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ガチ勢

 屋敷の庭で、契約したナディアが変身する。


 着ていた服がすぅと溶けて、謎光が大事なところを鉄壁にガードする中、魔法少女のコスチュームに替わっていく。


 しばらくすると、槍のような長物を持った魔法少女に変身した。


「おー、本当に変身した。あっ、これなんか見た事ある」


「竜騎士の時――おれがドラゴンに変身したときに乗るときの格好を元にしてるな。細部をより可愛くて魔法少女っぽくした感じだが」


「こういうのが魔法少女なんだ?」


「そうだな」


「へえー」


 スカートの裾を摘まんだり、くるっとターンしたりして、テンションを上げているナディア。


「おい!」


「ん?」


 敵意たっぷりの声が聞こえた。


 声の方に振り向く、男の子の姿が見えた。


 おれ達と同じくらいの年頃の男の子。いかにもわんぱく坊主って感じの男の子だが、どういう訳かおれを睨んでる。


 まるで親の敵を睨むような目だが……なんだ?


「ルシオ様。あの男の子、ナディアちゃんの」


 同じ魔法少女の格好をしたシルビアがフォローしてくれた。


 ……ああ、だいぶ前に一回だけ会った、ナディアの事が好きで小学生の様な悪戯を繰り返してるあの男の子か。


 一回あったきりだったから、言われなきゃ思い出せなかった。


 うん、確かにその男の子だ。そしてそいつならおれを親の敵のように睨むのも納得。


 なにしろそいつが好きなナディアの夫だからな、おれは。


 男の子に近づいていく。敷地のすぐ外に立ってるそいつに柵越しに話しかけた。


「なんだ」


「な、ナディアはいるか?」


「ナディア?」


「あたしになんか用?」


 ナディアがそばにやってきて、男の子にきいた。


 男の子はナディアをしばらくしっと見つめた後、さげすむような目で見た。


「だまってろよブス、おれはナディアに用があるんだよ」


「え?」


 ナディアは驚いた顔でおれと男の子を交互に見比べる。


「あー……ナディアはちょっと出かけててな。用事があるならおれが代わりにきいとくぞ」


「ふん! お前になんか話すかよばーか」


 男の子は悪口を吐き捨てて、走り去っていった。


 ここまでわかりやすいとかわいげがある――というかむしろかわいげしかない悪口だなあ。


「ねえねえルシオくん、今のどういう事? あたしの事わからなかったみたいだけど」


「それは魔法少女だからだな。変身した後は本人だとばれない様に認識を変えるの『インヒビジョン』の魔法をついでに発動する様にした」


「認識を変える?」


「そうだな――おっ、ちょうどいいところにベロニカが戻ってきた。おーいベロニカ」


 男の子とほぼ入れ替わりでベロニカが戻ってきた。


 どうやら散歩帰りらしく、手首にリードをつないだココと一緒に敷地内に入ってきた

 おれが呼ぶとココのリードをはずして自由にさせてから、こっちに向かってきた。


「どうしたんですの?」


「この二人、誰に見える?」


「だれって……」


 ベロニカは魔法少女に変身したシルビアとナディアを見る。


「はじめて会う方ですわね。名前は存じ上げませんわ」


「えっ?」


「おー」


 驚くシルビアに面白がるナディア。


「見覚えはないか」


「ありませんわね。これでも人の顔を覚えるのは得意ですの」


「ってことだ」


「ふむふむ」


 頷くナディア、またキョトンとしてるシルビア。


 ナディアの方が先に状況を飲み込めたみたいだ。


 一方で、まったく蚊帳の外に置かれているベロニカは呆れ混じりにいってきた。


「また妻を増やしますの? それであたくしたちの事をないがしろにはしないでしょうけど、ほどほどになさいましね?」


 ベロニカはちょっと呆れた顔をして、屋敷の中に戻っていった。


 冗談なのか本気なのかちょっとわからないセリフだった。


 その場におれと二人の魔法少女が残って、早速ナディアが聞いてきた。


「ねえねえルシオくん、説明して説明」


「説明も何も大体わかるだろ、今ので。変身してるうちは別の誰かに見えるんだ。魔法少女の基本だな」


「やっぱり。すっごーい、おもしろーい」


