19話
会場には対戦表の書かれた大きな紙が貼り出されている、試合はトーナメント方式のようだ。出場者は32人、つまり5回勝てば優勝する。
それだけ聞けば簡単な気もするが実際そう上手くいかないだろう。なんせ、勝ち上がると言う事は対戦相手もそれだけ強いということだ、それに聞くところ、助六は未だに一回戦突破すらした事が無いらしい。
といっても過去の戦績はあまり参考にならない、対戦相手が強いというのも今更な話であり、助六自身も強くなった。気にするべきは実力を発揮出来るかといったところだが、見た感じ変な気負いも無く、程良い緊張感を保っている。
そんな中、三人組のカッパ達が助六に話し掛けてきた。背が高いのと、ガタイがいいのと、ヒョロッとしたの、なんともテンプレートな構図だ。
「よう、助六、また負けに来たのか。お前も懲りないなぁ」
三人組の中で一番背の高いカッパがそう言い放つ、見た所こいつが三人のリーダー格であろう。
「恥かくだけだぜ、悪いことは言わねえからやめとけって、な? 」
なんとなくの関係は分かるが、僕は一応助六に聞いてみた。
(この子達、助六の知り合い? )
(うん、オイラと同じ村の子供だよ…… )
(ああ……やっぱり)
助六が特訓して強くなったのを知らないからそう言える、この子達が抱いているイメージだと助六は弱いままなんだろう。
「そう思うなら試合をしてみればいい、きっと君達の考え方も変わるはずだよ? 」
「うおっ!に、人間だ、初めて見た……って、それよりも考え方が変わるってどういうことだよ?あと、その昇り旗めちゃくちゃカッコいいな…… 」
「ありがとう」
「?お、おう…… 」
お礼を言ったら困惑された。しかしここにきてやっと僕のセンスを理解してくれる人に会うことが出来た、このまま昇り旗談義と洒落込みたいものだが……まあそれは後でもいいだろう。それよりも今は……
「どういうことって、僕が言ったのはそのままの意味だよ。助六だって大会に向けて何もしてこなかった訳じゃないからね? 」
「ふんっ、こんな短期間で強くなれるわけないだろ」
「それはどうかな? 」
「くっ!……それならちょうどいいさ、対戦表を見てみな。助六のやつが戦う二回戦、三回戦、四回戦と、俺たち三人組と必ず当たるようになってる。そこで確かめてやるよ……っていっても初戦で負けるに決まってるけどな? 」
「確かにちょうどいいね……んん?なんだい助六、言いたいことがあるって? 」
「なんだよ? 」
「お、オイラ?いや、別に…… 」
「なになに……’’オイラは一回戦余裕で勝ち上がるけど君達は大丈夫?確かめてやるとか偉そうなこと言ってるけど……君達が初戦で敗退したら意味ないんだよ’’だって?」
「な、なんだとっ!助六のくせに生意気言いやがって! 」
「ぇえ!なんで⁉︎オイラそんなこと言ってないよ⁉︎ 」
「上等だ……おい、助六! 」
「な、なにさ…… 」
「お前をボロボロに負かして今言った事、後悔させてやる! 」
「えぇー、オイラじゃないのに…… 」
「だから絶対に勝ち上がってこいよ⁉︎初戦で負けたら許さねえぞ! 」
「う、うん…… 」
そう言い残してノッポ君達三人組は去っていった。
おちょくったら簡単に釣れた、根は悪いやつじゃないんだろうな……きっと素直すぎるだけなんだろう。
「マコト兄ちゃん、なんでオイラを巻き込むのさ…… 」
「いや、なんとなく」
「なんとなくって…… 」
「ああいう素直すぎる奴には言いたい事をハッキリと言ったほうがいい、それに案外仲良くなれたりするかもよ? 」
「そうかなぁー…… 」
「まあまあ、それは置いといてさ。ほら、そろそろ助六の番が来るよ? 」
「うん、オイラ行ってくるよ」
そう言い、助六は土俵へと進む。その背中に僕達は思い思いの声援を送った。
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俺は助六が苦手だ。
いっつもオドオドして、何か言いたそうな顔をしても口に出す事はない。
昔は四人でよく遊んだ、わだかまりなんてものも無く’’助六はこういう奴なのか、なら別にいいや’’程度に思っていた。
でもある日を境に俺はあいつを避けるようになったんだ。
