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剣はペンよりも強し   作者: シミュラークル
5/10

桜の巻・其の弐 青女房


「あっ、いた!」

晴香が指を指した方向を見ると猪口暮露ちょくぼろんが屋敷の中にちょうど入っていくところであった。俺たちも門をくぐり、中に入る。屋敷の部屋の中は汚く荒れているので思わず土足で上がり込んでしまった。尺八の音を辿っていくと縁側をぞろぞろと徘徊していた。俺たちも猪口暮露に足並みを揃えて一緒に歩いて行くと途中で部屋の隅に何かが居るのを目の端で捉えた。薄暗いので何がいるのか確認できない。晴香は気付いていないようだ。俺は目を凝らすとやはり何がコソコソと動いている。妖怪かと思い、俺は黙って晴香を肘でつついた。晴香は一瞬声を出そうとしたが口を押さえて堪えたようだ。


「ゆっくり近づいてみよう」

と俺は小声で言い、晴香と恐る恐る近づいて行くと

「ない・・・。ない・・・」

という声が聞こえて来る。俺の相棒は外に置いてきたので頼りは晴香のマフラーしかない。俺は一か八か


「あの〜、誰でしょうか」

と聞いてみた。


「無いんだよ!僕のコインが!」

こっちを振り向いてそう叫んだのは真っ青な顔の妖怪・・・じゃなくて人間だった。黄色のパーカーに黒いズボンで眼鏡をかけている。


「あなたもしかして受験生?」

「え、あ、そうだよ」

今はそれどころじゃ無いといった感じでその男は答えた。


「君、名前はなんて言うの?俺は佐久間陽一。こっちは神崎晴香」

「僕は浅木雄馬。そんな事より僕のコインが無いんだ」

「コインって?」

「僕が大切な物として持ってきた記念硬貨だよ。僕のコレクションで10枚持ってきたのが全部無くなっちゃったんだ。こっちに来る前には確かに持ってたんだけどね」

「何か思い当たる事はないの?落としちゃったとか」

「いや、それは無い。巾着袋に入れてポケットに入れていたんだけど中身だけ無くなって袋は残っているんだ。しかも紐はしっかり結ばれたまま」

「晴香のマフラーみたいにひとりでに動いたんじゃないか。そもそもどうやって桜の木の枝を斬ってこっちに来たのさ」

「桜の木?何のこと?僕はこっちに来る前にコインを手に持って一つずつ眺めていたら・・・でそこから記憶が無いんだ」

うーん。どうも要領を得ない。

「じゃあ他に気になる事は?」

「うん、さっき顔は見えなかったけど紫色の着物姿の女性とすれ違ったよ。他の受験生かと思って話しかけようとしたら走って逃げちゃったんだ」

「もしかしてそいつが雄馬の記念硬貨を盗み取ったんじゃないか」

「そんな事あるかなぁ。すれ違ったと言っても距離は離れてたし」

「でも、とにかくそいつを見つけ出そう。何か知っているかもしれない」

俺たちは相変わらず徘徊している猪口暮露を尻目に雄馬がその女を見たと言う所まで行こうと歩き出した。


 数分後、その通りに出ると驚くべき光景を目にした。


「何でこんないっぱいいるんだ?!」

なんと紫色の着物姿の女が何人もいるのだ。しかも皆一様に真っ黒なボサボサの長い髪と黒々としたお歯黒をしている。そして化物と呼ぶに相応しい形相でこちらを睨んでいた。


「これやばくね」

と俺が呟いた瞬間、全員の髪が一直線にこちらに伸びてきて俺の左腕に巻きついてきた。横を見ると晴香と雄馬の腕や足にも巻きついている。すると凄い勢いで引っ張られ体勢を崩し転んでしまった。しかし次の瞬間晴香のマフラーが動き出し髪を捻じ斬った。俺はすぐに体勢を立て直した。そして俺の相棒も戦えるかもしれないと思い急いでゼンマイを回した。回し終わると俺が手を離す間もなく妖怪たちに向かって行ったのでゼンマイがスポンと抜けてしまった。


