8話
技や才でなく心の在りよう、なぜ人に化けたいか。
分かりそうで分からない。
「とは言うものの、その面外せる日は存外近いやもしれんな」
「……え?そうなんですか? 」
先ほどの問いについて考えていると、おばば様から予想外の答えが返ってきた。
「既にお主は身体だけとはいえ、たった一晩で見事に化けてみせたではないか」
そういえばそうだ、あの時は確か……
「これでわっぱに会えると嬉しそうにお主「わ!わー!なんでもないです!おばば様も言わなくて大丈夫です! 」
回想から現実へと引き戻される。
聞かれた⁉︎そう思い染井さんの方をチラリと伺うが、彼は何故か申し訳なさそうな顔をして座っているだけだった。
聞かれなかったのは良かったけど、なんで申し訳なさそうな顔?
まあいっか、そういえばあの時は確か……
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「稲、まだ起きておったのか?……なに、お主がどのような姿であろうと気にする人間ではなかろうて」
「で、でも!でも……やっぱり相手が狐の姿だと変に気を使わせちゃうかもしれないし」
「いやいや、妾と普通に話しておったぞ?あのわっぱ」
「それに気味悪がられるかもしれないし、もしかしたら嫌われちゃうかもしれないし…… 」
「だからな?妾と普通に話して……」
「もしもそんな事になったら……嫌だなぁ」
「こやつ……聞いておらん。まあよい、妾は先に寝る故な?余り無理をするでないぞ」
里にはたくさんの妖狐が居たが、人に化けることが出来る者は実はそんなにいなかった。
日常生活は妖術で事足りるから不便に思う事は無かったが、子供心に"なんでだろう?"と疑問を持った事はある。
しかし、その頃はまさか自分が"人間と仲良くなりたい"と願うなど思ってもみなかったので大して深く考える事も無かった。
(さっきから妖力を練ってはいるけど……ぜんぜん出来る気がしない。やっぱり無理なのかな……ハッ⁉︎い、いけない!弱気になっちゃダメだ、出会った日に決めたじゃない!あの人と同じ人間の姿になって……"お友達になってください"って絶対に言ってみせるって! )
「よし!もうひと頑張り! 」
そう自分に喝を入れ、再度集中するが……そう簡単にはいかない。ずっと妖力を練っていたため、すでに疲労はピークに達していた。まぶたが重くなってくる。
(うぅ……眠い。ちょっとだけ寝て……それから、また……
……お友達になれるといいなぁ……そしたら"一緒に"いろんな所に行ったりして……そうだ、隣村のお祭りにも"一緒に"行きたいな……それから………… )
この時期、日が昇るのは早い。それに合わせるように蝉達は我先にと騒ぎ出す。夏場にしか聞けない自然の目覚ましに風情を感じるか、それとも鬱陶しく感じるかは人それぞれだろう。
(蝉、うるさい……あ、そうだ……練習しないと。明日はあの人が来るから今夜中に……あれ?何で蝉が鳴いて…… )
寝ぼけた頭が急速に覚醒する。
「え⁉︎朝⁉︎ど、どどど、どうしよう⁉︎寝過ごしたー‼︎……あ痛っ」
焦って跳び起きるが、勢いあまって転んでしまった。
手を突き立ち上がろうとして……
「いたたた……そうだ!こんなことしてる場合じゃ……え、天井が低くなって……何これ」
「喧しいのぉ……朝っぱらから何を騒いでおる? 」
「あ、おばば様!稲、実は寝過ごして……じゃなくて天井が……って!おばば様がちっちゃくなってる⁉︎ 」
「お主が大きくなったのだ……落ち着け馬鹿者が」
そう言われ、自分の体を見てみる。
「え?なんで?人間になってる…… 」
「まぁ細かい事はさておき、よかったではないか」
自分の前足や後ろ足だった部分は立派な人間の手足に変幻しており、試しに動かしてみるが違和感は無かった。
「……や、や、や、やったー!やりましたー!えへへ、これで堂々とお会いできます! 」
はしたないのは分かっているが、嬉しさのあまり叫んでしまった。そういえば顔はどうなっているだろうと思い手鏡を取り出し……
「……え……なにこれ……目が……化けるの…失敗して? 」
「ん?今まで気付いておらんかったのか?お主"寝起き"は決まって…… 」
「お、おばば様!おばば様!顔を隠せる何か!何かありませんか⁉︎ 」
「相変わらず話を聞かん奴よ、お主の"それ"は…………(いや、待てよ? )
ククッ、そうよな?そのような顔、見せられんよなぁ?もし見られでもすれば…… 」
「み、見られでもすれば……? 」
「……嫌われるやもしれんなぁ? 」
「‼︎?? 」
「もしかすると、二度と会ってくれんやもしれんぞぉ? 」
「そ、そんなの嫌です‼︎おばば様、何とかなりませんか⁉︎ 」
「 (こやつ面白いな) ……そうよなぁ、何とかしてやれんこともないが……条件がある」
すると突然、解決策と引き換えに条件を突きつけられた。どんな無理難題を押し付けられるか不安だが時間があまり残されていないのも事実。背に腹はかえられない。
「……その条件とは? 」
「なに、そう難しい事でもない、更に修行に打ち込むと約束するのならば助けてやろう」
「はい!稲、修行もっと頑張ります!ですから…… 」
「よろしい。……あー、確かここら辺に……お!あったあった……ほれ、コレでも被っておけばよかろう」
そう言っておばば様が咥えてきたのは狐のお面だった。良かった、とにかくこれでなんとかなりそうだ。
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そう、あの時は確か……
(稲が修行を頑張る代わりにお面を貰ったんだっけ、って違う違う!そうじゃなくて……んん?結局おばば様に上手く乗せられただけのような?……なんかよく分かんなくなってきちゃった……)




