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剣はペンよりも強し   作者: シミュラークル
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序章・其の弐 春夏秋冬

田舎道を歩いて約10分。俺らの受験校である羽葉土大学に到着した。遠くから見た時にはわからなかったがやはり今年出来ただけのことはある。白塗りの殺風景な校舎ではあるが綺麗なので先進的な印象を受ける。校門を抜けて中に入ると赤い右矢印の看板が置いてあった。その下に受験生の皆さんはこちらですと書いてある。それに従い歩いて行くと鉄骨が無骨に張り巡らされた建物が目の前に現れた。6号館と黒文字で書いてある。自動ドアを抜けて中に入ると他の受験生がいた。ざっと見渡すと約100人ぐらい居る。


「もうこんなにいたのか」

「ってかこの学校意外と人気なんだな。俺と陽一だけかと思ったぜ」

2人して笑うとピンポンパンポーンとチャイムが鳴った。


「受験生の皆さんこんにちは。受験票を確認しますので受験票の色ごとに整列して下さい」

俺は受験票を確認した。俺のはピンク色だ。というか人によって色が違うのか。


「浩輔、お前のは何色?」

「緑だよ」

「じゃあ離れ離れになりそうだな。試験が終わったら校門の近くで待っとけよ」

「おっけー」

俺は浩輔に暫しの別れを告げ、先頭にピンク色の看板が立つ列の最後尾に並んだ。ピンク、緑の他にはオレンジ、白があるようだ。


 全員が整列した所でまた放送が流れた。

「では緑色の列から別室に移動します。先頭の緑色のプラカードを持った試験官について行って下さい」

その後オレンジ、白と呼ばれ遂にピンクの列が移動になった。それぞれの列の人数を数えるとまちまちで俺の列であるピンクが一番少ないようだった。


 別室に入ると大学にしては小さめの教室であった。前に黒板があり、教室自体は新しいもののどこか小学校の教室を想起させた。試験官に席に着くように指示され俺は一番後ろの席に座った。改めて正確な人数を数えると俺を含めてぴったり10人いた。前を見ると黒板にピンク色の文字でデカデカと春と書いてあった。少しして立派な髭を生やした試験官が背広を整えると試験の説明をし始めた。


「皆さん、こんにちは。試験官の森田です。よろしくお願いします。まずは各々机の上に持ってきた大切な物を出して下さい」

おじさんの割には声が高いなぁと思いながら持って来た手提げ袋から例のカラクリ人形を取り出した。周りを見てみるとマフラーやら書道用の筆など多種多様な物があった。

「皆さん机の上に置けましたね。そうしたらそれを両手で握って下さい」

俺は人形を優しく包み込むようにして握った。

「それでは前の黒板を見て下さい」

そう言うとバンッと春の文字を力強く押した。すると黒板が真っ二つに割れたと思うと割れた両方の黒板が同時に反転して灰色の板に切り替わった。しかもよく見てみるとテレビの砂嵐のようになっている。黒板が大型のテレビにでも切り替わったのだろうか。そして切り替わった瞬間、試験官は大声で言った。


「試験開始!」

その言葉を聞き終える間もなく気づいたら俺は見たこともない場所に居た。


 ここは何処だ?あまりに突然のことに気が動転していたが気を取り直して俺は辺りを見回すと古風ではあるが優美な屋敷がいくつも並んでいた。日の光に照らされてより一層綺麗である。どのようなロジックかはわからないがさっきの教室とは全く別の場所に飛ばされてしまったようだ。そういえば試験内容を全く聞かされていない。何をすれば合格になるんだよ。とにかく他の受験生もここに飛ばされているはずだから探して一緒に行動しよう。


 俺はしばらく最初にいた地点から真っ直ぐ歩いて行ったが誰も見つからなかった。


「あ〜疲れた」

と言って俺は地べたに座り込むとふと後ろに気配を感じた。振り返るとそこにはなんと俺より背の高いが侍がいたのだ。


「うわっ!なんだお前!」

俺は驚いて思わず後退りしたがその侍は動かなかった。おかしいぞと思ってよく見るとなんと大きくなった俺が持ってきたカラクリ人形であった。その証拠に刀にしっかりと一刀両断丸と刻まれている。すると


「ねえ、君さっき私と同じ教室に、いた子だよね」

と後ろから突然声をかけられたもんだから俺はさっきより大きな声を出して驚いてしまった。

「そんなに驚かなくても良いじゃない。私は神崎晴香かみさきはるか。晴香って呼んで。あなたは?」

「え?俺?俺は佐久間陽一だけど・・・」

俺はしどろもどろになりながら答えた。突然声をかけてきたこの晴香と名乗る子は確かにさっき同じ教室にいた。マフラーを大切な物として机の上に置いていた子だ。制服姿で俺より少し身長は小さいがショートカットで容姿は端麗であった。その後晴香と現状わかっている情報を整理した。どうやら受験生が持ってきた大切な物はなぜか様態が変化しているようだ。現に俺の人形は大きくなって晴香のマフラーは蛇のように唸っている。まるで生きているみたいだ。


「私のマフラーはこんな風に生き物みたいになっちゃった。陽一君のは見たところカラクリ人形のようだけど、それどうやってここまで連れてきたの?」

「うん。おそらく試験が始まるまでに手持ち無沙汰で手の中でこの人形のゼンマイを回していたから・・・ってこいつ回しても刀上下に振るだけで歩きもしないし、ましてやついてくるはずないんだけど」

「じゃあ試しに回してみてよ」

晴香にそう言われて俺は元のものとは比べ物にならないほど大きくなったゼンマイを力強く回した。すると音もたてずに滑らかに動き出した。俺と晴香の周りをしばらく周ると止まってしまった。

「なるほど。それにしても大きくなったなぁ」

と言って俺が失笑し、

「それにしてもここはどこなんだろう」

と呟くと

「え、わからないの?さっきの受験票、太陽にかざしてみて」

俺は何を言っているんだと思ったが言う通りにポケットからくしゃくしゃになった受験票を取り出して広げ太陽にかざした。うっすらと文字が浮かび上がった。春の町—そう書いてあった。


桜の巻・其の壱へ続く


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