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剣はペンよりも強し   作者: シミュラークル
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幽谷の巻・其の壱 旱魃


「最初に、全てについて言える事。それは持ち主に愛着があればあるほど、あなた方の大切な物は最も正解に近い方向へと合理的に進んでいきます。つまり、持ち主との結びつきが強ければ強いほど、試験には受かりやすいのです」


森田は続けて俺らの大切な物について説明しだした。


「まずはこのカラクリ人形。名前は一刀両断侍麻呂いっとうりょうだんざむらいまろ。愛刀である一刀両断丸は刀身の面積が広く、重い。故に敵を真っ二つするのに長けています。それに加え、隠し刀である紫電一閃丸しでんいっせんまるは素早く、鋭い一撃を放つのに長けています」


「名前あったんかい・・・」


「次にこのマフちゃん、いや、失礼。このマフラーはマフラーの柔軟さと鋼鉄のような頑強さを兼ね備えている特殊なマフラーです。故に随時、形を変形、硬化させながら戦うことが可能。攻守共に優れています」


「それはもう知ってるんだけどねぇ・・・」


「最後はこの10枚のコイン。これは全国各地の気象台で手に入る、雲の絵柄が描かれたコイン。一つ一つに効果があり、雲の特徴になぞらえた技を繰り出します。繰り出せるのは一度きり。故に強力です」


「じゃあ、最後に雄馬くんが百々目鬼どどめきを倒した技は何なんですか?」


 「あれは巻雲脚けんうんきゃく。巻雲とは空の一番高くある雲のこと。雄馬さんは雲に模したパーカーを被り、空中へ高く跳び上がった後、高さで威力が跳ね上がったかかと落としを喰らわせました」


「じゃあ、あのパーカーは何の意味があるんだ?」


「あれも雲の特徴に沿った能力を秘めています。滞空時間が長くなり、跳躍力も飛躍的に上昇します」


「って、それ本当に僕の事?全然、記憶ないんだけど・・・」


「まぁ、無理もありません。雄馬さんのレベルに対して、技が強力すぎるのです。しかも今の雄馬さんでは1枚目の巻雲のコインしか使えません」


 では次に、と森田は俺たち1人ずつの質問を許可した。相談しても構わないとのことなので、3人で席を移動して集まった。


 数分間、相談して3人それぞれの質問を考えた。まずは晴香からだ。


「私の質問は、なぜ私たちは春の町を合格したのかです」


「それは桜の木を選んだからです。桜の花言葉は優美な女性。最初、春の町には誰もいなかったでしょう?元々、春の町には平安の高貴で優美な女性が住んでいました。桜の木の中で出会った妖怪達は皆、女性だったはずです」


「ってことは、最後にいた女の人達は私たちが倒した妖怪達だったんですか?」


「その通り。つまり、最初の春の町に足りなかったものである"優美な女性"を戻す事が突破条件。足りないものを補う。これはこれからの試験、全てに適応されます。覚えておきましょう」


「じゃあ、なんで最初にその条件を教えてくれなかったんですか?」


「それはあなた方と大切な物の結びつきの強さを確かめるためです。先程、言いましたが結びつきが強ければ強いほど合理的な判断をしてくれます。つまり、結びつきが弱かった物は桜の木ではなく他の桃、梅を選びました。この時点で不合格なのです。まぁ1時間目で数を大きく減らすのも目的ですが」


「桃、梅に入った人達は今どうしているんですか?」


「妖怪に殺されているか、今も木の中を彷徨っているでしょうね」


では次と森田が言ったので、雄馬は眼鏡を取って目を擦ってから口を開いた。


「じゃあ、この手の甲にある数字は身体能力の向上以外に何の意味があるんですか?」


「これはあなた方の相棒との親密度、相棒の能力のレベルを表しています。つまり、親密度が上がれば協調性を意識し、相棒の行動が読みやすくなります。相棒の能力のレベルはそのまんまです。上がればできる事が多くなります。例えば、陽一さんのカラクリ人形は途中から喋る事ができるようになりましたよね。あれは陽一さんが妖怪を倒して得た数値によるものです」


最後は俺だ。


「では、最後に、陽一さんどうぞ」


「俺はもっと、それぞれの大切な物について深く聞きたい」


「というと?」


「それぞれ、戦闘スタイルが全然違うじゃないか。つまり、どのように道具の能力を決めたんだ?」


「はい、元々の性質を考慮して、3つのタイプに分けました。あなた方のはちょうど3つのタイプに分かれているので、それぞれ説明していきますね」


すると、森田は黒板にチョークで書き始めた。急に授業感が出てきて、普段は嫌な授業もあの殺伐とした時間に比べれば全然良い。久しぶりに安心感が湧いた。


 森田がチョークを置くと黒板には


X,X X+X X^2


と書いてある。


「これが3つのタイプです。一番左は陽一さんと両断麻呂。因みに2つの Xは受験者と大切な物をそれぞれ表しています」


森田の説明はこうだ。


X,X→個々に能力を発揮するタイプ。(陽一と一刀両断麻呂)


X+X→2つを足し算することで能力を発揮するタイプ。(晴香とマフちゃん)


X^2→2つを掛け合わせることで能力を発揮するタイプ。(雄馬とコイン)


確かに、俺とマロ(と呼ぶことにした)は単独で戦えるし、晴香はマフちゃんを使って共同で戦っていた。雄馬はコインの能力が自身に反映され、技を繰り出した。


 説明し終わると森田は右腕に着けた腕時計を見て、言った。


「そろそろ時間ですね。では、もうそろそろ2時間目を始めましょうか」


「もっ、もう!?」


「あっすみません。言い忘れた事がありました。あっちの世界で突然、壁に地図が浮かび上がりませんでしたか?あれは道標みちしるべです。これからもあなた方が必要とした時に現れます。参考にしてみてください。では隣の教室に移ってください」


森田を先頭に俺たちは隣の教室へと歩き出した。


 その教室はどうやら美術室?のようだ。多数のイーゼルにキャンバスが支えられている。絵は描かれていないようだ。しかし、教室の後ろ側に床から天井にかけて大きな水墨画が描かれている。山?のような風景だ。


「他の受験生はもうこの中に入っています」


「中?」


「この水墨画の中です。さぁ、絵の中に足を踏み入れてみてください」


と言って俺にマロを渡してきた。


俺が先陣を切って足を踏み入れると、ニュルっと変な感じが足に纏わり付いた。中に入っているのだ。


 俺の全身が絵の中に入り込んだ。すると、目の前には緑を失った煤すすけた色の世界が広がっていた。しかし、所々には緑が残っている。とてつもなく広い深山だ。


「浩輔はまだ生きて、ここにいるのか?」


という心配と共に、どんな困難が俺に立ちはだかるのか期待している自分もいた。


幽谷の巻・その弐へ続く


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