14 銀陽の召喚魔術
目を覚ますと僕はジル様の腕の中にいた。
なんだか暖かくなって…これはきっとジル様が魔法をかけてくれて、それから…。
遊んで疲れたのに体が随分楽だ…!
僕はジル様の上の中でひょいっと顔を上げて、ジル様を見つめた。
「あ、ジル様…僕寝ちゃってて。」
「カルノと2人楽しめたかな?」
「はい!とっても!」
ジル様が僕を抱き上げて籠から降りる。
降りると籠はしゅるんと音を立てて解けていった。
「カルノさん!とっても楽しかったです!あの…最後は僕寝ちゃって…。」
『ハい、マタあソビマショう。』
カルノさんがツタをくねくねさせながら僕に巻きついてきた。
「うん!ありがとう!」
僕もカルノさんの体にぎゅーと抱きつく。
ジル様に抱かれながら。
「よかったわね、ルグランちゃん。」
レピダがその様子を見つめていた。
精霊達は、ルグランが目覚める少し前にどこかへ行ってしまっていた。
「こんにちは、レピダよ。私はジル様のために色々な研究をしているの。同じ側近のドルキスみたいに外を相手にするのは向いてないのよね。だからここで怪しげな術を調べたり〜、薬を作ったり〜、ね?まあ、仲良くしましょう!」
エルフだ…!
エルフ特有の長い耳に、黒い肌に映える真紅の髪と瞳。
ジル様とは違った感じの、大人の女の人が僕に笑いかけた。
「ルグランです。よろしいおねがいします。」
「うん!よろしくする!」
レピダさんはそう言うと、駆け寄ってジル様ごと僕を抱きしめた。
ジル様が慣れたように体を離す。
「さて、では行くか。カルノ、ここから直接書庫に向かう。上を開けてくれ。」
『カシコマリマシタ。ルグランサマ、マタネ。』
またね、と僕が返答しようとした瞬間にはもう僕達は暗闇の中にいた。
頭上の空間が裂け、城の廊下空間に引き込まれたらしい。
レピダさんも一緒だった。
「ルグランちゃん?びっくりしちゃった?」
「あっ、…はい、かなり。」
「カルノの庭からだと直接書庫に行けるようになってるからな。空間に繋がった瞬間飛ばされる。出るときは用を終えてから開けてもらうように言え。」
ジル様が僕の頭をぽんぽん撫でながら教えて下さった。
ほんの少しすると、上から何かが下りてきた。
それは、僕を抱くジル様とレピダさんの目の前で止まった。
暗闇の中で浮かぶガラスのように透明な箱形。
「書庫にはこれに乗って行くんだ。待っていれば降りてきてくれるからな。もちろん、転移でも行けるぞ。」
「おおおー!カルノさんの籠とは違いますね!なんとなく似てる感じはするんですけど…」
僕は箱からカルノさんと似た魔力の波動を感じた。
なんかこう…ジル様のとは違う…。
「ふふ、そうねルグランちゃん。カルノちゃんは精霊だけど、状態変化だものね。この箱も精霊魔法なのよ。」
「精霊?」
精霊って、じいさまが言っていたあの精霊?
とても尊い存在で、生き物には決して姿を見せないってじいさまは言ってたのに…。
カルノさんが精霊?
