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「あら、勝っちゃんじゃない。母さんは? 」
石段を登り終えると姉さんがすぐそこに立っていた。僕の知らない着物を着ている。髪を洋風に結っていて、前よりも格段に綺麗だ。
姉さんは、三月も会わなかったとは思えないような気安さで、僕に声をかけた。
「母さんは出られなかったから、代理で来たんだ」と言うと、姉さんは「そう」と言って口をへの字に曲げた。
「またあの婆に邪魔されたのね」
「え? 」
「勝っちゃん、あんた母さんを助けてあげなさいよ。あんたは知らなかったみたいだけど、いつもあの婆に虐められてたのよ、母さん。あたしがいなくなったから酷くなってるはずだわ。あんた男の子でしょう。母さんのことを守るのよ」
「うん? 」
僕は分からないながらに頷いた。その様子を見て、姉の隣に立っていた男が笑いながら言った。
「糸子、まだ早くないかな? 」
「早くたってこの子しかいないんだもの」姉は憮然として答えた。
僕は、姉と色々なことを話した。男を本田というのだと紹介され、姉の暮らしを尋ね、村の様子を伝えた。姉はもう村のことなど興味がないかと思ったが、姉は自分から村の様子を聞きたがった。僕は家の様子を話し、他愛無いいくつかの事件を話し、葉ちゃんが死んでいたことを話した。
葉ちゃんが死んだ様子を詳しく聞いた後、姉は眉間に皺をよせ、「可哀想にね」と呟いた。
1時間あまりも話し込み、ようやく話の種も尽きたころ。本田が姉の肩を叩き、神社の入り口を指した。
「誰かしら」姉が呟いたのは、その女性が明らかに僕たちに向かって歩いてきたからだ。
「糸ちゃん、勝っちゃん、久しぶりやね」
そう言って僅かに微笑んだのは、葉ちゃんの母親だった。
「葉平のためにお参りにきたんよ」と言いながら、おばさんは僕たちに近づいた。僕は何も気づかなかったが、何かおばさんの様子に感じるものがあったのだろうか。本田が進み出て、僕たちとおばさんの間で仁王立ちになった。
「糸ちゃんの婚約者やってねぇ。ええ体つきしとること。ああ、糸ちゃん久しぶり。おばさんのこと覚えとる? 」
本田の脇をすり抜け、姉に近づこうとしたおばさんを、本田が優しく押し留めた。
「ご婦人、そのお荷物は何ですか? 」
おばさんは本田を上目遣いで見上げながら答えた。
「線香と蝋燭をね」
「見せて頂けますか? 」
本田は、笑顔のままで言った。
僕は、本田がなぜ荷物に固執するのか分からなかった。姉も同じようで、本田とおばさんのやり取りを首を傾げて見ていた。
「なあに? どうしたの? 」
姉が二人に歩み寄ったとき、
「来るな! 」
本田が声をあげた。同時に、おばさんが本田の脇をすり抜け、姉に向かって走った。
「ちっ」
本田はおばさんの腕を掴み、思い切り地面に引き倒した。おばさんの腕から風呂敷包みが滑り、中から何かが落ちて秋の日に鈍く光った。
それは、使い込まれ幾度も研ぎなおされ、擦り減って薄くなった出刃包丁だった。




