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枯れたひまあり  作者: 巳島想院
3/8

洋装の、壮健な青年である。仕立ての良いスーツを見事に着こなし、白いカラーが太い首を窮屈そうに締め付けている。青年は僕など目に入らないかのように通り過ぎ、まっすぐに姉に向かった。

声が聞こえたのか、姉がちらりと振り返る。腰から上を振り向けて青年を見、一度顔をそむけてから足元ごと反対を向き、青年の方に歩み寄る。

二人は長い間見つめあった。いや、実際にはそう長くないかもしれないが、僕は二人が長いこと目を合わせていたように思う。やがてどちらからともなく歩き出し、祭りとは反対の方に消えた。

僕は姉に声をかけそびれた。まるで結界の中にいるかのように、周りの音が小さくなっていた。二人がいなくなって少しして、不意に世界に音が戻った。

そうだ、柄杓を拾わなきゃ。そう思いついて歩き出した時。

僕は、葉ちゃんがそこにいたことを知る。

「葉ちゃ…」

掛けようとした声は途中で消えた。

僕はこれほど感情がむき出しな顔を見たことがない。葉ちゃんは目を見開き、ギリギリと音が聞こえるほどに歯を噛みしめて立っている。その目は二人が去って行った方角を向いている。僕は、葉ちゃんには確かに二人が見えているのだと信じる。神社を囲む木々を透かして、睦まじく歩む二人が。

そして、葉ちゃんは全身を震わせて叫びだした。拳を握り、背を反らせ、命を吐き出すように幾度も幾度も叫んでいた。僕は怖くなり走った。葉ちゃんを置いて逃げた。

石段を駆け下り、賑やかな祭りのただ中に向かい走る。胸が痛くなり、もうそれ以上走れないというところまできて、やっと人心地がついた。

祭りの最後を飾るのは、夜空に舞い散る花火である。僕は人混みを避け、車がある広場に戻ってそれを見た。花火が終わると、運転手や村の子供たちがぼちぼちと戻り始めた。姉を乗せてきた男の車は、僕が戻ったとき既にいなくなっていた。

皆が揃い、車に乗っても葉ちゃんは戻って来ない。

「勝坊、出すぞぉ」

運転手が、いつまでも乗らない僕に声をかける。

「葉ちゃんがまだだよう! 」

僕は大声で運転手に知らせた。

「友二の車がねえから、お前んちの姉ちゃんと一緒に乗ってったんだ! 」

運転手はそう言って、早く乗れと言わんばかりに手を振った。僕はまだ幼い。大人にそう言われれば、そうかな、と思う。そんな筈はないのに、その時は気が付かなかった。

「おれ、友二って嫌いだ」

後部座席は、はしゃぎ回る村の子でいっぱいになっていた。空いていた助手席に潜り込みながら、言うともなく運転手に愚痴をこぼした。

「なんで嫌いだ」

「姉ちゃんのこと、変な目で見るから」

「お前んちの姉ちゃんなら、村中のもんが変な目で見とるじゃろうが」

「そんなんじゃねえんだ。粘っこくて嫌らしい目だ」

僕がそう言うと、運転手は大きなため息をついた。

「友二は恥を知らねえからな。普通、そこまで露骨にゃあ見ねえもんだが」

「なんで友二はそんな目で姉ちゃんを見るんだ? 」

「お前の姉ちゃんみてえのはな、男好きのする女っちゅうんだ。勝坊が気付かねえだけで、友二みたいにお前の姉ちゃんを見とるやつはそこら中にいる」

「男好きってどういうことだ」

「そりゃあ、勝坊が大人にならにゃあ分からねえことだ」

運転手は、そういうと黙り込んだ。


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