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赫銀伝記-炎氷の天狐-  作者: IOPOQ
邂逅
9/22

7 天狐と魔女の薬

お読みくださる方がいらっしゃって驚いております。嬉しすぎて太陽まで飛べそうです。もう!もう!

まだまだ始まったばかりなのでよろしくお願いしますー!

本当にありがとうございます!




目を開けると僕は広い部屋のベッドの上に寝かされていた。


あれれ、どこだろうここ。

僕はなんでー?

確か目のたくさんついた蛇に襲われてそれから…。

うーん。

記憶に霞がかかっている。

心にぽっかり穴が開いたような。


体を起こしてきょろきょろと部屋を見渡す。

銀色の煌めきが僕の体を覆っていた。


なんだろうこれ?

あたたかい。


奥の机で羽ペンがひとりでに何かを書いている。

すごい。あれは魔法だ。

棚には古そうな本が積まれて、山のようになっている。

羽ペンがぱたりと倒れ、細かな文様が書かれた紙が空中に消えた。

わあー。


窓の外には雪に覆われた森が広がっていた。

雪だ!

…ええ、雪?

森の端っこまで見える。

ここすっごく高い所なんだろうなあ。


たしか僕はあの森の泉で女の人に抱きしめてもらって…それから…。

僕そんなに長い間寝てたのかなあ。

冷たい空気に体が震えた。


突然何もない空間が歪み、黒い服を着た女の人が現れた。


「うわあー!」

「…起きたか。気分はどうだ?」


僕は驚いて声を上げた。

女の人は僕に近付き、それから額にキスをした。

同時に僕を包んでいた銀色が消えてしまった。


「あっ、あの、ええと、だいじょうぶ、です。」

「…そうか、よかった。」


女の人は僕を抱きしめながら言った。

なんだか恥ずかしくなってしまったけれど、太陽みたいな金色の瞳が温かくて、星みたいな銀色の髪がきれいで、つい女の人にすり寄ってしまった。


「あの…、あなたは?僕はどうしてここに…?僕はどのくらい寝ていたのでしょう…?」

「私はジル。魔女だが人間ではない。この城の主でもある。お前はこの城の森に入り込んだせいで警備代わりの魔物に襲われて倒れていたんだ。それを私が見つけた。私がお前を拾ってから今日で丁度3ヶ月だ。」

「うーん、あ、えと、助けてくれてありがとうございました…。」


女の人は放してくれない。

抱きしめられながら聞かれた。


「ああ、それよりお前。名前は言えるかい?」

「はい、僕は…僕は天狐のルグランです。5つになります。…人化はまだ出来ません。」


子狐はジルの腕の中で耳を伏せてしゅんとした。

ジルはルグランを見つめて笑った。


「……くっくっ、そこまで言えるのならば上出来だ。」


ルグランは困ったような顔をした。

ぽんぽんと頭を撫でられる。


「あの、僕は…、何か忘れていることがあるみたいで…思い出せないんです。これまでの事…。」

「…ああ、その話はお前の体調を見つつもう少し先にしたかったんだがな。すまない、私は隠し事が苦手なんだ。」


ジルは少し切ない表情をして立ち上がった。

片手を天に翳し、塔に入り込む光を完全に遮蔽する。

そして、手を伸ばした先にできた空間から若草色の液体が入った小瓶を取り出して僕に差し出した。


「飲め、害はない。私が調合した薬だ。すまないが今からお前は少しつらい目に合う。だがお前のためだ、我慢してくれ。大丈夫、安全は私が保証しよう。」


僕は頷いて小瓶を受け取り、栓を開けた。

液体を眺める。

ほんのり甘い香りがする液体をぐいっと一息で呷った。

なんだろう、ふわふわする。


「私が見えるか?」

「……れれ、なんだか白くてー。」


ルグランが急に倒れこむ。

ジルが魔法で支えた。


「始めるぞ。」


部屋の灯りが全て消えて、暗闇が2人を包んだ。

ジルはベッドに上がり、子狐の額に自分の額を押し当てて目を閉じる。


『お前はな、魔力暴走の反動で記憶をなくしているんだ。つまり昔のことを忘れているんだよ。だがそれでは前に進めない。生きるために思い出せ。ルグラン、お前は誰だ‐』


銀色の光が二人を包んだ。

次の瞬間ルグランの耳が赤く、尾っぽが青く発光し始め‐

部屋に風が吹き荒れる。


暖かい銀色のものを感じた。

瞬間、僕の頭の中に記憶がものすごいスピードで雪崩れ込んでくる。

里の森、光る道、文字の書かれた壁画、天狐の里、夕暮れ隣で手を引いてくれてるおじさん、毎日抱きしめてくれたじいさま、帰ってこないとおさまの話をするかあさま、血を流して倒れる黒い天狐に迫る炎、僕のお腹を貫く鋭いもの…


「…ああああ、そ、うだ。じいさま!僕じいさまのとこへ帰らなくちゃならないんです!!!里が、…あれ、どうしてだろう…、だけどとにかくじいさまの…!!!」


ルグランは急に取り乱してジルにしがみついた。

耳と尾っぽがおかしい。

怖い…!


