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剣はペンよりも強し   作者: シミュラークル
2/10

序章・其の壱 一刀両断丸


 遡ること半年前、高3の夏休み。俺は未だに志望校を決めかねていた。そもそも俺はあまり勉強が好きではなかった。なので周りの一般的な受験生は本腰を入れて勉強しているのに対し俺はいまいち勉強に身が入らずにいた。そんなある日俺は流石にもうそろそろ受験する大学ぐらい決めようと思い立ちネットで自分の中の条件に合う学校を探したが、あまりいい所は見つからなかった。というのも俺の条件と言うのは筆記試験を受けずに入れる所という極めて難しいものであった。結局、受験の天王山と呼ばれる夏休みも無駄にしてしまった。


 夏休みが終わり2学期の初日。担任が

「今から一人一人の志望校を聞く。順番に言っていってくれ」

と突然言ったもんだから俺は焦った。すると隣の席に座っている日高浩輔ひだかこうすけが


「おい陽一よういち、どこにしたんだよ」

「えっと・・・」

「もしかしてまだ決めてないのか!じゃあ俺と同じ所を受けろよ」

「うん、わかった」

俺は焦燥感から二つ返事で浩輔と同じ学校を受けることになった。学校名を聞くと私立の羽葉土大学はばどだいがくというらしい。順番が回ってきたので俺はその名前を言った。


 放課後、家に帰ってその学校について調べてみることにした。帰り際、浩輔に学校の詳細について尋ねたがなんと筆記試験がないらしい。これは思いがけない幸運が舞い降りたなと思った。パソコンを開いて羽葉土大学のホームページを見つけた。そして2021年度の試験要項を見てみると"力強く頭の回転が速いフレキシブルな学生"を求むとだけ書いてありその下に試験会場の場所と当日の持ち物だけ書いてあった。なんだこれと思ったが特に気になったのは持ち物についてだ。自分の大切な物を一つだけ持ってくること(電子機器は不可)。そう書いてあった。 うーん。よくわからない。まぁとにかく本当に筆記試験はなさそうだ。じゃあ別に勉強しなくても大丈夫そうだな。それから俺は1秒たりとも勉強しなかった。


 時は流れ現在。試験1週間前だ。俺は少し心配になり半年前に見たきりの試験要項を見た。そうだ。持ち物を一つ決める必要があったんだ。浩輔はどうするんだろう。俺はスマホで浩輔に電話をかけた。


「もしもし。佐久間さくまだけど」

「おう、陽一どうしたんだ?」

「お前さあ、羽葉土大学の試験どうするんだ?」

「どうするって?」

「持ち物だよ」

「ああ、持ち物ね。俺はかさばるけど、自分らしいものでサッカーボールにするよ」

「なるほど。サッカー部だもんね」

それから少し談笑した後俺は電話を切った。俺は自分の部屋を見渡して何を持っていくべきか考えた。本来ならなんでも調べられるスマホやらパソコンを持っていくべきだが電子機器を持っていくのは不可能なので俺が大切にしてきた物をいくつか机の上に並べてみた。中学生の時から使っているギター型のキーホルダー、めちゃくちゃ綺麗な10円玉、使いもしないのに買った1000円のシャーペン・・・etc.。

7つ並べてみたがどれも役に立ちそうにない。そもそも自分の大切な物なんか持っていって何に使うんだ?7つを俯瞰ふかんしてみたがどれもしっくりこない。腕を組み首を捻っていると勉強机の片隅に置いてあるカラクリ人形が目に入った。これは確か俺が子供の時に母方の祖父から貰った人形だ。俺は祖父が大好きだったので祖父が亡くなった後でもこの人形を机の上に飾っていたのであった。そうか、これがあった!俺はそれを手に取り注意深く眺めた。ちょうど手のひらサイズで真っ赤な武士の羽織りを着て真っ黒なちょんまげが特徴的だ。顔は白塗りで漆黒の太い眉が際立っている。口はうっすらと笑っているように見える。手には日本刀を持っていて振り上げた状態のままだ。祖父はこのような武士のカラクリ人形を作るのが趣味であった。確かこれを祖父は失敗したからあげると言って俺に渡してきた記憶がある。一体どこが失敗だったのか分からないがそれでも十数年たった今後ろのゼンマイを回してもしっかりと動いた。腕が上下に動き刀を振っている。左右の腕には白字で努力、根性と書いてある。さらに日本刀には一刀両断丸と刻まれている。なんとも物騒な名前ではあるが少し可愛げのある名前だ。しかしこの人形自体の名前は何処にも書いていなかった。まあとにかく持ち物が決まってよかった。ひと安心したところで微睡んできたので俺は眠りについた。


 それから1週間が経ち試験当日。朝起きて洗面台にある鏡を見ると寝癖で頭がボサボサになっていた。これから試験だと言うのになんともだらしないと思ったがすぐに手ぐしで直して前髪が眉にかかり髪型が整った。そろそろ切った方がいいなと思いつつ朝食を食べ、浩輔と共通の最寄駅で待ち合わせをして試験会場へ向かった。羽葉土大学の近くの家得駅いええるえきに着いて駅の外に出ると俺らは驚愕した。


「田舎すぎだろ!」

2人して叫んだ。それぐらい田舎であった。一面田んぼで遠くの方にぽつんと学校らしきものがあった。俺たちはそこに向かって誰もいない田舎道を大丈夫かよと思いながらトボトボと歩いていった。


序章・其の弐へ続く


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