 ナディアはますます面白がって、変身をといてベロニカを追いかけていった。


「ねえねえベロちゃん! あたしの事誰に見える?」


「だれに見えるって、ナディアにしか見えませんわよ? なんですのその質問は、また変な遊びでもしてますの?」


 屋敷の中から聞こえてくるのは微笑ましいやりとりだった。


 さっきから「わかってる」感じが出てるベロニカのセリフが聞いててちょっと楽しい。


「あの……ルシオ様」


「うん? なんだ」


「魔法少女になったのはいいんですけど……」


 シルビアが眉をハの字にした。困ってる顔もちょっとかわいい。


「なって……何をするんですか?」


「戦うんだよ」


「戦うって、何とですか?」


「そりゃ……」


 そういえば考えてなかった。


 普通魔法少女と言えば世界征服とかをもくろむ敵と戦うのが一般的だ。


 この世界で世界征服といえば……例のバルタサル一世だが、そいつは異空間に閉じ込められててたまにちょっかい出してくるだけで、敵として頼りないし、期待出来る程じゃない。


 今まで小さくなってアリとかハチとかの巣に突入して戦ってたけど、あっちは魔法少女らしくない。


 かといって何もしないのももったいない。


 せっかく健全な魔法少女になったんだから、戦ってるところを見たい。


 考え込んだ、何か手頃な敵はないのかと――。


「ルシオ様?」


「……ルシオか」


「え?」


「そうか、ルシオだ。うん、それで行こう」


「『トランスフォーム・ラスボス』」


 魔法を唱える。光がおれを包んで、黒いマントを羽織ったそれっぽい(、、、、、)ものに変わった。


「ルシオ様?」


「ふはははは」


「ルシオ様!? どうしたんですかルシオ様!?」


「愚かなる人間どもよ、この世界はおれ様が支配する」


 こんなんでいいのかな? セリフがまだ洗練させてないけど、それはゆっくり直していこう。


「かかって来い魔法少女ども。おれ様を止められなければ世界はおわるぞ」


「本性をだしたなあくのおおぼすめ」


「えっ!? な、ナディアちゃんまで!?」


 屋敷から飛び出してきたナディアが変身して、おれに槍を突きつけた。


「お前の思い通りにはさせないぞ」


 といいながら、シルビアに目配せする。


 それでようやくシルビアも理解したのか、得心した顔になった。


 まあ、いつも通りの遊びにロールプレイを取り入れた様なものだ。


「ふっふっふ、魔法少女が二人だけ……果たしてこのおれを止めることが出来るかな」


「止めてみせる! そうよね」


「う、うん。と、とめます」


 ノリノリのナディアと違って、シルビアは若干棒読みだ。


 なんかこっちも楽しくなってきた。


 よーし、ならそれっぽく名乗ってみるか。


「聞け魔法少女ども。おれ様の名はルシオ、ルシオ・マルティン。世界に破壊と混沌をもたらし、いずれこの手中に収めてくれよう」


「そんなことはさせない!」


「さ、させません!」


「ふーはっはははは」


 やばい、なんか楽しくなってきたぞ。


 よし、じゃあちょっと戦ってみるか。


 嫁達とじゃれ合う感じで、怪我させないけどそれっぽく見える魔法を脳内検索して……。


「ようやくその気になってくれたか」


「え?」


「え?」


「え?」


 しわがれた声が割り込んできた。


 おれ達はびっくりして、声の方を見る。


 そこに、国王がいた。


 国王はキラキラした目で――まるで少年の様な目でこっちを見てる。


 ……え?


「余の千呪公よ、ようやくその気になってくれた。うんうん、余も常々余の千呪公こそこの世を統べるのにふさわしいと思っていたのだ。それがようやくその気になってくれたのだ、これほど嬉しいことはないぞ」


「ちょっと、あのぉ王様?」


「おっと、こうしてはいられん。余の千呪公が世界征服をするための援護射撃の準備をしなければ。またな、余の千呪公よ」


「ちょっとぉー!」


 いきなりやってきて、風のように去っていく国王。


 追いかけて、事情を説明するのが大変だった。

オチ……というかガチな王様。

世界が危うく変わる瞬間でした。

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