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転生先は箱庭ゲーム!? 龍の女帝はただ生きていたい  作者: 光陽亭 暁ユウ
第二部 黄昏の章 ―― 夏秋戦争の幕開け ――
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第八十四話 決意の蛇姉妹

 遠くを知るための魔法、それを得るべくウロボロスは多種多様な文献を読みふけり、時に滝行をするなどして何日も何日も修行に励んだ。

 ミドガルズオルムも体を鍛えるべく、毎日様々な運動を行い……時には岩壁をよじ登ったり、生存者捜しがてら大陸中を駆け回ったりもした。

 そんな激しい修行を行い続け……気付けばミドガルズオルムはどんどんたくましく……そしてウロボロスはどんどん魔力に優れていったのだ。

 日夜修行の日々を送り、寝る間も惜しむこと二十数年……。

 二人が三十代になる頃、その出来事は起きた。


「見える……何これ、遠くが見える……?」


 呟きと共に驚愕して目を見開くウロボロス。

 そんな彼女に、ミドガルズオルムが喜色満面といった様子で駆け寄った。


「本当!? 姉上、やったね! 姉上……?」

「けど、これは……見えすぎる……!!!」


 叫び、卒倒するウロボロス。

 争い、津波、爆発、滅び……多種多様な光景が脳に入り込んでくるのに耐えきれなかったらしい。

 そう……遠くを見る力、そのつもりで彼女が習得したものは全く違う力だったのだ。

 複数の文献をつぎはぎにしたことで生まれたある種のエラーによる奇跡とでも言えばいいのか。

 そしてそれを修正できる者もいなかったが為に……彼女の力は本来の遠見の力から大きく逸れ……。

 アカシックレコードを視認するという神域の力を得てしまったのだ。

 圧倒的情報量にウロボロスは戸惑い、大いに混乱した。

 しかしそれだけで済んだのはひとえに彼女達が優れた頭脳を有するように作られた存在だからというのが大きいだろう。

 常人がアカシックレコードを直接視認すれば、情報量に耐えきれずに発狂死してしまう。

 シャングリラ・オンラインのような視認装置を介し、更には自分に関する情報をリアルタイムで更新していく……という形にしなければ耐えきれないくらいだ。

 そんな情報を世界規模で得ながら、昏倒するだけで済んだというのは凄まじいこと……。

 辰巳夫妻恐るべし、といったところか。


「う……」

「あっ、姉上おはよう、びっくりしたよ急に倒れちゃうんだもん」


 顔を覗き込むミドガルズオルムにウロボロスは「ごめんね」と返す。

 しかし……ウロボロスの向いている方向は少しずれていた。

 ウロボロスの視界にいるミドガルズオルムは、実際にミドガルズオルムがいる位置より左にいるのだ。


「姉上、そっちじゃないよ」

「あれ……?」


 手探りで周りを探し、ミドガルズオルムを触るウロボロス。

 その瞬間、彼女は自分が見ているものが視覚情報ではないと気付いた。

 ならば、何だというのか……それを疑問に思い混乱するウロボロス。

 その時、彼女の視界の中でミドガルズオルムが躓いた。

 床に落ちている本にぶつかったらしい。


「あっ、大丈夫!?」

「え……? 何が?」

「え、何って……胴体が本にぶつかって、躓いたじゃない」


 ミドガルズオルムは、何を言っているのか分からないといった様子で首をかしげている。

 姉はまだ寝ぼけているのではないか……そう思っているようだ。

 しかし、床を見てそこに本があることに気付いた。


「うわ、ほんとに本が置いてある、危ない危ない……躓くとこだったよ」

「……もしかして、これって……」


 自分は確かにミドガルズオルムが躓くところを見た、しかし実際にはミドガルズオルムは躓いていない。

 しかし、本は実際にそこにある……。

 視覚情報と実際の状況にズレがあるのだ。

 つまりそれは……。


「もしかして、私が得た力は……未来を見る力なの……!?」


 戸惑うウロボロス、しかしこんな力を得たからには使わない手はないだろう。

 これさえあれば、どう動けば生存者と出会えるかが分かるはずなのだ。

 彼女はゆっくり目を閉じると……生存者と出会える道を見せて欲しい、と祈り始めた。



「……それで私が呼ばれたの?」

「ええ……ダメだったかしら」

「別に……ただ、戸惑っているだけ……まだ生きてる奴がいたなんて……って」


 未来視を自覚して数日、ウロボロスの指示を受けたミドガルズオルムは、一人の生存者を連れてきた。

 それがクルテルとの出会いだ。

 まだこの頃は、未来視も使いこなせず遠い先はよく理解できていなかった頃……。

 自身の不死性も彼女が神ということも理解しきれておらず、まさか千年近い付き合いになるなどとは思ってもいなかった時期だ。


「で……お前達は姉妹なの? そっちのデカい方が姉かしら」

「同じ日に生まれた双子だけど……一応こっちが妹だよ、ちっさい方が姉上、ちゃんと覚えてね」

