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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第一部 午刻の章 ―― 龍になった少女 ――
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第十九話 裸の毒龍と高い服

 ルイン村へと飛ぶ二人……。

 クリム、そしてピーヌス。

 かつて彼女らは龍人と人間だった。

 しかし今は、何の因果か共に龍人となっている。

 不思議な運命だ、クリムはそう思いながら飛んでいた。


(ピーヌスちゃん、ほんとに平気なのかな)


 内心心配だが、気にしても本当のことはあまり言ってくれないだろう。

 ピーヌスはそういう気遣いをする人物だ。

 実際の付き合いこそ短いが、5年間見続けている以上それくらいは分かる。


「あ、村が見えてきたわよ、地理からしてあれがルイン村……遺跡がほんとにいっぱいね」

「ほんとだ、みんなの馬車も今入るところですね」


 心配させる前に合流できて良かった……そう考えながらクリムは息を吐く。

 しかし……空から見るルイン村の風景、それに見覚えがあってクリムは動きを止めてしまう。

 そう、確か……かつてシャングリラ・オンラインでクリムゾンフレアの目を通して……この風景を見たのだ。

 だが、少し違和感を覚える。


(祭りの天幕、遺跡……でも、違う……私が見た風景では、確か村は風化してボロボロで、人もいなくて……)


 そう、クリムの記憶の中では……ルイン村はもう誰もいなかった。

 もぬけのからになった街で、ただ祭りの跡だけが残り……言うなれば、廃墟のような光景になっていたのだ。

 その光景を指して、ピーヌスはこう言った。

 数年前に祭りの途中で何かが起き、人が誰もいなくなったらしいと。

 後から来た人は残った温かい料理や片付けられていない天幕を見て、謎の消失事件と恐れ触れ回ったという。

 それにより、盗掘者ですらこの村には立ち寄らず、呪われた遺跡と恐れられるようになった……。


(けど、クリムゾンフレアは恐れず遺跡に入り、遺跡の謎を解き明かしたんだよね……)


 クリムゾンフレアがどんな冒険をしたのか思い出そうとするクリム。

 だが……思い出せたのは、遺跡の中で誰かに会ったことくらいだ。

 それが誰だったのか……思い出せない。


(ええと、誰だっけ……)