「あっ、待て!」

と言ったがもう遅かった。背中に穴がある状態で女の妖怪達と戦っている。


「あー壊れちゃった。ん?」

そのゼンマイの回す部分を見てみるとなんと先端にかけて刀身になっており紫電一閃丸と刻まれている。


「仕込み刀か!」

これで戦える。だが、持ち手が重く前に振りずらい。でもこれで戦うしかない。俺は刀を両手で持ち構えた。もちろん刀なんか使ったことは無いので向かってきた相手を突き刺してなんとか戦った。


 こちら側に向かって来る奴らを一通り刺して倒し終わり、周りを見ると雄馬は蹲うずくまって震えているが晴香は硬いムチのように変化したマフラーを扱い戦っている。俺の相棒は一刀両断丸という刀を使っているだけの事はありその名に恥じぬよう敵を容赦なく真っ二つに斬っている。俺は突き刺して倒すのに夢中だった為気がつかなかったが真っ二つにされた妖怪達は灰になり地面に降り積もったかと思うと跡形もなく消えてしまっていた。


 生まれて初めて命の危険を感じた局面だった故に時間が長く感じたが気づいたら辺りに妖怪は一匹も残っていなかった。雄馬は相変わらず震えたままだが晴香も地面に手をついて息を切らしていた。俺は晴香の元へ駆け寄り大丈夫かと声をかけると苦しそうにしながらも頷いたので安心した。相棒は最後の敵を倒してその場から動かない。ゼンマイが終わってしまったようだ。少しして晴香が立ち上がり深呼吸をした。


「陽一君は大丈夫?」

「うん、ほとんどあいつが倒してくれたから」

「雄馬君は?」

「ぼぼ僕もだだだ大丈夫」

「ところでさあ、あそこ見て」

晴香が指を指した方向を見ると壁にまたもや墨で描かれた地図が浮かび上がっている。近づいて見てみると新しく地図の横に


「青女房あおにょうぼう[妖]

・弐

・好戦的

・紫色の着物を着た女の妖

・髪を用いて攻撃してくる」

と書いてある。今倒した妖怪の事だ。


「それにしても猪口暮露の時もそうだけどこの数字はなんだろう」

「強さとか?」

「うーん。後、なんで地図の右に今の奴は表示されて猪口暮露は表示されないんだろう」

「これはおそらく倒した妖怪だけの詳細な情報が表示されているんじゃないかな。猪口暮露は倒していないしてないからそもそも地図横に表示されていない。地図上の数字を押してもアバウトな情報しか出なかったし」

「なるほど」


俺は晴香の説明に納得してふと自分の手の甲を見た。すると8と墨で書かれていた。いつの間に誰に書かれたのだろう。


「二人とも手の甲見てみて」

「なによこれ」

「ん?何にも無いよ」

晴香の手の甲には6と書いてあった。しかし雄馬の手の甲には何も書かれていない。すると思い当たる事があるのか晴香が口を開いた。


「これもしかしたら今倒した青女房って言う妖怪の数と弐をかけた数じゃない?」

確かにそうかもしれない。俺と相棒で倒したのがざっと4体ぐらいだった様な気もする。

「でもこの数字に何の意味があるんだ?」

「それはまだわからないけど・・・」

「ところで雄馬、お前のコインどっかに落ちてないか?紫の着物を着た女って言ってたよな。青女房って奴ら全員紫色の着物着てたぞ」

「それがさっきから見つからないんだ。もしかして青女房もろとも消えちゃったのかな・・・」


「ちょっとなにこれ!」

晴香が突然俺と優馬の話を遮り地図を指差した。地図を見ると伍の文字が現在俺たちがいる場所めがけて凄い勢いで迫ってきていた。


「また、敵か!」

雄馬は頭を抱えて地面に座り込み俺はゼンマイを一旦元に戻して巻き直し、晴香はマフラーを構えて臨戦体勢に入った。


桜の巻・其の参へ続く

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