16話
「というわけで、こちら妖怪の山人さんです」
「よろしくな!河童の坊主」
僕は彼と共に助六がいる川へと来ていた。
しかしこの妖怪改めて見ると非常に大きい、身の丈六尺……180cm程になる。
最初は不安だったが、手土産の脱毛剤は気に入ってもらえたようで交渉はあっさりと決まった。
ちなみに脱毛剤は畑山さんにもらった、いったいどこを脱毛するつもりだったのかは謎だが。
「え、えっと……オイラ助六ってんだ」
互いの体格差がかなり開いているため、見上げながらの挨拶になる。
「おう!聞いたぞ助六。お前さん、母ちゃんを助けるために強くなりたいんだって?……なんとも親孝行な河童じゃねぇか……ぐッ!」
それともう一つ、この山人さん涙もろいのだ。
「……ぐすッ、安心しな!儂がお前さんを立派な力士にしてやる!……相撲の事はよく分からねえけどな」
本当に大変だった、ここに来るまで……
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早朝、さっそく山へと向かった。稲ちゃんの虫除けは依然効果を発揮しており安全に歩を進める事が出来る、妖術さまさまだ。
「すいませーん!山人さんはいらしゃいますかー! 」
適当に歩き回りながら声を上げる。
そうして十分程経った頃だろう、茂みの奥に大きな人影を見つけた。あちらも僕に気付くと立ち上がり声を掛けてきた。
「どうした坊主、儂になんか用か? 」
筋骨隆々、見上げるほどの背丈があり、昔の農民が着けているような服を上半身だけはだけさせ腰巻きにしている。
あと胸毛がワイルド、筋肉があるせいか不快感といったものは全く感じないが、とにかくワイルドの一言に尽きる。
「えっと、山人さんで合ってます? 」
「いかにも」
「実は頼みたい事があって来たんですけど……とりあえずお近づきの印にこれどうぞ」
「ふむ……置物か何かか? 」
「脱毛剤と言って毛がごっそり抜ける薬が中に入ってるんですよ」
「なんと⁉︎小僧は薬師だったか!それもただの薬師ではないな?毛生え薬の類いであれば昔からよく目にして来たが」
「いやいや、僕は薬師なんかじゃ…… 」
「素晴らしいじゃないか!脱毛……なんと甘美な響きか……
儂が保証する、お前さんの名は必ずや後世に残るだろう。よッ!日ノ本一の薬売り! 」
「なんかよく分からないですけど気に入ってもらえたのなら良かったです……それで頼みというのは」
「おう!なんでも言ってみろ! 」
「僕には助六っていうカッパの友達がいるんですけど、その助六に相撲の稽古をつけて欲しいんです」
「そりゃまたどうして? 」
「助六はとにかく弱くて、そのせいで他のカッパは練習相手になってくれないんですよ。それでも一人で頑張ってたんです。
お父さんは既に亡くなっていて、代わりにお母さんが助六を育ててくれたそうです」
「ふむ…… 」
「だけどある日お母さんが倒れてしまって。病状は悪くなる一方で回復の兆しは見えない、もともと体の弱い人だったそうですから余計に悪化したんでしょう。
でも助六にはお母さんを助ける方法が一つだけあった……それは相撲の大会で優勝する事です。その年の優勝者だけが水神様に会う事が出来る、運が良ければ秘薬をもらえるかもしれない。
でも助六が優勝するのは可能性の低い、もしかしたら勝ち目のない戦いなのかもしれません」
「………… 」
「助六に勝ち目がないことくらい僕も分かってます。でも、そんな助六を自分と重ね合わせてしまった……僕も母さんに女手一つで育てられました、だから気持ちは痛いほど分かります。
僕は小さい頃から母さんの頑張っている姿を見てきた、悟られないよう一人こっそり泣いていたのだって知っている、それに何より……僕にたくさんの愛情を注いでくれた」
「…………ッ」
「もしも僕が助六の立場なら同じことをしていたと思います。可能性が低くても、勝ち目なんて無くっても……母さんが助かるならなんだってする。だから僕は助六を助けてあげたくて「……ぐっ、ぐぅぅおぉッ! 」え?あの、山人さん? 」
突然雄叫びを上げたので何事かと思い顔を見上げると山人さんは号泣していた。
「……な、泣けるじゃねえかよぉ……グスッ……よし!その助六とやら、儂が河童界一の力士にしてやる! 」
「あ、はい……ありがとうございます? 」
「そうと決まればさっそく稽古だ……ぐっ、案内ッ、してくれぇぇぇぇ」
「と、とりあえず落ち着いてからにしましょう?顔がその、凄いことになってますし、ハンカチいります?そうだ、脱毛剤使ってみます?胸毛がスッキリすれば心もスッキリ…… 」
「毛のことは言うなぁぁぁ……うおぉぉぉぉん」
多分いい人なんだろうけど、なんだかなぁ……
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「よし、遠慮せずにドーンとこい!お前さんの力がどんなもんか分からんと何も助言出来んからな」
「うおぉぉー! 」
僕は川に糸を吊るしながら、少し離れた場所で稽古している二人を眺めていた。
「まずは体を鍛えるところからだな。基礎の部分がしっかりしてないと話にならん」
「押忍! 」
「それに真正面からぶつかり合ってるだけじゃ駄目だ、お前さんはただでさえ体が小さいんだからよ、例え力があってもいつかは体格差で負けちまう」
「じゃあオイラどうすれば」
「そんな時は真正面から馬鹿正直に突っ込む必要はない、相手が力んだ瞬間に受け流すんだよ。そうする……とっ」
「うわッ⁉︎ 」
「な?儂は全然力を入れてなかったのにお前さんはすっ転んだ、要するに相手の力を上手く使って自滅させるんだよ」
「……オイラにもできるかな? 」
「もちろん一朝一夕で出来るほど簡単なもんじゃない。しかしまあ、お前さんが諦めない限り儂も出来るだけ教えてやるから安心しろ」
山人さんは思った以上に心強い助っ人のようだ、僕ではあのように教える事は出来ない。
僕に出来ることと言ったら精々キュウリを差し入れるくらいだろう……今の内に川で冷やしておくか。
それにしても……先程から一向に魚が釣れる気配がしない。
「何故だ、何故釣れない。そんなに僕が嫌いか?それとも……釣られるなら稲ちゃんのような女の子がいいってか?俗世に染まった魚野郎め」
そんな僕の呟きは、二人の掛け声にかき消された。




