なんと説明すれば良いのか分からずクリムは辟易してしまう。

 この装置からこの世界を見ていた、そう言えばいいのか……。

 ゲームというものに関して説明するべきなのか……分からない。

 この世界がゲームと瓜二つで、ゲームの世界に転生したと思っていたこと。

 だが、それに対して若干の疑いを持ち始めてきたこと……どこまで話して良いものか。

 話すとして、どう説明すれば理解してもらえるのかすら分からない。

 そこまで考えたところで……背後から、足音が聞こえてきた。

 カツン、カツンと廊下を歩く音だ。


「……!?」


 振り返り、目を見開く二人。

 そこには……クルテルがいた。

 だが服装はいつもの服とは違い、白衣だ。


「……!? クルテルさん、どうやってここに……」

「……? その名はなんだい、火龍の君」

「え……?」

「だいたい1000年ぶりかな、また来るなんて珍しい、かつての人間は? ああ、そうかもう死んだのか、だから龍といるわけだ」


 クルテルと同じ見た目だが……彼女の口には笑みが浮かんでおり、全く違う印象を受ける。

 だが……何を言っているのかはよく分からない。

 その面はクルテルと同じだろう。

 

「あの日託した卵は元気?」

「あの……何を? 私は確かに火の龍ですけど……」

「……? 別の龍なの? そっか、ここにずっと暮らしてると記憶が曖昧になってくるんだよね、数少ない来客だから覚えてたつもりなんだけど」


 頬を掻き「いやあ、失敗失敗」と笑う女性。

 彼女はそのまま一礼すると、改めて笑みを浮かべた。


「改めて自己紹介……私は、自分の名も忘れた女、昔ここに来た訪問者二人は……私のことをこう呼んだよ、ノーメン・ネスキオー……略してN.N.と」

「N.N.……」

「友達の付けてくれた名前だからね、これだけは覚えていた……名乗る機会は今までなかったが」


 暗い世界、廃病院。

 そんな場所には似合わないほどのまばゆい笑み。

 それを浮かべながら、N.N.はゆっくりと伸びをした。


 その頃……地上では。


 発掘員詰め所にて、休んでいる大罪の7姉妹たち……。

 その中で、ふとクルテルが顔をしかめた。

 不愉快、といった表情だ。


「ウロボロス……あれに会うよう、仕向けたか……」

「ん? どうかしたか?」

「なんでもない、お姉様」


 クルテルの呟きに、ケラススが目を向ける。

 だがクルテルは首を左右に振るとそのまま詰め所を出て行く。

 そして空を見上げると、小さく息をついた。


「あれが人に触れるのは神とて不快……でも、仕方がない……」


 クルテルは首を振り、空を見るのをやめた。

 そして、遺跡へ行くか否か迷っている様子でじっと遺跡を見る。

 しかし……そんな気分ではなくなったのか、腕を組むと詰め所の中へ戻っていくのだった。

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