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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第百十四話 それぞれの前夜 その4 酒と神と震えと女

 酒と泪と男と女。

 それはいつだって切っても切り離せない存在だ。

 世界がどれだけ変わっても、一度滅びて新生しても……永遠に変わらない。

 というわけで、現在の世界においても酒にそれらは付き物なのだ。

 現在この場、ニライカナイの酒場で開かれた酒宴の席には……。


「かあッ! やっぱニライカナイの酒はうめぇなあ……! おらN.N.お前さんもしっかり飲みな!」

「お、お姉様とお酒……うう、ずっとあの世界に一人だったからかな、なんか泣けてくるよお……」

「へへっ、ったくお前さんは大げさだなあ……ちったあ泣きやみな、涙が酒に混ざっちまう」

「は、はい……!」


 笑いながら酒をあおるケラススに、泣きながら酒をすするN.N.がいたりする。

 この時点で酒と泪と女が揃い、ほぼ役満……リーチの状態だ。

 では男はどこなのか?

 それは今から合流し、ようやくツモとなるのだ。


「ほらマキャベル、早く早く!」

「あ、あのカペルさん……私は場違いかと思うのですが」

「おう、お疲れさん! まあ気にすんな、酒に場違いも筋違いもねぇからなあ……有るのはうめぇかまずいか、それだけだ」

「は、はあ……」


 カペルに手を引かれて入店するリオン。

 そんな彼にケラススが手を振る。

 マキャベルはこの店舗における謂わば黒一点の存在だ。

 現在ここで酒を飲んでいるのは大罪の七姉妹とN.N.のみ。

 見事なまでに女性ばかりで緊張しているのだ。

 しかし逆に女性陣は特に気にしていないようだ。

 酒を飲める年齢の面々は自由気ままに酒を飲んでいるし、飲めない年齢の面々もそれぞれ他の飲み物を飲んだり、談笑したりと思い思いの過ごし方をしている。

 言うなればパーティーというよりも、酒を飲んでいたら偶然気の合う連中が集まったので各々が好きにしているような状態なのだ。

 ならば特に場違いなど気にする必要も無いだろう。

 ここに居る面々はみなそう思っているようで、特に異論を唱える者はいない。

 良いのかなあ……と思いつつも、異論を唱える者がいない状態で自分だけノーと言うわけにもいかないだろう。

 そういった立ち居振る舞いの方が世間では空気を読めないと言われるのだから難しいものだ。


「では、お言葉に甘えて同席させて頂きます」

「おう、じゃんじゃん飲みな!」

「私が注ぐわね、マキャベル!」


 言葉に甘え、酒を飲むリオン。

 控えめな振る舞いだが、そのペースは意外に速い。

 グラス一杯分の蜂蜜酒を軽く飲み干し、酔った様子も無く再度注いでいる。

 線の細い学者といった見た目からは想像できない酒豪ぶりだ。

 もしかするとこの中でも一二を争う酒の強さかも知れない。


「へえ……あなた意外と飲むのね」

「北部は寒冷地特有の果実が実りますからね、果実酒を作っている街も多いので若い頃から酒に親しむ人も多いんですよ」

「なるほど、土地柄によって飲酒の強さも変わるか……そういうのって興味深いわね」

「貴女は私の前世を知っているということでしたが、その人は酒は強かったのですか?」

「実は……あまり長く一緒にいられなくて、その辺りを知る前にはもう……」


 酒談義や前世の話に花を咲かせるカペルとリオン。

 その姿を見ながら、ソヌスは目を細め……カントゥスは笑みを浮かべている。

 ソヌスの考えていることなどお見通し、とでも言いたげな目だ。

 そのイタズラっぽい雰囲気にソヌスは思わずたじろぐが、カントゥスはお構いなしに笑みを深くする。


「終わったら一回帰郷しようかなって顔だ」

「お見通しか……ま、ちょっとくらいはババア孝行してやっても良いかなってな……そんだけだよ」


 肩をすくめ、息を吐くソヌス。

 その隣でカントゥスは「素直じゃないなあ」とニヤニヤする。

 そんな彼女を肘で小突き、ソヌスはもう一度息を吐いた。

 ただし今回はため息ではなく、漏れ出た笑いの息だ。


「からかうなっつーの」

「じゃあ、からかわれるような振る舞いしなきゃいいんじゃない?」

「おっ、生意気言いやがって……」


 口調こそ乱暴であるものの、その顔は笑顔だ。

 気心の知れた者どうし、気安い関係であることがうかがえる。

 流石は幼馴染み……といったところか。

 しかし幼馴染み同士の以心伝心ぶりといえば、ラクエウス達も負けていないだろう。


