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恋人ごっこ~彼女と彼の一ヶ月間の勝負~  作者: 天音 花香


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相合傘は涙色

 雨は帰る頃に降ってきた。持ってきていた傘をさして亜貴は刻を待った。


 昼のことが思い出されて亜貴はまた泣きそうになる。なんで不味い弁当を食べてあんなに幸せそうな顔をするんだろう。亜貴は、


「本当にバカ」


 と呟いた。


「どうかしたのか?」


 刻がパシャパシャと雨で濡れた地面を走って亜貴のもとへやってきた。


「傘入れて」


 刻は亜貴の返事も待たずに傘に入ると、傘のシャフトの部分を持った。


「俺が持った方がいい」


 亜貴は、


「じゃあお願い」


 と傘の持ち手を譲った。


「これがよく言う相合傘か」


 刻が楽しげに言った。刻の息が亜貴の前髪を揺らす。亜貴はくすぐったいやら恥ずかしいやらで、


「あんまり近づいて喋らないで」


と言ってしまう。


「なんだよ、近づかねえとお互い濡れるだろ?」


 刻はこの近すぎる距離に何とも思わないのだろうか? 亜貴は自分だけ意識しすぎなのだろうかと思うとかあっと顔が熱くなるのを感じた。首まで赤くなった亜貴を見て、刻は刻で急に亜貴を意識して恥ずかしくなる。会話をするのがはばかられ、二人は無言で歩いた。傘を雨の雫が叩く音だけが聞こえた。駅が近づいてきて亜貴は、


「刻、傘持ってないなら、コンビニで買ったら? 駅から家までどうするの?」


 とだけ聞いた。刻は、


「あ~、傘、な」


 と気まずそうに言って、何とも言えない笑顔になった。


「何?」


「実は、持ってたりして……」


 と刻は鞄から折り畳み傘を取り出して見せた。


「!」


 亜貴はこの恥ずかしい十五分は何だったの!? と刻を睨む。


「まあまあ、怒るなよ? あと二日じゃねえか。相合傘くらいさせてくれよ?」


「刻さ、恋人同士ですること、私で試そうとしてない?」


「まあ、その、それもあるかもな」


 刻が曖昧な笑顔になる。亜貴はふぅと溜め息をついた。


「お互いこの先いつ恋人ができるか分からないものね……」


「俺は、ね。亜貴は多分、本当の亜貴を知れば好きになる奴いるさ」


 亜貴は目を瞬く。


「本当の私?」


「ああ。なんか亜貴は気が強くて恐いイメージがあるみたいだからさ」


「ふーん。私ってそんな風に見られてるんだ」


「俺の周りの奴らからはな」


「刻は違うの?」


「一ヶ月一緒にいたからな」


「……刻は……」


「ん?」


「な、何でもない!


刻の方が大丈夫だと思うよ? モテるし」


 亜貴の言葉に刻は首を横に振った。


「俺は付き合うなら好きな女子と付き合いたい」


 刻の言葉に亜貴は思わず足を止めた。


「そ、そうよね。好きな人と付き合いたいよね」


 亜貴は自分との関係を否定されたような気がして胸が痛んだ。自分でもなんでここまでショックを受けるのか分からなかった。


「この偽物の恋人関係は二日後には終わるから、大丈夫よ?」


 無理やり笑顔を作って亜貴は刻に言った。


「偽物……」


 刻は苦々しく言って、悲しそうな顔をした。


(なんでそこでそんな顔するのよ。刻が言ったんじゃない)


 亜貴は居たたまれなくなって、


「刻、傘持ってるんだよね? じゃあ、大丈夫よね? 私、ちょっとコンビニによるから、先帰っていいよ?」


 と刻を見ずに言った。


「亜貴?」


 亜貴は刻の呼びかけに応えなかった。自分でも最近涙腺が弱くなってるなと思う。亜貴は少し上を向いて、コンビニの方に歩き出す。


「亜貴!」


 再び刻が後ろから強く亜貴を呼んだ。亜貴は振り返らない。と、ふいに後ろから抱きしめられて、亜貴は足を止めざる得なくなった。


「こ、刻? な、何?」


 亜貴の堪えていた涙がぽとりとちょうど刻の手の甲に落ちた。


「何でだよ? なんでそういう悲しいこと言って、それで泣くんだよ?」


「な、泣いてなんか」


「泣いてるだろ!」


 刻が無理やり亜貴を振り向かせる。亜貴の持っていた傘が落ちた。


「ほら、雨。雨が頬を濡らしただけ」


 ポタポタと亜貴の目からは涙が零れおちる。


「ね? 雨」


「馬鹿だな」


 刻はそんな亜貴を再び抱きしめた。力一杯。


「刻、苦しい……」


 亜貴の声に、刻はやっと力を緩めた。そして、壊れ物に触れるように亜貴の髪を撫でた。


「泣くなよ。俺がまた亜貴を傷つけたのか? なら謝るから。だから泣くな」


「刻が悪いんじゃない。最近私の涙腺おかしくて……。自分でもなんで泣いてるかわから」


 「ない」、と続けようとして亜貴は言葉を紡げなかった。視界いっぱいに刻の顔があって、唇に温かくて柔らかい感触があった。




(!)




 自分の心臓が急にバクバク言い出して、亜貴は全身の体温が上がるのを感じた。長いようで一瞬の時間。


「ごめん……」


 刻の掠れた声が聞こえて、肩に感じていた刻の手の重みがなくなった。刻は下を向いたまま駅に走って行った。


「え……?」


 コンビニで立ち読みをしていた男性と目が合った。その男性は慌てて手にしていた漫画に視線を落とした。駅へ向かう人が亜貴を見ては視線を逸らした。


 亜貴はしばらく雨の中佇んでいた。自分に何が起こったか分かるまでしばらく時間を要した。


(私のファーストキス?)


 亜貴は自分の唇に手を触れた。混乱はしていたけれど、嫌悪感はなかった。なのにまた涙が溢れた。


 自分にとって刻はどんな位置付けなのだろう。それがまだ分からない。焔、刻。今では同じぐらいに亜貴の心を占める。





 翌日、雨にうたれていたせいか亜貴は熱を出した。

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