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赫銀伝記-炎氷の天狐-  作者: IOPOQ
魔女の城
19/22

16.5 閑話 ある堕天使の手記



幾重にも厳重な結界の張られたその部屋に、必要な資料はあった。

部屋は、悪魔を召喚したその日かもしくは、主が一緒でないと入ることができない部屋だった。

ジルの側近で、ダークエルフのレピダは部屋に続く黒石の道を精霊魔法で照らしながら進む。


『レピダ様、この先は僕たちの魔法も遮断されます。どうかお気をつけて。』

「ええ、ありがとう。助かったわ。」


発光して道を照らしている宙に浮く緑色の男の子は、目的の部屋に近付くにつれて少しづつ輝きを無くしていった。

こつこつとレピダの足音だけが聞こえる。

部屋の前についた時、辺りは完全な闇と化した。

少しの魔力を右手に宿し、目の前の何もない空間に触れる。

すると、暗闇にぽっと赤い花が咲いた。


「我神秘を望む者 此処に在り」


結界はレピダの魔力と言葉に反応して解かれた。

そうして、何もないはずの空間が酒蔵に変わった。

物凄い量の酒瓶が並んでいる。

横を見ると窓らしきものはあるのに、もう何十年も空気の入れ替えがなされていないようで、本当に息が詰まる。

酒蔵の一番奥に目的の箱があった。

宙に浮かぶ箱は透明で、継ぎ目や取っ手は確認できない。

中には一冊の本が入っていた。

レピダはぴっと人差し指の腹を切って、箱に垂らした。

瞬間、箱の中から本だけがするりと抜け出してレピダの手に収まった。

だがよく見ると、本と箱は鎖のようなもので繋がれている。


「へえ、こんなに厳重なんじゃあ、もし城に入れても盗めないじゃない。」


じゃらりと垂れる鎖をひいて、近くにあった椅子に腰掛け本を開いた。

すうっと小さなテーブルも出てきた。


「あら、どうもありがとう。親切な部屋ね。流石は堕天使様の手記の保管部屋と言うところかしら。」


言葉は部屋に吸い込まれた。

レピダの周りだけに、読書には丁度いい位の明かりがともった。

それから彼女は堕天使の手記に目を落とした。



星が創造された時、そこには神と精霊しかいなかった。

ある神は、人や獣や魔物など、あらゆる生命を生み出した。

そして精霊は、星の命を繋ぐ潤いを与えた。

やがて、長い時間の流れの中で、力を無くした創造神はある力を残して姿を消した。


神は消えた、はずだった。

本来、神なる存在は聖域にしかいない。

天界と下界の中で、争いに強き命が神を名乗った。

愚かな神は生きる者に善を教え、また悪を教えた。


彼らは、創造された星の活動の中で、善と悪の歪みから生まれた。

その歪みは自然なもので、彼らが生まれるのもまた、必然であった。

元は神であった者、元は精霊であった者、元は獣であった者、様々な悪魔が生まれた。

悪魔という存在は世に仇をなす悪として、恐れられてきた。



ここまで読んでレピダは顔を上げた。

これはどういうことかしら。

大戦でジル様は愚かなる神と思われる存在を倒されたわ。

でもこれでは…。

“善を教え、悪を教えた”

愚かなる神の意志が残っていてもおかしくないわ。


そう思考している最中、突然レピダの体は金縛りにあったかのように動かなくなった。

どうしよう、油断していたわ。

背後に気配を感じた。

なにか、いる。

全身に魔力を纏った。

レピダの赤い髪が揺れる。


「…どちらさまかしら?」

『脅かしてすまない。私の手記を読む賢き者はお前か?エルフの子よ。』


透き通った少年のような声だった。


「…ええ、“私の手記”って貴方まさか。でも貴方は800年前にお亡くなりになられたはずよね?」

『その通り、肉体的にはな。お前の主は凄いぞ。こういう時の為に魂だけが残されたんだ。』

「…それじゃあやっぱり、手記を書き換えたのも貴方?」

『エルフの子よ、書き換えたのではない。思い出したことを追加しただけだ。』

「思い出したこと…?」

『そなたは賢いから必ずジルの役に立てるだろう。サタンの子にもよろしく。さあ、煩くなるぞ…』

「ちょっと!待ってくださいよ!まだ聞きたいことが…」


ふっと体が軽くなったのを感じて、後ろを見たがそこには何もいなかった。

レピダは堕天使の言葉を思い出しながら、先ほど読んだページを読み返そうとした。

が、意識はすぐに外で響いている騒音に向けられた。

何?今度は何よ?


「ちょっと!取りに行くだけだから私1人で十分だわ。鳥は戻ってなさいよ!!」

「はあ?なんも面白くねーよ。お前こそただの猫じゃねーか。」


視界に広がる炎の柱と水の球。

じゅうっ。

一部炎が蒸発した。

水猫は尾っぽをゆっくりと振りながら燃える不死鳥に水弾を浴びせている。


「うわっ、ありえねえ!俺が無くなっちまう。このー!!」

「ふん!熱いから丁度いいわ。」


「「…あっ。」」


2人はようやくレピダに気が付いたようだった。

魔法をぶっ放して取っ組み合いながら酒蔵に入って来たのは、水猫と炎鳥姿のバアルとフェネクスだった。












「ほんと、変わらないわねえ貴方たちは。力は戻った?」


手記を閉じてテーブルに伏せた。

そして、レピダは座ったまま2人に向かって微笑んだ。


「レピダ!ひっさしぶりだなあ!この通り戻ってるよ!」

「あら、レピダじゃない。まあまあってとこねー。」


彼らの目的はすぐに分かった。

酒か。


「そうそう!血酒をね!聖獣様と絆を結ぶのよ!…貴女こそ何していたの?」


水猫から人型になったバアルが聞いた。

隣でフェネクスも人化している。


「お?それエレト様の手記じゃねーの。」


バアルとフェネクスがレピダの椅子に両肘置きに腰を置いた。

手記を手に取るフェネクス。


「ちょっと調べたいことがあってね。間違い探しをしていたの。案の定新しい発見があったわ。」

「へえー。俺にはよく分かんねー。まあ、何かあったら頼れよ!」

「ホントそうよ。あ、それと、私達ルグラン様の先生役になったのよ。だから暇なときは書庫に顔出してちょうだい。」


レピダは、悪魔の中でも特にこの二人と仲が良かった。

2人の悪魔を見てくすくすと笑った。


「ありがとうバアル、フェネクス。で、2人はお酒を取りに来たんでしょう?」

「「あ!」」

「…レピダまた今度な!」

「頑張ってね、エルフちゃん。」


それから酒瓶を手にして嵐のように去っていった2人の後ろ姿を見送って、再び手記を開いた。

詰まりそうだった息を抜いたせいか、頭は良く冴えていた。




お読みいただきありがとう。なのだ。

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