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恋人ごっこ~彼女と彼の一ヶ月間の勝負~  作者: 天音 花香


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神社にて世にも恥ずかしいおんぶ

 亜貴は裏門から出てすぐの所で刻を待っていた。裏門から帰る生徒たちは少なく、誰も亜貴の存在を気にしないのがありがたい。亜貴は裏門から出るのは初めてで、正門との雰囲気の違いに少し驚いていた。人通りも少なく静かで、ちょっと寂れている。


 


 久しぶりに書道教室に行くと、卒業する先輩たちへの色紙に一言書くように言われ、亜貴は先輩一人一人を思い出しながら書いてきた。焔の色紙は、逆になんて書けばいいか分からないほど書きたいことがたくさんあって困ってしまった。結局「これからのご活躍を祈っています」という無難な一言にした。色紙に書いていると、先輩たちは本当に卒業してしまうのだなと改めて思って亜貴は悲しくなった。もっともっと色んなことを先輩たちから学べたんじゃないだろうか。特に焔。もっと教えて欲しかった。一緒に時を過ごしたかった。もう会えなくなるなんて。学校で姿を見かけることさえできなくなるなんて。信じたくないけど。まだ信じられないけど。それが現実なのだ。




 裏門から寂しい風景を見ているとなんだか余計に心が寒くなった。そんな亜貴の肩をポンと刻が叩いた。


「待たせたか?」


 亜貴はなんだかホッとして刻を振り返る。


「大丈夫」


「じゃ、神社、行くか」


 刻はそう言って真っ直ぐに伸びた細い道を歩き出した。


 緩やかな上り坂をしばらく歩くと、鳥居が見えてきて、そこからは石の階段が随分とあるのが遠目からでも分かった。


「こんなに階段あったんだ?


私、この神社初めて来た」


「運動部なら、一度は部活でダッシュさせられてる名物階段だよ」


 刻の言葉に亜貴はげんなりした顔になる。


「ここをダッシュ?  私、運動部じゃなくて良かった」


 いざ階段を登り始めるとますますその思いは強くなった。石で出来た階段は高さがマチマチで登り辛い。さっきからはあはあ耳障りな音がすると思ったら自分の乱れた呼吸の音だった。心臓も煩いほどだ。少し上で刻が亜貴を見下ろしている。


「大丈夫か?」


「あんまり、大丈夫、じゃないかも。結構、キツイ、わね」


 言葉が途切れ途切れになる。知らず知らず足が止まりがちになる。


 刻が亜貴の所まで降りて来た。そして少ししゃがみ、背中を見せる。


「な、何?」


「負ぶってやるよ」


 亜貴は驚いて目を白黒させる。


「そんな、いいわよ!  私重いし」


「かなり息切れてんじゃん?  まだまだあるのに。ほれ」


「い、いいってば」


 亜貴は冗談じゃないとそっぽを向いて言った。身長もあるし、痩せてるとまでは言えない自分の身体。首を横に振り続けたが、


「何? お姫様抱っこの方がいいわけ?」


「そ、それはもっと嫌!」


 ニヤリと笑って刻に言われて、真っ赤になって亜貴は言い返した。


「じゃあ、大人しく負んぶされるんだな」


「……」


 亜貴は躊躇したが、諦めたように嘆息すると、恐る恐る刻の肩に手をかけた。


「……不本意だけど、お願いするわ」


「どうぞ、お姫様」


 刻が亜貴を背に苔むす階段を登り出す。


「やめてよ、お姫様とか」


「だって、体力のない箱入り娘だから仕方ないじゃん」


 刻の言葉に亜貴はポカリと頭を叩く。


「どうせ体力ないわよ」


「口と度胸は人一倍なのにな」


 刻が笑っていい、亜貴はぶすっと黙った。


 刻の呼吸は少しも乱れない。背中は思った以上に広くて、温かかった。亜貴は自分の体温や心臓の音も伝わるのではないかと不安になり、預けていた体を少し浮かそうとすると、


「あんま動くなよ。しっかりつかまっとけよな。危ないから」


 と刻に言われてしまい、亜貴は体を離そうとするのを諦めた。


「……お前さ、ダイエットの本なんていらねぇんじゃね?」


「は?」


「軽すぎだろ」


 亜貴は本屋でのことを思い出して、急に恥ずかしくなった。頬が熱い。


「しっかり見てたのね? 本のタイトル」


「見えたんだから仕方ねぇだろ」


 本だけでなく、接触事故のことまで思い出して、亜貴は自分の体温がいよいよ上がるのを感じた。それを刻に悟られたくなくて、


「も、もう降りる」


 と抵抗を始めた。


「馬鹿、動くなって! 危ないだろ!」


 刻が慌てて亜貴の太腿を支える手に力を込める。


「もう少しだからじっとしてろよ」


 考えてみれば負んぶって、なんて恥ずかしい体勢なの?! と思うと亜貴は冷静でいられなくなった。そして、ハッとする。


「も、もしかして、軽すぎって、胸がないってこと?!」


 亜貴の言葉に、


「はあ?」


 と刻は返してきたが、一瞬間があり、


「お、お前、なに言って」


 と言った声は裏返っていた。刻の耳が真っ赤に染まっていく。亜貴は、


「やっぱりそう思ったんでしょ!  刻のスケベ!」


 とポカポカと刻の頭を叩く。体勢を崩さないように刻は階段を上がるが、その耳は赤いままだ。


「亜貴が変なこと言うから意識すんじゃん、馬鹿!」 


 刻は残りの階段を駆け上がって亜貴を降ろした。


 亜貴は半眼になって、刻を睨んでる。


「やっぱり男ってサイテー!」


「だーかーらー、亜貴に言われるまで意識しなかったって!  男が皆んな巨乳が好きとか思うのやめれ!」


「どーだか」


 両腕で胸を隠すようにしながら亜貴は言った。


「男が皆んなスケベなら、兄貴だってそうってことだぞ!」


 刻の言葉に亜貴は、


「や、やめてよ!  樋口先輩は違うわよ!」


 と慌てて言い返した。焔に限ってそんなことない。そんなこと考えたくもない。


「お前、なんか勘違いしてね?


兄貴だって健全な男だってば。さゆり姉とは色々したいって思ってるぜ?」


 呆れて言う刻の足を亜貴は鞄で叩いた。これ以上刻の言葉を聞いていると焔のイメージが傷つく。


「樋口先輩をあんたと一緒にしないで」


「痛ぇ!  暴力女!


あー、はいはい。そうデスネ。兄貴は俺とは違いマス」


(色々って、色々って何よ! 樋口先輩はそんなイヤラシイことなんて考えないはず! それより、ここにきた目的を忘れちゃいけない)


 亜貴はもやもやしながらも、目的を思い出して刻を置いて大きな鳥居に近付いた。

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