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僕は、何もかもが平均値な子供である。勉強も運動も、顔のつくりや体格さえも、級友たちの平均であり可も不可もない。
母などは、僕が通信簿を持って帰るたび、叱るでもなく褒めるでもなく、何とも複雑な顔をした。
「勝ちゃんは釣り合いが取れているわね」
考えた末の言葉である。母は褒めようとしたようだが、馬鹿にされたのに他ならない。
幼い僕には、僕自身に誇れるものが何もない。僕の誇りはただ一つ、姉の存在で護られている。
姉は、とかく何をしても人目を引いた。
癇癪持ちで、昂ぶると火の玉のように燃え、たとえ冬でも、姉の傍には真夏の熱気が立つのだ。
姉は何のために生きているのか?
僕や村の子供等は、姉はいつか何かとても大きなことをするだろうと思っている。姉はまるで軸のぶれた花火のようだ。危険で魅力的、どこにどう飛ぶか分からない。何かせずには収まらない、そんな気配で満ちている。
僕たちの住む家の裏山に、ボロボロの家が建っている。
そこに住むのは貧しい母子で、葉ちゃんというそこの子供は、明らかに知恵おくれなのだ。
葉ちゃんは姉の熱烈な信者である。姉の行くところにどこでも附いて回って、物陰から姉の様子を窺っている。
姉の崇拝者は数多いが、皆恥を知っているからここまでに露骨なことはしない。これほどまで金魚のフンのように姉を追うのは、知恵おくれの葉ちゃんだけだ。姉に思いのまま付き従う権利は、本来肉親である僕のみに許されるはずであった。だから僕は葉ちゃんのことを憎む。
姉もまた葉ちゃんを嫌っている。
「卑屈なところが気に入らない」といい、葉ちゃんが近づきすぎると、怒鳴り散らして遠ざけた。
反面、姉の目につくところで葉ちゃんが虐められているのを見ると、激怒して虐めている方を追い散らした。
助けられた葉ちゃんは当然ながら姉を慕うが、姉は、それを芯から迷惑そうにする。
何故葉ちゃんを庇うのか、姉に訊いたことがある。姉は苦々しい顔で、「腹が立つからよ」と答えた。
「腹が立つのよ。見るだけで鬱陶しいのに、虐められたらあいつ泣くのよ。泣き顔と泣き声が一番腹が立つの、それを聞きたくないから助けてんのよ」
と、言い放った。
姉は美女ではないが、姉を美しいという村人は多い。当然僕はその筆頭である。姉のいる場所は常に輝いている。
今日の姉は特に美しい。
姉は鏡の前で緋色の襦袢を纏い、黒地に赤の菊を染め出した派手な銘仙を着ている。色づいた紅葉のような鉛丹の地に華やかな刺繍のある帯を締め、鬱金色の帯締めを二回捻って結ぶ。きりりと結い上げた髪に母の嫁入り道具の中から好き勝手に選んだ赤珊瑚のかんざしを挿し、振り返って笑う姿はまるで活動写真の女優のようだ。
今日は町で祭りがあるのだ。
村の子供たちは皆、青年団の車で祭りに行く。姉は村の者の車に乗るらしい。
「姉さんと同じ車がいいよ」と言ってみたが、姉を送ることになっている若者は何だかんだと言葉を濁し、僕を青年団の車に放り込んでしまった。熱気がこもる車内で、僕の肩に手をかける者がいる。
「い、いーちゃんは いーちゃん」
姉のことである。そこには、知恵おくれの葉ちゃんがいた。
「姉ちゃんはいないよ。今日は乗らねえんだ」
僕は腹が立って仕方がない。それは、大嫌いな葉ちゃんに行き合ってしまったせいでもあるし、姉の装いが僕のためでないからでもある。僕は姉の弟で、それは特別だが残酷だ。姉は決して僕のために装わない。




