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恋人ごっこ~彼女と彼の一ヶ月間の勝負~  作者: 天音 花香


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私、やらかしました

 放課後まで亜貴は落ち着かなかった。告白するときまでとは行かなくとも、自分の心臓がどんなに早鐘を打っているか自覚していた。早くさゆりと話がしたい。しかしいざ放課後になると、なぜか足どりは重かった。


 部室の前にさゆりがいるのが見えた。さゆりは亜貴を認めて笑顔になった。


「顔色が良くないけど大丈夫?」


 それは緊張しているからだろう。


「先輩、部室棟の裏にいいですか?」


「いいわよ? 何か大事な話なの?」


 さゆりは不思議そうに亜貴を横目で見上げている。さゆりの身長は亜貴より少し低い。さゆりの髪は漆黒に近いが、ふんわりと全体的にクセがあって硬い雰囲気ではない。だが、スッと伸びた背筋と、一重の目は瞳が黒くて大きく、凛とした印象を受ける。可愛いより綺麗という言葉が似合う女性だ。焔の好きなさゆり。さゆりと個人的に話すことは部活中はあまりなかったなと思いながら歩く。


「うん、ここなら人気がないからいいかしら?


どうしたの? 何の相談?」


 さゆりの言う通り、部室棟の裏はやや暗く、人はいなかった。果たしてこんなところにまで呼び出す必要があったのかと自分でも思いつつ、でも、呼び出したからには聞かないとと思い、亜貴は腹をくくった。


「あの、円上先輩は、大学はどちらの大学を受けていらっしゃいますか?」


 亜貴の問いにさゆりは少し面食らう。


「私の大学?  ……私は地元の大学を受けるつもりだけれど、高城さんはもう大学のことを考えているの?」


「い、いえ、私はまだ大学のことは考えていません」


 亜貴は慌てて自分の前で両手を振る。


「?  じゃあ……?」


「あ、あの……」


 言い淀む亜貴にさゆりは首を傾げ、優しい目で促す。


「円上先輩は樋口先輩と幼馴染なんですよね?」


「焔?」


 亜貴の言葉にさゆりは目を丸くした。


「ええ。焔とは幼馴染よ?」


 亜貴は一瞬、口を開くのを躊躇ったが、目をぎゅっと瞑って開いた。そして、さゆりの目をしっかり見た。


「……樋口先輩が県外の大学を受けていることはご存知ですか?」


 亜貴の言葉にさゆりはゆっくりと瞬きをした。


「……ええ。そう、焔からは聞いたわ」


 明らかにさゆりの声のトーンが落ちた。亜貴はそんなさゆりを見て、何だか複雑な気分になる。


(円上先輩は……)


「さ、寂しいですよね。今までずっと一緒だった樋口先輩と離れるのは」


「……ええ、とても」


 さゆりの本音が聞けた。亜貴は手にじっとりと汗を握る。


(円上先輩は、樋口先輩のこと、どう思ってるんですか?)


 と思わず口にしそうになって、亜貴は唇を自分で噛み締めて堪えた。


(駄目だ。それは私が聞くべきことではない。また私は立ち入っては行けないところに立ち入ってしまったのではないか)


 そんな不安が急に立ち込める。


 さゆりは黙ってしまった亜貴を困惑した顔で見ている。


「す、すみません。私、私……」


(私、こんなこと円上先輩に聞いてよかったの?


本当に樋口先輩のためになってるの?!)


 亜貴は急に不安になった。心臓をきゅうと掴まれるような感覚。


「た、高城さん?」


 亜貴の目から涙が一筋溢れたのを見たさゆりはますます困惑する。


「私、私……」


「高城さん……?」


「すみませんっ!  あの、聞きたいのはこれだけです! 失礼しますっ!」


「え?  高城さん?!」


(どうしよう!


私、余計なことしてしまったかもしれない!)


 若干パニックになって走っている亜貴の腕をぐいと誰かが掴んだ。刻だった。


「おい、待てって!! 


何?! お前また泣いてんの?!」


「刻!  私!  どうしよう!」


 亜貴の足は一度止まるとガクガクと震えだした。


「さゆり姉と話したんじゃなかったのか?」


「話したわ! でも、途中で逃げて来た……」


 亜貴は自分の行動を思い返して、さらに不安になる。


「は?」


 刻は真っ青な顔の亜貴の肩に手を置き、


「とりあえず落ち着け。深呼吸だ」


 と言った。いつもなら従わないだろう亜貴は、刻に言われるままに深呼吸をする。


「何を話して来たんだ?」


 亜貴は途切れ途切れにさゆりとの会話を話した。刻の顔が見る見る変わり、


「あちゃー」


 とその口から言葉が漏れた。


「こんなはずじゃなかったのよ?


ただ、円上先輩が樋口先輩が県外に出ることを知らなかったら、二人ともあまりにも悲しすぎると思ったの!」


 刻はしばらく黙っていた。


「刻?」


 不安になって亜貴は刻の顔を見上げる。


「亜貴の気持ちは分かる。分かるが、俺が兄貴だったら……」


 刻の言葉に亜貴の肩がピクリと震えた。


「だったら?  樋口先輩だったら?」


 亜貴の眉がハの字に寄せられる。刻はそんな亜貴から目を逸らして、


「……そんなこと望まない」


 と小さく言った。亜貴の目から大きな雫が零れ落ちる。


「……そう、よね……」


 亜貴はがっくりと肩を落とし、うなだれた。その肩を刻はたたく。


「でも、今更嘆いたって仕方ないだろ?  次、どうするかを考えようぜ?」


「……」


 前向きな刻の言葉。すぐにそんな気にはなれない、と思う自分もいた。だが他ならぬ焔のことだ。このままでいいわけない。亜貴は涙を拭う。


「本当だわ。自分がしたことには責任をとらなきゃ」


「それでこそ亜貴だ」


 刻はそう言ってもう一度亜貴の肩を叩いた。


「俺、悪りぃけど部活行くから。あ、そうだ、その前にケータイの番号だけ交換しとこうぜ? 知らないと不便だろ?」


「そう言えば聞いてなかった」


 二人は赤外線通信でスマホの情報を交換した。


「じゃ、またな」


 刻は足早に去って行った。残された亜貴はどうしよう、と考える。部室は行く気になれなかった。さゆりともう一度会ったらどうしていいかわからない。


(家に帰って今後のことを考えよう)


 亜貴は校門へ歩き出した。まだ少し冷たい風が亜貴の髪を撫でる。冷静になればなるほど、自分のしたことに後悔がわいた。

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