驚いた。

薬で抑えたのに関わらずこの威力。


「凄いな…。」


体内の魔力が噴き出して風となっていた。

ジルはルグランの肩をぐっとつかみ揺さぶりながら声をかける。


「おい!落ち着け。落ち着いて聞け。お前の爺様は大丈夫だ。私が治療した。」


暗闇が銀の光で満ちる。


ガタガタ震えて記憶を拒絶するルグランの体を抱きしめて頭を撫でた。

撫でながら鎮静の魔法をかけてやる。

だいじょうぶ、だいじょうぶ。

落ち着いて。

少し経って、ルグランの体が銀に輝いた。


「ああああ、ああ、そ、うなんですか。

……じ、いさま、じいさま、よかった!よかった!!!」


ルグランはジルの瞳を見つめた。

そうして吸い寄せられるようにジルの胸に顔をうずめる。

冷え切っていた心が温まっていく感じがした。

薄氷に色付いた尾っぽが微かに揺れた。


「怖かったな。すまない。お前の記憶封じを強制的に解いたんだ…。お前に起こった出来事はな、今のお前には理解できないはずだ。とても複雑なんだ。今も、この先も知らなくていいことだと私は思っている。だがな…」


ジル様が体を離して、正面から僕を見つめた。


「お前は他の奴よりも特別で、これから先お前を狙う悪い奴も増える。里に戻れば里にも危険が及ぶんだ。」

「じゃあ、じいさまは、僕のせいで…?」


ルグランの胸に不安が込み上げた。

どうしよう、僕がじいさまを…。傷付けたんだ。


「それは違う。お前の爺様は必死にお前を守ったんだ。叔父上だってそうだぞ。」


ルグランが顔を上げる。


「おじさんも…?」

「ああそうだ。お前は皆を愛し、皆から愛されているのだ。お前の爺様には休養が必要だ。お前が寝ていたようにな。だから…だから私はお前に手を貸そうと思う。…お前が独り立ちするまでこの城で暮らさないか?」


銀色の風が吹いた。

子狐の薄金の双眼に溜まっていた大粒の涙が溢れた。

ジルは涙を優しく指で拭ってやる。


「じゃ、あ、じいさまは元気で、里もみんなもだいじょうぶでっ…ぼく…ぼくは!」


とおさまも、かあさまもいなくなってしまったし、じいさまも怪我をしてしまった。

いつかおじさんのことを傷付けてしまうかもしれない。

里が恋しいけれど、あそこに僕の居場所はなかった。

寂しかった。

だけど…ぼくはここにいていいんだ…!


ジルは強く子狐を抱きとめる。

ルグランはジルを見つめて言った。


「ジル様、僕を、よろしくお願いします…!」

「ああルグラン、お前には学ばなければならないことがたくさんある。」

「…はい。」

「お前は強くなれる。私の元で生きる術を学べ。それから世界を見るんだ。この星は美しいぞ。」

「はい!あの、ジル様?」

「なんだ?」

「…文字も教えて下さいますか?」


ルグランはそう言うと俯いた。

ジルはくっくっと喉を鳴らして笑い、抱きしめていたルグランを離した。

窓を開け、外の光を取り入れる。

太陽が雪に反射して煌めいている。


「ルグランならきっと文字の覚えは早いはずだ。文字だけじゃなくて魔法の練習をしなければな。あと人化もな。この城には良い先生が大勢いるぞ。…まだ先だとは思うが、落ち着いたら爺様に会いに行こうか。」

「…はい!」


ルグランはジルに初めて笑顔を見せた。

思わずわしゃわしゃする。


「さてと、ルグラン少し休め。あれは思いの外体力を使うんだ。私も隣で寝るぞ。起きたら何か食べに行こう。」


ベッドに上がったジルはすぐに横になるとそのままルグランを抱きしめた。


「…ジル様、1つ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「僕がさっき飲んだのってなんのお薬なんですか…?」


ルグランがベッドの中でモゾモゾ動いた。


「ああ、あれはな。…お前がこの城から出れなくなる薬だ。」

「ええっ!」

「くっくっ、私の特別製だからな。」

「じゃあ、記憶の魔法と関係ないじゃあないですか!」


ルグランがぴょこっと顔を上げると頭をぽんぽんされた。


ジル様の髪は雪よりも輝いていてすっごくきれい。

お顔もすっごくきれい。

いい匂いのするジル様にくっ付いていたら、眠くなってきてしまった。


夢の淵でこんな言葉を聞いた気がした。


「…大ありだ。私はお前にずっとこの城にいて欲しいのだ。」


ジル様のようなかみさまみたいな人に助けてもらえること自体夢みたいなのに、今のは絶対夢だなと、僕は思った。



薬の効果は魔力抑制でしたー✱

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