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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第百十話 記憶喪失と付き纏う過去

 かつてサーペンタインの兵士がキケロ大橋での作業に際し、北上して北部の橋を渡るしかないと言ったように……アルテューマ領はニライカナイと地続きになっている。

 アルテューマ領の先に橋があり、そこを渡ることで北部との行き来が行えるという形なのだ。

 なのでアルテューマ領を制圧し、北部侵攻部隊の協力を取り付けた今となっては、ニライカナイからの侵攻部隊の排除及び奪還を行った部隊との合流は実に容易。

 行軍すること一日で、クリムゾンフレア達はニライカナイに辿り着いた。


「クリムゾンフレア、無事だったか」

「ああユウェル、そちらも大丈夫だったか?」

「ああ、一部殉職者は出たが……幹部級に被害は出ていない」

「そうか……また戦没者墓地を作らなくてはな、だが今はまず生きている者の無事を喜び、次に備えよう」


 ニライカナイの入り口で互いの手を固く握りあうクリムゾンフレアとユウェル。

 二人は見つめ合い、互いの考えを確かめる。

 クリムゾンフレアがどうするつもりなのかは、ユウェルもよく理解しているのだ。


「すぐに行くのか、ブラエド本土へ」

「ああ、魂を取り込むことで力を得ようとしているという推察が正しいなら恐らくはすぐ異常事態に気付くだろう、ならばそれより先に短期決戦を仕掛ける、明日に出立だ」

「分かった、全員に伝えておこう」

「あ、ちょっとあれ……!」


 相談をしながら歩く一同……そんな中、ピーヌスが声を上げる。

 そこでは……一人の女が、ニライカナイの市民に殴られていた。

 その市民の顔はピーヌスにもクリムゾンフレアにも見覚えがある、確か自分達に敬礼をしてくれた衛兵だ。

 何故彼がそのような真似をするのかが分からないが……咄嗟に間に割って入る。


「待て、何をしているんだ」

「ちょっと、嫌なことでもあったの?」

「あなたは……ピーヌスさん、それにもしかして……あなたはあの時の……? 大分姿は変わってますけど……」


 割って入った二人を見て、衛兵は目を見開く。

 そして……静かに、かつ憎々しげに後ろの女を指さした。

 促されるようにして二人も女を見つめる。

 そこにいたのは……。


「……! マルガリタ・セバス……!」

「ちょっとちょっと……! なんでここに?」

「あの、あの……あなたも、私を知ってるの……?」


 マルガリタの問いかけに、クリムゾンフレアは目を見開く。

 それも当然だろう、彼女はクリムゾンフレア達を憎んで暴れ回っていた時と全然様子が違う。

 か弱く大人しく、そして儚い……そういった雰囲気なのだ。


「……言い忘れていたな、マルガリタは過去の記憶をなくしているんだ、クルテル曰く……一度死に甦ったことで、魂に欠損が生じエピソード記憶? それだけが抜けてしまっていると」

「なるほど、兎に角記憶喪失なのね……」

「ああ、だが戦闘技術は失っていない、それを活かしてクリムゾニア軍で戦わせることを償いにしようという意見が多く出てだな」


 マルガリタが一番の得意である槍に関して凄まじい冴えを見せたこと。

 そして実際ニライカナイ奪還において大きな力となったことをユウェルは話す。

 しかし、同時にニライカナイ奪還後は……。


「こうして、かつての彼女を恨む者達との諍いが絶えないってわけね」

「そういうわけだ、だからニライカナイ奪還に参加させるのはどうかと思ったんだがな、ニライカナイ占拠を指揮した以上、奪還に参加しなくては償いにならないという意見も多く、こうして参加して貰った」

「償いか……記憶を失った状態というのが残念ではあるが、それをするという意思が大事だからな、応援はしよう」

「あ、ありがとうございます……」


 激励するクリムゾンフレアに、怯えた様子でマルガリタが一礼する。

 威圧感のある見た目をしているのは自覚があるのだが、こうして実際に怯えられるのは少しダメージがあるものだ。

 敵対している者や戦場で相対した者ならまだしも、こういった場面でとなると尚のこと。

 そう思うのは、かつての辰巳ユウコもクリムゾンフレアも、どちらも病に厄災と周囲から不当に怯えられることがあったからなのだろうか?

