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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第九十五話 軍議は戦の下ごしらえ

「ブラエドの密偵が帰ってきたか」


 山道の途中、整えられた道から外れた森の中で、ワルトは密偵達を見つめる。

 その隣でルーチェは少し不思議そうな顔をした。

 ワルトの顔つきはごく普通、いつも通りのポーカーフェイスだが……それが逆に気になったのだ。


「ワルトさん、ブラエドには恨みがあるんじゃ?」

「別に全てを恨んでいるわけではないからな、オレが恨んでいるのは飽くまであの国の在り方……それを変えるべく尽力するというなら彼らもまたあの国の在り方を滅ぼしたい同志、恨みなどぶつけまい」


 リズベスの過去も聞いていたようで「それに奴は流れ者らしいからな」と付け加える。

 そんな彼女の姿が、ルーチェにはとても大人びて見えた。

 同時に、自分はまだまだ未熟で子供っぽいとも思ってしまう。

 一つ違いだというのに……ワルトは自分とは大きく異なって見えるのだ。


「……大人ですね、歳は近いのに私は全然……」

「ふ……ルーチェ、お前だってオレと同じだろう、クリムゾンフレアや元同胞にに恨みを向けても無差別に誰彼構わず刃を向けているわけじゃ無い、嫉妬した時だってその相手以外には牙を剥かないだろう、そう卑下するな」

「……あ、ありがとうございます……」


 ワルトに撫でられ、顔を赤くしながらモジモジするルーチェ。

 そんな彼女にワルトが笑みを向け「オレもまだ成長の余地はある、共に駆け上がろう」と囁く。

 耳元で囁けば、当然吐息が耳に触れ……ルーチェは顔を真っ赤にしながらソワソワとせわしなく動いた。

 こういうことを無自覚に素でやってのけるのでこの女はずるいのだ。

 そんな気持ちを、ルーチェはなけなしの「ずるいや、天然タラシ」という呟きにこめる。

 だが……ワルトは朴念仁、何がずるいのかよく分からずに首をかしげるのだった。



「こういうわけで……我々はクリムゾンフレア皇帝と同盟を組むことになった、これからは貴君らクリムゾニア軍に協力させて頂く」


 いきさつを話し終えて、ユウェルが一礼する。

 アステルとノエルも一礼し、静かに顔を上げた。

 堂に入っている、王族らしい立ち振る舞いと言えるだろう。

 そんな彼らを見ながら、ウロボロスとカシャも一礼した。


「分かりました、クリムゾンフレアお母様の信じたあなた方を私も信じましょう」

「右に同じく、これからよろしくお願いします」


 固い握手と共に、ウロボロス達との間にも結ばれる同盟……。

 その時、議場のドアがノックされた。

 一同の視線がドアへ向く中、ドアの向こうから声がする。

 男性の声……議場前で待機している番兵のものだ。


「失礼致します、リズベス様がブラエドの情報を調達し終えたと」

「分かった、通してくれ」


 番兵に伝達し、リズベスに中へと入るよう促す。

 そうして中へ入ってきたリズベスは、山道で見せた軽い雰囲気とは違い畏まった様子だ。

 この顔つき使い分け、流石は密偵としか言いようがないだろう。

 プロフェッショナルは違うのだ。


「軍議中のところ失礼致します」

「いや、問題ない……どうだった、父上の様子は」

「ハッ、ブラエド王は上陸部隊の大敗を契機に方針を転換した模様です、一週間後……奇しくもこの国と同じく、北部とコキュートス大河による二面作戦を行うつもりと」


 盗み見てきた作戦書の写しを読み上げ、リズベスはそれを各員に配る。

 一人一人が受け取り、内容を読んでいくが……。

 そんな中、アステルが顔をしかめながら手を挙げた。

 どうやら内容が気になるらしい。

 信用できない……といった風にも見える。


「これ、偽物を掴まされた可能性は?」

「特には無いかと、騎士団長に変身して原本を確認させてもらいましたから」

「にしては……作戦がずさんすぎる、北部は数で押す? それをした結果山賊やズワールト・メテオールに敵わず壊滅した部隊があったのに? コキュートス大河は魔術で攻撃する? 件の大蛇、えっと……ミドガルズオルムだっけ、彼女に魔術が効くか分からないのに?」

「姉の身から補足させて頂きます、恐らく並大抵の魔術では無理でしょうね」


 ミドガルズオルムの巨体に秘められたタフネスは、見ての通り……いや、見た目を凌駕するレベルだ。

 魔術により彼女を傷つけよう、などと思えばコキュートス大河を涸れさせるような大魔法が必要となる。

 さもなくば魔術を放ったところで、陸へ乗り上げた彼女に潰されるなりして終わるだろう。

 それか、あっという間に胃の中へおさらばして栄養になるか……いずれにせよ待つのは死だ。

 それだけの力を発揮できるのはかつて在りし世界における技術の随を集めて作られた高等生物だからというのもあるかもしれないが……やはり彼女の努力も大きい。

 激流の中で生活するというのは、それだけ過酷なのだ。


「これじゃまるで、自殺しに行くみたいだ」

「自殺ね……実際、それが目的だったりするのかしら」


 ノエルは何かを思いついた様子で腕組みをする。

 その視線はドアの向こう……クルテルの私室が存在するという方向を向いているようだ。

 クルテルに何か思うところがあるのだろうか、その顔つきは険しい。


「私、この体になってから光を検知できるようになって……自然現象としての光だけじゃなく、魂……霊体、そういう光も見れるようになったのよ、それぞれの肉体にどんな魂が宿っているか、までハッキリと……」