思考して首をかしげる僕にジル様が言った。
「カルノのことはまた今度教えてやる。それとこの箱の精霊魔法はな…まあ、行けばわかるさ。」
「は、はい…。」
そうしているうちに、僕たちを乗せたガラスの箱はまたもや立派な扉の前で止まった。
研究室の扉よりも大きい扉は、この空間に溶け込むように黒く、どこか荘厳な雰囲気を漂わせている。
「さあルグラン、ここが我が城の書庫兼…悪魔達の棲み処だ。」
「…えっ?」
僕が声を上げるのと同時にレピダさんが扉を開けた。
扉の内側は移動空間と同じくらい暗く、闇に包まれていた。
床は艶やかに光る黒い石で舗装されていて、壁も同様だった。
石は壁に掛けられているランプの灯で煌めいている。
室内を見ると、見上げても先が見えないほど高い天井に続く円の壁に沿って規則正しく本が並べられている。
1階部分には、正面と左右にドアがついており、この先にも部屋があるようだった。
「ではジル様、私は調べ物がありますのでここで失礼しますね?ルグランちゃんも楽しんでね!」
レピダさんはそう言うと、ジル様に抱き着いた。
「ああ、また何かあったら連絡してくれ。」
僕もぱたぱたと尻尾を振った。
そうしてレピダさんは、左のドアに消えていった。
✱
「さあ、ルグラン。書庫の守番と文字を教えてくれる先生に挨拶をしようか。」
ジル様が部屋の中心に向かって歩みを進めた。
「…!先生、ですか…!」
「ああ、そうだ。奴らは一応悪魔だが…この世界で奴ら以上の知識を持っている者は居ないからな。」
「あ、悪魔…。」
無意識に僕の耳は、カルノさんと初めて会った時のようにしゅんと伏せてしまう。
それとは対照的にジル様は物凄く自慢げだ。
ジル様が小さな声で、でもはっきりと聞こえる声で僕に言った。
「奴らは悪魔だが…本当にいい奴らなんだ。それにな…私と血の契約を結んでいるから問題ない。」
血の契約が何かは分からなかったが、とにかくいい悪魔達なんだろう。
僕はジル様にしがみつきながら彼女の様子を見ていた。
ジルが部屋の中心に立つと、ぼうっと銀色の陣が浮かび、きちんと整列した石像が現れた。
人型をした像に獅子のような像、蛇のような像など色々なものがある。
石像には番号が振られており、最上の左端に1、最下の右端に72という数字が彫られている。
整列した石像は銀色の鈍い光を放っていたが、その中で6体だけ色付いたものがあった。
ルグランに数字はまだ読めていないのだが、色が付いた石像の数は分かったようだった。
「では、ここで少し待て。」
「…あ、」
ジル様が宙に結界を張って、僕をそこに入れた。
そうして、自身の懐からナイフを取り出した。
ナイフ…?
ジル様、それは危ないよ、痛いやつだよ…?
僕は心配になって思わず彼女の名を呼んだ。
「ジル様…?何を…」
「大丈夫だ、今から見せるのは魔法ではなく魔術。血の縛りで私に仕えている書庫の守番を召喚する。正式にルグランの事を紹介したいからな。」
ジル様は自身の髪の毛を数本、ナイフで切って左の掌の上に置いた。
それから、右の手で握りしめていたナイフを…左の掌に勢いよく突き刺した。
ナイフが刺さったままの左手を陣の上に突き出すジル様。
鮮血が溢れ、滴り落ちている。
「ジル様!!!」
僕は結界の壁に張り付いてジル様を見つめた。
ジル様の口元が、“しずかに”と動くのが見えて、僕はへなへなと結界の中に座り込んだ。
左手の傷口から赤い液が垂れている。
見ているだけで痛々しい。
しばらくすると、突き立てていたナイフがゆっくりとジル様の掌の中に吸い込まれる。
もう一つ不思議なことに、傷口から垂れたジル様の血は、陣の模様と重なるようにして広がっていく。
静まり返った書庫にジル様の凛とした声が響いた。
『銀陽に仕えし者共よ 血の縛りの下 我に従い姿を現せ 星は汝らの望みを聞こう』
陣が銀色に発光して辺りは真っ白になった。
反射的に閉じていた目を開けると既に光は収まっており、同時に深紅に染まっていた陣がすうっと消えていった。
がたがたがたっ。
突如、色のない銀の像が揺れだした…が、揺れているだけで何も起こらない。
色の付いた像を除いては。
「我らが尊き主様、お呼びでございましょうか?」
声が、した。
途端に、猫、犬、梟、火の玉そして2体の天使像が動き出して宙を駆ける。
僕は強力な波動を感じた。
恐ろしいほど大きな波動だけれど、どこか違和感があった。
迫力に欠けると言うか…。
6体は宙を駆けながら、それぞれ不完全な人型に変化した。
やがて、ジル様の前で一列になり、片膝をついて敬愛を示している。
「とまあ、召喚魔術はこんな感じだ。」
そう言って、僕を見て笑ったジル様が結界を解いて僕を抱き直した。
召喚には驚いたけれど、ジル様の怪我の方が心配だった。
「ジ、ジル様…お手々は…」
「ああ、平気だよ。ほら。」
そう言って僕に左の掌を向けた。
真っ白でつやつやなジル様の手はいつも通りで、傷1つなかった。
心配させてすまない、と僕の頭をわしゃわしゃ撫でるジル様。
それから、ジル様が腕の中の僕を見て、それから6体の方を見た。
「ルグラン、紹介しよう。私に仕える72の悪魔の中の6体だ。こいつらにも色々あってな…、悪魔なんだが悪魔的な力は弱い。療養中といったところかな。故に72体の中で今実体化出来るのはここにいる6体だけなんだ。」
お読みいただき感謝です!




