11 子狐と魔女の城
「すまなかったな。ドルキスはああ見えて面倒見も良い、優しい奴だ。何か困ったことがあれば執務室に来い。私とドルキスは大抵そこにいる。」
「はい、ジル様。」
僕はジル様に抱えられて執務室から出た。
こつこつ。
城の長い石の廊下をジル様のブーツの音が響く。
廊下は歩を進めるごとに、やんわりと銀色の光を放っている。
まるで里の近くにあるあの建物みたいだ。
天井を見上げると、塔の部屋のようにガラス張りになっていて青空が映っている。
ここは1番高い所なのかな?
少し歩くと目の前に扉が現れた。
精巧な彫刻が施された二枚開きの扉は森の木よりも高く、なんだか少し不気味だ。
「ルグラン、今から私の城を見せて回るが…同時にここはルグランの家でもあるんだ。こんな城だが、喜んでくれると嬉しいぞ。」
「ジル様、ここはすごい所です!あの天井だってすっごく空が近い!」
扉をまじまじと見つめる薄金の瞳が輝いている。
「くっくっ、あの天井も魔法だ。では行くか。さあしっかり摑まれ。私は普段、転移で移動するが…この城は本来こうやって移動するんだ。」
扉がゆっくりと開く。
次の瞬間、ぐいっと引っ張られた感覚がして思わずジル様にしがみついた。
目の前には、天も地もないただ暗いだけの空間が広がっている。
ジル様はその空間でふよふよと足を動かして進んでゆく。
ステップを踏む度に足元が銀色に発光した。
「ジ、ジル様…ここは一体どこなんですか?」
「ふふ…ここはな、この城の最大の不思議、この城の1番の売りなんだ。この空間は魔法で作り出していてな、普通の建物の廊下にあたる部分なんだ。この城の場合、“移動したい”と思えば扉が現れる。空間は自動的に目的の部屋に繋いでくれるんだ。」
「すごい…!!!」
「まあ単なる侵入者対策だ。悪いことを企んでこの空間に足を入れると地下牢に直結するって始末なんだよ。」
「ジル様、このお城、外から見た時ドラゴンの骨に突き出した塔にしか見えなかったんです…なのに、すごいです!」
ルグランは初めて城を見つけた時のことを思い出していた。
ジルは少し驚いた顔をした。
「ルグランには塔まで見えるのか。流石私の見込んだ子だ。普通この城は、ただの骨にしか見えないんだ。」
そう言って僕の頭を撫でた。
しばらくして、遠くに踊り場のような平面に佇む扉を確認した。
ジル様が僕を抱えて扉に向かって進む。
その途中、ジル様の腕の中でこのお城のお話を聞いた。
骨の主はジル様のお友達だった古龍で、ジル様にとってはにいさまのような存在だったこと。
古龍が死ぬときに自らの骸を城にしてくれ、とジル様に頼んだこと。
古龍の魂が霊となって骸に留まりこの城の警備をしているが、気まぐれでたまにしか姿を見せないということ。
「霊体になってからも奴は本当に気まぐれでな、まあ、会えばわかるさ。よし、この辺からなら大丈夫だろう。ルグランも少し歩いてみるか?」
ジル様が僕を見つめる。
「はい!やってみたいです!」
「手を離すなよ。怖がらなくていい、ただ歩くだけで良いから。」
ふよふよ。
ジル様が上手く浮けない僕の手をしっかりと握ってくれている。
何だか不思議な感じだ。
「ではゆっくり離すぞ。そのまま足を動かしてみろ。向こうの扉に向かうから私についてこい。」
「はい…!」
うなずいてステップを踏んだ。
自由になったルグランの体が空間に漂う。
ふよふよふよ。
わあ、ちゃんと浮いてる!!
移動してる!
何だか水の上を歩いてるみたい!
ルグランの足元はほんのり赤く、ほんのり青く発光していた。
「そうそう、上手だ。」
「ジル様、やっぱりこのお城すごいです!」
「くっくっ、それは良かった!」
暗い空間に銀、赤、青とたくさんの光が散らばった。
しばらく歩いて、扉が目前に迫ってきた。
先に踊り場に降りたジル様が、腕を広げて僕を受け止める。
「気分はどうだ?変わりないか?」
「はい、大丈夫です!」
踊り場の前に佇む扉は、先程見たものよりも幾分か質素で古く見えた。
枯れた葉っぱが巻きついている。
「さあルグラン。少し怖がらせるかもしれないが―ここが、この城の研究室だ。」
ジルは部屋に入らずに、ドアを開けたまま立ち止まった。
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