「それが相手側の作戦とどう関係するわけ?」

「人身御供……人身御供よ、そういうつもりなのかも……」


 人身御供、そう言ってノエルは目を細める。

 ちなみに人身御供とは生贄のことだ。

 主に神へ捧げられる生贄を表す言葉であり、その手段を忌み嫌う者も多い。

 どうやらノエルはそれをブラエド王はしようとしているのではないか、と踏んでいるようだ。


「あのクルテルっていう自称神様の子……あの子はその肉体に、多くの魂を取り込んでいる……それで力を得ていると感じるの」

「分かった、そういう風に魂を取り込むことで大きな力を出そうとしているかも知れない、ということだな?」

「ええ、だとすると皆殺しにしちゃまずいかもしれない」


 腕を組み、考え込むノエル。

 思えば確かに、クリムゾンフレアがブラエド王を攻撃しようとしたとき、いくつもの顔があるような錯覚に陥って気圧されてしまった。

 もしそれがブラエド王が複数の魂を取り込んでいる証左だとしたら?

 だとすれば、今まで何故そうしたかが分からなかったブラエド内での内乱を起こした理由、貧富で荒れる国内を放置した理由、北部へ侵攻した理由……。

 全てに説明がつくのではないか?

 全てはその身に魂を取り込むべく戦いを起こしているのだとすれば……そして悪しき発展も、それをより効率化すべく行っているのだとすれば。

 おぞましい、そう言うしかできなかった。

 吐き気を催し、何とかそれを堪えるが少しだけえずいてしまう。

 そんなクリムゾンフレアの耳に、アステルのうなり声が聞こえてきた。


「でも……殺さないったってさ、全員無力化なんて夢のまた夢だし、抵抗しませんなんて出来ないじゃん」

「そうだな……クリムゾンフレア、貴女の力で皆仲間にするのはどうだろうか?」

「それは難しいな……山賊のように刹那的欲求しかない集団ならまだしも、相手は軍人……恐らく殆どが故国のためという気持ちで戦っているだろう、ともなればアラクネの時のように、多様な手段を用いて精神に干渉しないといけない」

「……そうよね、バイキングの時を思い出すわ……あの時みたいな時間をかけてる余裕は無さそうだし……どうしようかしら」


 アラクネの時は、飽くまでカペルの魅了、ソヌスとカントゥスによる音楽リラクゼーション、プラケンタによる味覚干渉、そういうものがあってようやく洗脳できたのだ。

 確固たる意志を持つ者に干渉するのであれば、それくらいしっかりと準備する必要がある。

 それくらい気合いを入れた洗脳を行うとなれば、一人一人じっくり行わねばならないが……流石に軍隊相手、それは無理だろう。

 だが……ふとアラクネのことを考えたことで、一つの案が頭に浮かんだ。


「待てよ……アルテューマ家は辺境伯だったか」

「うむ、北部に隣接する地域のな……私達はこっそり国を出てきたため通らなかったが、正式な行軍においては出撃一日前にアルテューマ領へ滞在し出国手続きをする必要がある」


 アルテューマ領への滞在、それを聞きクリムゾンフレアは目を細める。

 それを上手い具合に利用できれば……北部を通して攻め入らんとする部隊をものにできるかもしれない。

 そしてコキュートス大河の部隊もクルテルに魂を取り込ませれば……もし相手が死者の魂を取り込むという目的を持っているとしても、それを阻止できる。

 確証があるわけではない、だがもしかするとノエルが予想した通りの目的を持っているかも知れないのだ。

 それならば、やってみるだけの価値はあるだろう。

 そう考え、クリムゾンフレアは議場の一同を静かに見つめる。

 そして……一同へ今後の方針を伝えるために口を開いた。


「こんな作戦はどうだろうか」


 その頃……。

 ユウリィの指導中、現在は一段落ついて休憩をしていたアラクネは何となく糸を出して巣を作り遊んでいた。

 そこに飛んできた虫が引っかかり、もがいている。

 その様子をユウリィは「凄いなあ……」と見つめていた。


「飛行、捕縛、絞首、巣のトラップ……なんでもできますね、蜘蛛の糸って」

「ふふふ……それだけじゃないですよ、この糸は耳から頭に入れられるんです」

「……? そう、すると……どう、なるの……?」


 糸を耳から頭に入れる、それがどういう意味を持つのかユウリィ達には分からない。

 それはアラクネにも理解できるようで、彼女は実例を見せるべく先ほど作った巣に魔力を向けた。

 すると……巣は普通では考えられないよう動きをし始める。

 まるで意識を持っているかのような動きだ。


「私のでも他の人のでも良いんですけど……魔力を乗せられるんです、それで色々な効果を頭の中で発揮できるんですよ」

「へえ……凄いですけど、ちょっと怖いですね」


 魔力を乗せられる、それはつまり糸を通して頭の中に直接炎魔法を突っ込む……なんて真似も出来るということだ。

 それを理解すると、あの糸がただ凄いだけでは無くとても恐ろしい者に思えてくる。

 そう感じながら、ユウリィは将来的にも敵には回したくないな……と内心恐怖するのだった。

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