それは俺と助六が川で水切りをしていた時のことだ、俺達はふとした事で喧嘩をしてしまった。理由は覚えてないからほんとにどうでもいいような事だったんだろう、それに俺達といっても俺が一方的に吹っ掛けた喧嘩だった、それで度胸試しをして白黒つけようという事になったんだ。
カッパの村には水神様を祀る小さな祠がある、当然うちの村にもあったのだが俺達子供が勝手に入る事は許されなかった。度胸試しの内容はその水神様の祠からお供え物を取ってきたら勝ちというものだった、今考えるとなんともバカな事をしたと思う。
まあ案の定バレそうになった、俺はすぐに逃げたのだが助六はどんくさいから捕まってしまった。逃げ帰った俺は助六にいつバラされるか不安でビクビクしていた、しかし結果から言うと俺が怒られることはなかった、助六は最後まで俺のことを喋らなかったのだ。
それから俺はあいつに問いただした
’’なんで俺のことをバラさなかった’’
’’本当は俺のこと恨んでるんだろ’’って
でも助六の返事は曖昧で要領を得ないものだった。
俺は助六が何を考えてるのか分からなくて不気味に思ってしまった。
それからだ、それから俺はあいつを避けるようになったんだ、そして仲が悪くなるのに時間はかからなかった。
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土俵の上で助六とその対戦相手が互いに構える、そういえばあいつが相撲をとるのを見るのは数年ぶりだ。
先程はあんな啖呵を切ったがどうせ助六は初戦で負けるに決まっている、あいつは昔からめちゃくちゃ弱かった、それは今も変わってないだろう。
それに対戦相手は俺達からしたらそんなに強い奴ではないが助六にとっては格上だ。
しかし、結果は俺の予想を裏切るものになる、それはあっという間の出来事だった。
対戦相手は低い姿勢で突っ込んでいき、助六もそれを正面から迎え撃つ。そして両者の力が拮抗すると思われた瞬間、助六は迷う事無くあっさりと身を引いた。対戦相手もここで引かれるとは思わなかったのだろうたたらを踏む、その隙を見逃さず助六は相手の腕を掴み手前へと引き倒した。
見事な’’引き落とし’’だ。
「なあ、見たか?今の」
「う、うん。引き落としが成功するとこなんて久し振りに見たよ」
同じ村の仲間の二人が呟く、しかし俺はすぐにそれを否定した。
「……ふん、あんなのマグレに決まってるだろ」
「そ、そうかなぁ? 」
「ああ、そうだよ、そうに決まってる……俺達もさっさと一回戦終わらせようぜ」
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「お帰り助六、一回戦突破おめでとう」
「おう、よく頑張った」
「さっきの技、凄かったですよ! 」
僕達は試合を終えて戻ってきた助六を三者三様に讃えながら迎い入れた。
「うん、ありがとう。オイラ初めて勝てたよ、去年までは初戦で負けてたからさ」
讃えるのもそこそこに、僕達は山人さんの勧めで他の対戦相手の試合を観戦する事になった。助六と山人さんは試合を見ながら、これからの作戦を練るらしい。
ちなみに助六からあの三人組の名前を聞いた。
ヒョロッとしたのが’’平太’’
ガタイがいいのが’’権左’’
そして先程突っかかってきたリーダー格が’’弥助’’
それからの一回戦は何事も無く終わった。
まず平太だが、彼はとにかく小手先の技が上手い。体格はあまり良いとは言えないが、その分を技量と素早さでカバーしている。
次に権左、まさにパワータイプと言えるだろう、なんとも力強い相撲を取る。相手が技をかけてきてもまるで関係無いと言わんばかりの怪力で押し出す、力強い相撲を取る子だ。
最後に弥助だが、何かに突出している訳ではないが、決して弱いということでもない、非常にバランスのとれた強さを持っている。背の高さを活かした立ち回り、力押しだけでなく相当な技量も持ち合わせている、助六にとって一番やり辛い相手だろう。
というのは全て山人さんの言葉だ。
僕にはみんな同じに見える、素人に技量云々が分かる訳ない。
「……といった感じだ。助六、いけそうか? 」
「押忍!オイラやってみるよ! 」
二人の作戦会議も終わったようだ、そろそろ二回戦が始まる。