「覚えてたらね……」


 覚えてたらね。

 そうは言ったものの実際クルテルは、神故に兄弟姉妹の序列といったものには無関心でその辺りは大分大雑把なので、実は未だに姉妹の順番を逆に覚えていたりする。

 神に忘れる機能は存在しないのだが……覚え違いというものは存在する。

 ようは、実を言うとこの時自分で話を振っておきながらちゃんと聞いていなかったのである。

 姉妹と言った辺りで“お姉様”を思い出して物思いにふけっていたのだ。

 まあそれはさておいて……。


「で……まさか生きている者がいたなんて知らなかったけど、何の用?」

「それは……何が起きたのかを知りたくて、それと私が見た未来視はなんだったのかも相談したいの」


 いったい何が起きたのか、その問いにクルテルは顔をしかめる。

 尊敬する姉の理不尽な死……そんなこと思い出したくもないのだ。

 だが仕方がない、話さなければきっとしつこいだろう。

 面倒ごとは嫌いなのだ。


「……ブラエドという国が、悪しき文明を育てた……そしてクリムゾニアって国との戦争の末に、その文明で大罪を犯して……とばっちりで全人類洪水に流されたのよ、おかげでやっとお姉様達と再会できたのに、みんなが再度転生するのを待つことになった」

「そ、そんな……嘘でしょ……」


 愕然とするミドガルズオルム。

 そうなるのも当然だろう、世界が大津波で滅びたなどと言われてしまえば、驚愕しないわけがない。

 一方……ウロボロスは得心がいった、という様子だ。


「……クルテルさんだっけ」

「今はそう名乗ってるわ」

「よく聞いてクルテルさん……その滅びは、もう一度起きる、私が見た未来にあったの……その光景が」


 ウロボロスの言葉に、クルテルは目を見開く。

 そして、焦った顔でウロボロスの肩を掴んだ。

 力が強く、中々に痛い……。

 だがクルテルは自分が力を入れすぎていることに気付いていないようだ。


「いつ起きるの!?」

「い、いつかは分からないけど……」

「未来視っていうことは、アカシックリーダー能力のはず……それを極めれば、いつ何が起きるかまでしっかり分かるはずよ!」


 クルテルはそこまで言い、自分を落ち着けるように深呼吸をする。

 そして……目を閉じると頬を叩き、目を開いた。

 頬が赤くなるくらい強く叩いたようだが、思考は落ち着いたようだ。


「修行するわよ、私が鍛え上げてあげるわ……零落(ダウンサイジング)したとはいえ神の端くれ、お前を鍛え上げるくらいできるはず」

「……わ、分かったわ……じゃあお願い」


 こうして、ウロボロスはクルテルと共に自らの能力を鍛え上げた。

 神直伝の魔力の練り方……集中力の磨き方、そういったものを身につけていったのだ。

 その成果はかなり高く、クルテルは段々と様々な可能性の分岐を見たり、見たい分岐を目にする精度を上げたりと能力を磨き上げていった。

 同じくミドガルズオルムも一心不乱に修行を続け……。

 そして更に数年後、クルテルの能力は遂に完成を迎えたのだ。


「……分かった、このまま何もせずにいれば……世界は前と同じように……いえ、完全に瓜二つのものへと成長して、同じ滅びを迎える」

「……! 同じ滅びを……!?」

「ええ、その世界には前の世界と同一の名前を持つ全く同じ人達がいるわ、このままでは彼らはまた……」


 また、その続きは言われなくても分かる。

 そんなことを認めるわけにはいかなかった。

 何とか対策を考えなければいけない、そう決心してクルテルはいきり立つ。

 ウロボロス達も、同じ歴史を辿ると言うことはまた母二人が死ぬということ。

 それは避けねばならないと奮起する。


「ブラエドの祖となる土地を滅ぼせば……どうなる?」

「待って……だめ、その分岐を見たけど、他の国が……更にそこも滅ぼしたとしても他の国が同じ事をする」

「ええと……それってつまり、国が原因と言うよりも国をそういう風に発展させる誰かがいるって事だよね……」

「ブラエドが発展してから、国ごと黒幕を滅ぼすしかないか……」


 国ごと……それは多くを殺める道だ。

 しかし彼らに迷う余裕も権利もない。

 目の前には、世界が滅びるという運命が待っているのだ……。

 ブラエドを滅ぼさなければ世界規模の滅びがやって来る。

 ならば、取捨選択の末に彼らの犠牲を選ぶのは仕方がないことだろう。


「……じゃあ、決めましょう……私の見た未来をもとに、どんな世界を作って先のことに備えるか……」


 ウロボロスの言葉に、ミドガルズオルムとクルテルが静かに頷く。

 こうして……壮大な取捨選択の計画、箱船計画が始まった。

 誰を船に乗せ、誰を海に捨てるか……それを選ぶ計画。

 遠い未来に向けて行使する、壮大な殺戮のプラン……。

 誰一人として、この道から引き返すつもりはなかった。

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