「みんな! 合流できて良かったわ、はぐれて死ぬかと思った!」


 考え事をしているクリムの隣で、ピーヌスがようやく止まった馬車に向け飛んでいく。

 その声を聞いて、御者台からガットネーロが空を見上げるが……。

 その表情は、すぐに訝しげに変わった。


「ああ、ピーヌスさ……誰?」

「そりゃあピーヌスよ、声で分かるでしょ」

「……そッスね、ピーヌスさんだ」


 理解にかかる手間を拒んだのか、ガットネーロが思考放棄する。

 そんな彼女の隣にルーヴがひょっこりと顔を出した。

 ……そして、馬車の中に戻った。


「寝ぼけているかもしれない、クリムとはまた違う龍がピーヌスの声でしゃべっている」

「夢じゃないわよ、ピーヌスよ、今日から龍になったのよ私は」


 地面に降り立ち、馬車の天幕に顔を突っ込むピーヌス。

 その様子にルーヴは驚愕し、目をこする。

 その反応も仕方が無いだろう。

 ピーヌスを名乗る紫紺の龍がピーヌスの声で俄には信じがたい事を言うのだから。

 だが、その様子がピーヌスは不愉快なようだ。


「何よもう、信じてくれてもいいじゃない」

「いや、信じる信じないじゃなく……少し時間をくれ」


 混乱を抑えるので精一杯のルーヴは、額を押さえて目を細める。

 その様子を見ながらケラススは愉快そうに大笑いした。


「がはは、まあ生きてりゃあ人間が龍になるくらいあらぁな」

「いや、有りませんわよ」


 冷静に突っ込むカペルの隣で、クルテルは「流石お姉様」と腕を組む。

 和やかな光景だが、ピーヌスはやはり不満げだ。


「もっと格好いいとか凄いとかないの?」

「格好いいッスよピーヌスさん」

「うわっ、心こもってない!」

「そりゃこめてないッスし」


 馬車から外した馬を貸し厩舎に入れ、戻ってきたガットネーロ。

 そんな彼女の明らかに適当にあしらう態度……それがピーヌスの苛立ちを加速させる。

 彼女はその気持ちを解き放つかのように飛び上がると、クリムに抱きついた。


「もう! やっぱり私を満たしてくれるのは同族のクリムちゃんだけなのね!」

「同族って、元人間と純粋な龍人じゃ違うんじゃないッスか?」

「ふふん、そんなこと無いわよ」


 クリムは元人間、自分しか知らない秘密。

 それを共有していることの喜びに、ピーヌスは胸を張る。

 人間だった頃と比較して、体がでかくなったことにより当然サイズのでかくなった胸を。

 丸出しの胸を……惜しげもなく張る。

 その瞬間、何事かと見守っていた男達から声が上がった。

 祭りの最中で人が多いだけ有り、視線の数は計り知れない。


「ピーヌスちゃん! 服買いに行きましょう! ルーヴさん、お金!」

「はっ、そ、そうね、お財布をお願い!」

「ん……? あ、ああ、分かった」


 視線に気付いて声を上げたクリムに、ピーヌスも恥じらいを取り戻す。

 やはり龍の本能に流されているのだろう。

 はたまた、隠していただけでこういったテンションを内に秘め続けていたのか……。

 何はともあれルーヴに金を渡され、クリムとピーヌスは装具屋と書かれている看板を目指し、飛んでいく。

 その背中に、ケラススが声をかけた。


「俺たちゃあ村の奥にある発掘員詰め所に向かう、後で来てくれや!」

「分かりました!」


 返事をし、後ろを振り向くクリム。

 その隣で……装具屋に入ろうとしたピーヌスが、思い切りドアの上に頭をぶつけた。


「痛い……! わけじゃないけど、反射的に声が出るわね……ううん、不便だわ……もっと大きな建物にすれば良いのに」

「まあまあ、しょうがないですよ……」


 龍になったばかりの自分と同じようなことをピーヌスがしている。

 それがなんだか嬉しくて、クリムはついつい笑みを浮かべてしまう。

 そんな気持ちが通じたのか、ピーヌスは怒ることもなく笑みを浮かべた。


「いらっしゃ……おお、これは大きな……」

「ええと、どうも……彼女に合うサイズの装備が欲しいのですが」


 クリム達のサイズに、店長が気圧される。

 大きなと言った瞬間、視線が胸の辺りを見ていたのは気のせいだろう、恐らく。


「ローブが欲しいわね、毒龍に相応しい真っ黒なもの」

「ほう……ローブですか」


 ローブと言われ、店長は目を細める。

 何か思うところがあるようだ。


「この村で、ローブは高級なのですが」

「えっ、嘘……私サイズでどれくらい……?」

「だいたい、1万ですな」


 1万、街を苦しめる山賊団の討伐と同じ金額。

 それだけするローブというのは流石に暴利だろう。

 ピーヌスは思わず、むっとしてしまう。


「それは高すぎない……?」

「まあまあ、落ち着いて……貴女は恐らく、魔術師ですな? その胸に灯る龍玉……その大きな力で分かります」

「あら……だから胸を見ていたの?」


 ピーヌスの言葉に、店長は「そうです、そうなんです、本当です」と言って顔を赤らめる。

 ……正直、嘘だろと追求してやりたいとクリムは思ったが、それをしていては話が進まないのでグッと我慢した。


「この村で使う繊維は近隣の遺跡の影響で魔力を有しているのです、魔力を発する遺跡のお膝元で育った植物はどうしても魔力を宿し、そして……反発が生まれる」

「反発、それってなんですか?」

「強い魔力を持つ生物が魔力を持つ物体を纏うなら、相応の魔力を有する物でないと、魔力の反発で装備が壊れてしまうのです、あなたのその鎧も高かったでしょう?」


 鎧を見るクリムに、ピーヌスは「私の杖みたいなものね」と松の杖を見せる。

 その松の杖も大分限界が来ているような様子だ。

 クリムは自分の装備が高価な理由を金額に愕然とするあまりよく聞いておらず、サイズによるものだと思っていたので意外そうだ。

 一方、ピーヌスは納得がいった様子で頷いている。


「まさか……私、そんな高価なものが必要なくらい強くなっていたのね……」

「ええ、その杖の様子からして貴女は最近魔力が跳ね上がったのでしょう」

「ちょうど今日ね」


 しっかりとした理由が提示されてしまえば、もう文句は言えない。

 だが……流石にここまでの金を出す余裕は無かった。

 かといって全裸でいつまでも過ごすのは、先ほどのような視線を浴びることになって良くないだろう。

 どうしたものか……と二人は顔をつきあわせて悩む。

 その時、店長は突如笑い声を上げた。


「ほっほっほ……お二人とも、ここが何の街かお忘れですかな?」

「え……?」

「ここは遺跡とアーティファクト、そしてアウルムラッシュの街!」


 店長が腕を広げ、魔法による演出なのか周りに光が灯る。

 それはもう見事な金色の光だ。

 ザ・マネーと言わんばかりの輝きにクリムは息を呑む。


「発掘隊に協力して稼げば、これくらいすぐですよ!」

「なるほど……その手があったわね!」


 お金への興奮に、ピーヌスの龍玉が金色に輝く。

 その隣で、クリムは発掘協力という未知の響きに心躍らせ……。

 同時に、記憶の彼方に飛びかけていた、この村を襲う災禍について思い出した。


(クリムゾンフレアは、遺跡の中で何かが起きたって踏んで遺跡に入ったんだよね……)


 この先で何が起きるかは分からない。

 だが……もしかすると、今遺跡発掘に協力するのは、これからくる災禍を消し去るための一歩になるかもしれないと考える。

 そんなクリムの気持ちなどいざ知らず……。

 ピーヌスは、お金を手に入れて新たなローブを購入するという野望に胸躍らせるのだった。

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