 そんなことを考えていると、衛兵が突如自分の足を殴った。

 やり場のない怒りをぶつけているのだろうか。


「ピーヌスさんやクリムゾンフレアさんはそれでいいんですか、彼女は町長を、それ以外にも多くの人を殺したんですよ、あの時クリムゾンフレアさんが怒りのあまり前に出ることがなければ皆死んでいたんだ……それを避けて報復に石を投げつければ、その報復に国に逃げ帰ってまた兵を連れてきて、ここを占拠して……そんな女なんですよ!」

「……難しい話ではある、私もかつてのマルガリタ・セバスの所業は許せない」

「私だってそうよ、絶対に許しちゃいけないと思う」

「……」

「だったら! ブラエド軍人のマルガリタですよ、マルガリタ・セバスなんですよ!? 殺せば良いじゃないですか、死刑で良いじゃないですか!」


 衛兵の言葉に、クリムゾンフレアもピーヌスもユウェルも、他の誰も返す言葉が思い浮かばない。

 何をどうすれば良いのか分からないのだ。

 記憶を失った大罪人を、それ以前の罪で裁くのか否か……。

 この問題にきっと一つだけの正解なんていうものはない。

 マルガリタを生かすも殺すもどちらも正解なのだ。

 ではそのうちの最善手とは何なのか。

 そこに答えを出せる人間は誰一人としていない。


「虐殺の非道を行い、返り討ちに遭ったら逃げ帰って、仲間を連れて報復の制圧に来る破廉恥で無様な女なんですよ! 何を迷うんですか!?」

「……ごめんなさい、本当にごめんなさい……私は、百発でも千発でも殴ってくれて良いです、蹴ってくれても良いです、でもせめて記憶になくともかつての罪を、償うチャンスを貰えませんか?」

「……死ね! 死んじまえ! お前なんか死んじまえ!!!!!」


 衛兵の絶叫が響き渡る。

 それを聞きながら、マルガリタはただ頭を下げ続けていた。

 地面に額をこすりつけ、ただひたすらに……。

 そんな姿がかえって気に入らないのだろう。

 衛兵は走り去っていく。

 それを見ながら……ペペリは息を吐いた。


「変わったね、マルガリタ」

「……あなたは?」

「あー、そっか、私も忘れられてるのか、ペペリ・アルテューマ、年下だけど同期の騎士だった、マルガリタとバンディーと私……懐かしいなあ」


 山賊長バンディー、クリムゾンフレアが最初に戦った山賊の長……。

 その名はもうクリムゾンフレア達も覚えていない。

 マルガリタすら忘れているが、ペペリには忘れられない名前だ。


「アイツはよく言ってたよ、名誉を失った家系に生まれて、本当は名誉回復と誰かに都合良く愛されることしか頭にないのに、表向き真面目な風に取り繕って……そんなマルガリタはいつか表向きの真面目さと本性の矛盾に殺されるって、本人に言うときは流石にある程度の言葉は伏せてたみたいだけど……アイツの予感、当たっちゃったんだな」

「私、そんな家の出だったんですか……?」

「そう、親の敵前逃亡で全ての名誉を失った騎士の家、だから歪んでいて必死だった、不真面目なのに真面目さを取り繕うマルガリタ、正義感の為なら人を傷つけられるバンディー、恨みを笑顔で隠す事しか選べない私……歪んだ者どうしだから仲良しだったのかもね」


 ペペリはそう言うと、目を閉じて静かに涙を流す。

 同期が片や虐殺犯からの記憶喪失、片や山賊長になってからの生首。

 形は違えどどちらも喪ってしまったのだ、思うところがあるのだろう。

 笑顔の裏に本性を隠しているとは言え、情が薄いわけではないのだ。


「あの……昔の私のこと、もっと聞いても良いですか? いっぱい聞いて、今後償いを行うための糧にしたいんです」

「うん、良いよ……私も思い出にケリを付けるために、全部吐き出すしかないと思うから」


 マルガリタに頷くペペリ。

 そんな彼女へ、マルガリタもまたぎこちない笑みを返した。

 その姿を見ながら、ピーヌスはこっそりとクリムゾンフレアに耳打ちをする。


「知り合いだったのね、あの二人」

「人に縁あり、だな……意外なところで人と人は繋がっているものだ」

「そうね……でも、記憶をなくしたことでその繋がりは一方向になってしまった、か……」


 確かに記憶を失い、関係性は一方的になった。

 だが……それでも、今新しい関係を二人は築いていこうとしている。

 きっと、人と人の繋がりというのはこうして、解けてもまた形を変えて結ばれていくものなのだろう。

 それはきっと、前世にて縁の有った者達が自覚の有無問わず来世でも出会うのと同じことなのだ。

 そう思うと、彼らの関係というのも絶望的な物ではない、そう思えた。


「きっと、生きていればいくらでも新しい関係を作っていけるさ……」

「その口ぶり……分かってはいたけど、死刑にしたりはしないのね」

「ああ、一時的な怒りに逃げて短絡的に殺めるのではなく、償う意志があるのなら一生をかけてでも償わせる、そうしようと思う」


 ピーヌスも異存はないらしく、静かに頷いて腕を組む。

 一方ユウェルは、記憶喪失の人間と他者の繋がりというものに何かしらの思うところがあったらしく顎をさする。

 その脳裏には、一人の少女が浮かんでいた……。

 自らの母に瓜二つな、ウルスの姿が……。

 少し思ってしまったのだ、やはり彼女は記憶を失い肉体が変異した母グリーズなのではないかと。

 その疑問に答えが出る日が有るのかは分からない。

 だが、ユウェルはそんな疑問を抱かずにはいられないのだった。

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