「ラクエウスちゃんおかずできたよ、今日は少し疲れてるだろうから、あっさりめで栄養価が高い奴にしたんだ」

「あら、わたくしの気分にちょうど合う食べ物ですわ! んー、やっぱり幼馴染みって良いですわね、わたくしを誰よりも分かってくれてる!」

「へへ、だって物心ついたときから一緒だもんね、私達」


 レタス、トマト、コーン……そんな野菜ベースのあっさりしたサラダスープを作ってきたプラケンタに、ラクエウスは思わず抱きつく。

 そんな彼女を受け止めながら、プラケンタは机にスープを置いた。

 とても微笑ましい光景と言えるだろう。

 見ているとなんだか、スープのように腹の底から温まってきそうだ。

 そんな温かく穏やかな光景の中……ぼんやりと隅っこで酒を飲んでいる者が一人居る。

 ……クルテルだ。

 どうしてもまだN.N.を受け入れる気になれず、遠巻きに眺めるしか出来ないのだろう。

 感動し涙を流す自分のかけら、自分が切り捨てた弱い部分、脆い部分の結晶……それを見るのは確かに複雑な気分になってもしょうがない。

 勿論、愛しい姉に言われた言葉だってちゃんと理解している。

 彼女という弱さ、脆さと向き合い受け入れてようやく人を完全に知ったと言えるのだろうということも理解しているのだ。

 だが、理解しているからといってその行為が出来るとは限らない。

 まるで人間のような矛盾だ。

 神という概念が概念であり続ける限りは、そんな矛盾は孕まなかっただろう。

 もちろん、混沌の神のように多様性を持つ神や、矛盾そのものの神だっている。

 だがクルテルは希死念慮の神。

 希死念慮は死にたい気持ちというただそれだけで、矛盾など一切孕みようがないもの。

 なのに今はこうも矛盾を抱えている。

 もし完全に人同様の存在になれば、その恐怖に押しつぶされるかも知れない。

 それでいざという時に何も出来なければ、それは最悪の失策だ。

 また1万年、いやもしかするとそれ以上の長きにわたり苦しみ続ける事になるだろう。

 ……と、そこまで考えてクルテルは気付いた。


「あれ……? 私は、恐れも脆さも捨てたはずじゃ……? N.N.はその結晶のはず……なのに、どうして……?」


 そうだ、ふと気付いてしまったが、自分は捨てたはずの恐れを再び抱き始めているのだ。

 酒が入ったせいなのかは分からないが……どうしようもない脆さを再度抱え始めているのを実感し……今震えている。

 これが堪えきれなくなったら、自分はどうなってしまうのだろうか。

 いや……そう考える時点でもう堪えきれていないのか?

 一つ言えるのは……もしかすると、自分とN.N.は別の存在になり始めているかも知れないということだ。

 震えながら、クルテルは頭を抱える。

 顔を下に向け、喧噪の中で切り離されたかの如くただ静かに……。

 そんな彼女の視界の中に、足が見えた。

 顔を上げるとそこには……ケラススがいる。

 ケラススが、自分へ手を伸ばしているのだ。


「おい、大丈夫か?」

「あ……」


 彼女の顔を見ていると、少し不安が消えていく。

 とはいえ、ほんの少しだ。

 心の底から不安が消えたというわけではない。

 消えたわけではないのだが……。

 だというのに、自分が強くなれたような気がした。

 これが人に近付いていくと言うことなのだろうか。

 不安を抱き、不安を拭う存在に触れ、その為に何かをしたいと思うこと。

 それこそが人となり、人として成長し、生きていくことなのだろうか。

 生を自覚し、今クルテルは心ときめかせている。

 だからこそ……同時にもう一つ、切っては切れないものも自覚してしまった。

 生の終着点はいずれ訪れる死だ。

 それを意識すると体がまた震え出す。

 自分は果たして、この震えを振り切って立つことが出来るのだろうか。


「クルテル? 立てるか?」

「う、うん……お姉様……」


 不安しかない内心をなんとか奮い立たせ、手を握る。

 立ち上がって前を見るが、ざわめく心が落ち着かない。

 それでも何とか立とうとする自分の姿は、果たして周りから見てどう写るのだろうか。

 もしかすると、無様なのかもしれない。

 どうしようもなく醜く、どうしようもなく脆い姿をさらしているのかも知れない、もしそうだったらどうすればいいのか。

 そんな不安を抱きながらクルテルは顔を引き締め……。

 なんとか、どうにか不安を隠し通そうとするのだった。 

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