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ビキニアーマーの鍛冶屋さん

作者: 都次 貢

短時間で読める童話みたいな小話です。

「不慮の事故により天寿を全う出来なかった魂よ。あなたに新たなる生を授けましょう」


 目の前には後光が差した古代ギリシャ女神のような金髪の女性がいる。いきなりの事で事情がよく呑み込めていない俺の問いに、その女性は懇切丁寧に説明をしてくれた。


「それでは新たな生を歩むあなたに一つ、神々からの贈り物を与えたいと思います。何か希望するものは有りますか?」

「あ~、え~と……その、ちょっと作ってみたい鎧があるんで、それを満足に作れる能力が欲しいなぁ、と」

「…………少々お待ちを」


 女性は口に手を当てると、声を張り上げた。


「鍛冶の神様ー! 鍛冶の神様ー? おられましたら転生の間・第三十六番までお越し願いますー」

「ほいほい、何ぞ呼んだかいのぅ」


 女性が呼ぶと、何もない所から一人の男性が現れる。何となくサンタクロースを思わせる豊かな白髭と赤ら顔に筋骨隆々とした二の腕。服装を見てもいかにも鍛冶屋、といった感じだ。


「こちらの魂の希望が「満足のいく鎧を作る能力」が欲しいとかで」

「おぉ! それは何とも嬉しい希望じゃのぅ!」


 女性の説明が若干気にかかったが、目を輝かせてこちらを見る男性に思わず恐縮してしまう。いや、何せ俺が作ってみたい鎧って言うのは、ここだけの話「ビキニアーマー」なのだ。己のフェチズムに胸を張って言える程俺の心臓は強くない。


「うむうむ、良いぞ良いぞ。世界に名を轟かせるような名工に相応しい能力を授けてやろう!」

「え? あ! そ、そこまで大げさにして頂かなくても結構です!」

「はっはっ、遠慮するな! 儂が転生事業に関われるなんざそうそう無いからの! 大盤振る舞いじゃ!」

「あ、ちょちょっと?!」


 男性が両手を掲げると、キラキラと光の雫が俺に降りかかってきた。


「あの、鍛冶の神様の領域ですと、現在空いている器が女の子しかありませんが」

「え?」

「構わ~んっ!! 鍛冶道を全うするに男女差など関係無い!! 情熱さえあればそれで良いのじゃあ!!!」

「いや、まって!!」

「では、あなたの新たなる生に、幸多からんことを」


 身体が不意に光り出し、俺の意識はそこで途切れた。



 ◆◆◆◆◆



 なんてことがあって、俺……あたしが「神々の鍛冶屋」と言われるドワーフ族の街に生まれて十五年が経った。

 活火山の麓に作られたこの街は鍛冶と温泉業で栄え、住民のほとんどがドワーフ族で形成されている。両親は勿論ドワーフ族である。当然あたしもドワーフ族(♀)である。


 その街を今、十五歳に成ったあたしは出ていく。理由は単純だ。


 それは、この街だと「ビキニアーマーを着てくれる人がいない」から!



 ……本音が漏れた。



 建前上は、この街では鍛冶能力が低いあたしでは生きていけないから、外へ出て冒険者になる。っていうのが理由になる。十五歳まで待ったのは、ドワーフ族の成人である十五歳を過ぎないとこの街から出てはいけない決まりがあるからだ。


 神様から能力貰ったくせに「低い」とはどういうことだ、と思われるだろうが、まぁちょっと聞いて欲しい。


 生まれ変わる前に鍛冶の神様から貰った能力は、ぶっちゃけ「チート」過ぎて街の伝統と秩序を破壊しかねない程のモノだったのだ。

 俺ツエー! ヒャッハー!! 出来る性格だったら良かったんだろうけど、どちらかというとあたしは平々凡々に趣味を楽しみながらのらりくらりと平和に生きていきたい、と考えている。

「出る杭は打たれる」ってのがはっきりと判る状況で自ら進んで出たいとは思わない、小市民なのだ。


 だから五歳くらいの時に、この街にある鍛冶の神様の神殿へ初参拝した際、駄目元で神様にお祈りしてみた。

 そうしたら神様の側に祈りが届いたらしく、こちらの意を汲んで下さり、能力を他者から隠匿偽装する術を新たに与えてくれたのだった。有難くも勿体無い事である。


 その新たに頂いた術が、この度あたしが街を出る建前に繋がっていく。ドワーフ族固有の能力全てにおいて最低ランクのあたしは、この街では「役立たず」になった。

 十歳の頃に受ける能力判定の時にその術の確かさを実感したあたしは、その後の周囲からのあからさまな変化に不満を漏らすことなく十五歳になるまでじっと待ち続けた。

 ああ、もちろん両親はそんな事に関係なくあたしを育ててくれたのは言うまでもない。両親が味方でなければ早々に飛び出していただろうな。今回この街を離れるのは、あたしのせいで両親に累が及ぶのを防ぎたかったからでもある。


「父さん、母さん。行ってきます。この街で武器が買えるくらい稼げるようになったら、また寄るね」


 あたしは笑顔で両親と別れ、荷物一杯のリュックと僅かな路銀と共に、冒険者となるべくドワーフ族の街を後にした。





 ……それから数年後。

 あたしは冒険者として、女戦士、女騎士、女盗賊、女僧侶、女魔法使いと共に高難易度ダンジョンの最下層を探索していた。


「ねぇ鍛冶屋さん? どうして私達簡単にモンスターを倒せちゃうの?」

「それはね、あたしが鍛えたビキニアーマーを着ているからだよ」


「ねぇ鍛冶屋さん? どうして私達ドラゴンの炎息(ブレス)を喰らって無傷なの?」

「それはね、あたしが鍛えたビキニアーマーを着ているからだよ」


「ねぇ鍛冶屋さん? どうして私達丸三日疲れもせずに元気で探索しているの?」

「それはね、あたしが鍛えたビキニアーマーを着ているからだよ」




「……ねぇ、鍛冶屋さん?」

「なんだい?」



「どうして私達、ビキニアーマーを着ているの?」


「……それはね」




「お前達を(性的に)喰っちまうためだよ!!!」


 ギャ~~~~~~~~~




 父さん、母さん。あなたの娘は良き仲間を得て、たくましく生きています。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ビキニアーマー職人の活躍の詳細が気になりすぎますっ! [一言] ハイレグアーマー が なかまに なりたそうに こちらをみている!
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