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姉を乗せた車が走り去ってから、僕たちは長い間待っている。のぼせた顔の運転手は、村の子供が一切乗るまで車を出さないつもりだ。じりじりと陽が車の屋根に照り、汗が背中を伝う。
「早く出してよ」
言ってみても返事はない。僕は舌打ちをし、不貞腐れて丸まる。
いつからか寝ていた。
「おい勝坊、着いたぞ」
運転手の声に目を覚ます。汗をかきすぎたか体がだるい。ふらふらとステップを降りた。
「大丈夫か? 」
運転手がとぼけた顔で聞いてくる。何か言われるのも面倒だ。適当にごまかした。
いったいどれだけ待ったのか、車に乗ったときは日も高かったのに、もう日が傾いている。車は祭りの中心から少し離れたところに停めてあり、今しも村の子供たちが広場から走り出ていくところだ。どうやら、僕がなかなか起きないので置いていくことにしたらしい。運転手が、「勝坊も早くいかにゃあはぐれっちまうぞ」と言って僕の尻を叩いた。
そうだ、葉ちゃんはどうしたろう?
姿が見えないことが気になった。普段なら、葉ちゃんは運転手に連れられて見て回る。
「葉ちゃんは? 」
運転手に訊いた。
「お前んとこの姉ちゃんがいたからな。後追って行っちまったよ」
「姉ちゃんが? 」
言われてみれば、広場の隅に姉が乗っていた車がある。
姉が出たのは、僕たちが村を出るよりずいぶん前だったはずだ。その間、姉は何をしていたのだろう?
姉を車に乗せた青年の、にやけた顔が脳裏を掠める。僕はどうしようもなく苛立って、落ちていた石を拾い、車に向かって思いっきり投げた。
祭りの舞台は、神社からその前を流れる川の河川敷一帯である。
出店は神社には出ず、河川敷や近隣の広場に出るから、神社の境内は周りの喧騒と一線を引いて静かだ。
まだ頭がくらくらとする。僕は騒がしい中に入る気になれず、神社で休むことに決める。
手水場の水を柄杓で受けてのどの渇きを癒していると、どこからか言い争う声が聞こえる。
「嫌よ、よしてよ、嫌だったら! 嫌だってのが聞こえないの、お放しよ! 」
姉の声だ。
そのことに気づくなり、僕は柄杓を放り捨てて駆ける。
ガン・ガラン・ガラン
重たい鉄柄杓が石畳の上に落ちた音は思った以上に響き、僕は驚いて足を止めた。
姉たちも驚いたのか、ぱたりと声がしなくなった。そんな中、のっそりと動いた影がある。
「兄さん、やめときな」
境内の隅にずっといたらしいその影が本堂の裏に回ってすぐ、仲裁に入ったらしい男の声が聞こえた。
「な、なんだよおめえ。関係ねえじゃねえかよ」
虚勢を張るのは姉を乗せていった青年の声である。
それから少し言い争うような声がして、じきに静かになり、青年が一人で地面を蹴りつけながら出てきた。
「帰りは乗せてやんねえからな! 」
鳥居をくぐるあたりで負け惜しみのように叫んだが、
「頼まれたって乗らないよ! 」
と走り出た姉に返され、悪態をつきながら去った。
神社は少し高台にある。燃えるように赤い夕焼けに照らされながら、姉は頬を赤く上気させて立っている。
やはりいつ見ても姉は
「美しい」
僕の声ではない。先刻、仲裁に入った男の声だ。僕は、首を巡らせてその声の主を探す。




