14話
「ごめんよ、目の前にキュウリがあったからおもわず食べちゃったんだ……ほんとにごめんよ」
「いやいや、全然気にしなくていいよ。というかこちらこそ釣上げちゃって申し訳ない」
僕は今、カッパと対面していた。そう、もしかしたら日本で一番メジャーかもしれないあのカッパ。
「ところで……えーっと」
「あ、オイラ助六っていうんだ」
「……助六はなんでこんな所に? 」
「相撲の稽古してたんだけどさ、お腹空いて倒れちゃったんだよ。そんで気付けばここまで流されてたんだ」
隣で話を聞いていた稲ちゃんがぼそりと呟く。
(マコトさん、河童の川流れ…… )
(それ本人に言ったらダメだよ? )
しかし倒れるほどの稽古とは尋常じゃない気がする、それともカッパにとっては当たり前の事なのだろうか……
「あ、そうだ!オイラと相撲とっておくれよ!尻子玉抜いたりしないからさ」
「それはいいけど……さっきまで倒れてたのに大丈夫? 」
「オイラ平気さ! 」
「それじゃあ……まぁ」
本人は大丈夫と言ってはいるが本当にいいのだろうか?しかしカッパと相撲をとるなんて中々出来ない……いや、普通に生きてたら一生出来ない体験だ。いい記念になるだろうという思いから僕もそれに了承した。
それに助六は倒れるほどの稽古を積んでいる、簡単には勝たせてくれないだろう。
さあ、カッパの相撲とやらは如何程のものか……
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結果から言うと……助六は弱かった。
「まだまだぁ! 」
「よいしょ」
「ぐべっ⁉︎」
「も、もういちょう! 」
「えい」
「んぶっ⁉︎」
「つ、つぎこそは! 」
「せい」
「どはぁ⁉︎」
確かに弱いのだがその根性だけは目を見張るものがあった、何度倒されようと向かってくる。
「少し休憩しようか」
「うぅ、オイラ、まだ…… 」
「キュウリあるよ? 」
「オイラ、一休みする」
僕達は先程の川辺に腰かけた。
気付けば稲ちゃんは釣りを再開している、見事にハマったようだ。
「助六はどうしてそんなに相撲にこだわるの? 」
僕は内心気になっていたのだ、カッパがいくら相撲好きといっても少しおかしい。倒れるほどのオーバーワークもそうだし、先程も試合というよりは稽古のようだった。
「実は…… 」
聞くところによると、年に一度開かれる相撲大会で優勝するために自分で考えうる限りの稽古をしていたそうだ。
助六は昔から相撲が弱く、そのせいで誰も練習相手をしてくれないらしい。僕と相撲を取ったのも普段は出来ない対人戦を経験したかったからだそうだ。
それで合点がいった……練習相手がいなければ上達するのは難しい、それに元々正しい鍛錬の仕方を知らないのだから止めてくれる人がいなければ加減が分からなくなる。そして自分の限界を見誤って倒れた、やる気だけはあるから余計に空回りしたんだろう。
「言いづらいんだけどさ、その、今年は優勝するの難しいんじゃないかな。それにこの調子で稽古なんて続けてたらいつか必ず身体を壊すよ?今は無理でも来年、再来年とチャンスはあるんだから…… 」
できることなら助六を手伝ってあげたいが生憎と相撲の事はよく知らない。それに相撲に限らずスポーツ全体からっきしなのだから僕に出来る事はあまり無いと思う。
「勝たないとダメなんだ……今年じゃないとダメなんだよ、じゃないと母ちゃんが……」
「どういうこと? 」
「その……父ちゃんはオイラが小さい頃に死んじゃって、だから母ちゃんが代わりに働いてオイラを育ててくれたんだ。
でも母ちゃん元々身体が弱くってさ、無理が祟ってとうとう倒れたんだよ。それ以来寝たっきりで日増しに具合が悪くなって……でも、オイラが大会で優勝すると母ちゃんを助けられるかもしれないんだよ。
その年の優勝者だけが水神様にお目通り叶う、そんで何でも治る秘薬を授けてくれるらしいんだ、だから…… 」
「そっか、助六はお母さんを助けるために。でも授けてくれる"らしい"って……貰えるんじゃないの? 」
「オイラもよくわかんないんだよ。水神様から授けてもらえたり、もらえなかったり、その年によってバラバラなんだ。でもそんなの関係ない、母ちゃんが助かる可能性が少しでもあるならオイラなんでもする……」
そう語る助六の瞳には揺るがない決意が浮かぶ、僕が何を言おうと辞めはしないだろう。
今までの辛気臭い空気を払うように僕は立ち上がる。
「……よし、休憩終わり! 」
「え⁉︎いきなりどうしたのさ、マコトにいちゃん」
「どうしたのって、もう充分休んだよね?なら特訓しよう、特訓」
「さっきと言ってること逆…… 」
「倒れるような無茶しなければいいってだけさ、それに秘薬が貰える貰えない以前に優勝しないと意味無いよ?だから特訓。
僕は相撲に詳しくないから助六に何も教えてあげられないけど……練習相手にならなれる。まぁ、いないよりはマシってくらいだと思うけどね」
「そ、そんなことない!オイラ嬉しいよ! 」
「それと助六には言ってなかったけど、僕の家には物知りな妖怪が住んでてね?日がな一日畳を叩いてるような人だけど凄く頼りになるんだ。帰ったら色々と聞いてみるよ」
すると岩場の影から稲ちゃんがカゴを片手に戻ってきた。
「おかえり、釣れた? 」
「大量ですよー。あれ?また相撲とるんですか? 」
「うん、今から特訓」
「あ!じゃあ稲、行司やりたいです!えへへ、いきますよぉ?
見合って見合って、はっけよい……のこったー! 」
「うりゃぁぁ‼︎ 」
「てい」
「ぐべぇっ⁉︎ 」
助六はやっぱり弱い。
転んでは起き上がり向かって来る、そしてまた投げ飛ばされて立ち上がる。
けど今はこれでいいと思うんだ。
強くなるのは難しい、そして……諦めないことはもっと難しい。
「おりゃぁぁ‼︎ 」
「そい」
「ぐへぇっ⁉︎ 」




