おれと契約して魔法少女になるんだ
「おれと契約して魔法少女になるんだ!」
「ひゃん! い、いきなりなんですかルシオ様」
昼下がりの屋敷の中。
帰宅してすぐに見つけたシルビアに詰め寄ると、彼女は思いっきり驚いた顔をした。
「おれと契約して魔法少女になるんだ!」
「お、落ち着いてくださいルシオ様。わたしにもわかるように説明してください」
シルビアが訴える。ものすごく困ってる様子。
「今日、このマンガを読んだんだ」
「新しい魔導書ですね」
「ああ、内容は敵味方に分かれて戦う魔法少女の話だ。萌えと燃えを足して二で割らない名作だと思う」
「そうだったんですか。新しい魔法を覚えたんですよね」
「ああ、それでおれは思った」
「はい」
「我が家には魔法少女が足りない! って」
「……すみませんやっぱりわかりません」
ますます困った顔になるシルビアである。
確実に困っているが。
「でも、ルシオ様のお役に立てるのなら頑張ります。どうすればいいんですか」
胸もとに握り拳を揃えて、意気込んで話すシルビア。
「待ってな……『レンタルアグリメント』」
覚えたばかりの魔法を使う、おれとシルビアの間に小さい魔法陣が出現。
「それを触ってくれ、それで契約成立だ」
「はい」
シルビアは躊躇なく魔法陣に触れた。
瞬間、シルビアの薬指にある指輪が光った。
そこからあふれ出した光がシルビアを包み、一瞬だけ全裸になったかと思えば、次の瞬間コスチュームに着替えていた。
魔法少女らしい、制服感が若干あるコスチュームだ。
ちなみに全裸になったとき謎光源で胸は見えなかった、その辺抜かりはない。
「着替えちゃった……」
「変身したんだ。これで今日からシルビアも魔法少女だぞ」
「はあ……それで、どうすればいいんですか?」
「魔法少女は文字通り魔法が使える少女だ」
「魔法使いさん、なんですか?」
「違う魔法少女だ! 魔法使いとは別物だ」
「そ、そうなんですか。えっと……」
「魔法を使ってみるといい」
「でも、わたし魔法なんて……」
「今なら魔法少女らしい魔法を、頭の中に浮かんでるはずだ」
「え……あっ、本当です、なんか頭の中に……」
「やってみろ」
「……はい!」
ここに来て真顔になるシルビア。
さっきまでは状況が飲み込めない困った顔だったのが一転して真顔になった。
「来て、『クラテル』」
今度はステッキが現われた。
先端に宝石がついたきらきらっとした、正統派魔法少女のステッキだ。
「魔法も使えるはずだ、やってみろ」
「はい! 『フレイズニードル』」
シルビアが魔法を唱えた途端、炎の針が現われて屋敷の壁を貫いた。
「あっ……使えた。これルシオ様の魔法?」
「ああ」
「えっと……やっぱり説明してくれませんか?」
「いいぞ」
魔法少女・シルビアの姿をみて満足した。
少し落ち着いて来たので、彼女に説明する。
「この魔導書の魔法の効果はいくつかあって、一つは今みたいな変身機能」
「はい。かわいいです」
おれもそう思う。後で魔法使って写真撮っとこ。
「もう一つは、契約した相手に魔法を貸し出す事。だから今使ったのもおれがマンガ読んで覚えた魔法」
「そうだったんですね」
「もちろんおれが使うよりは威力とか効果とかが弱いし、一つまでしか貸し出せないとかの制限はある」
魔法少女には定番のパワーアップイベントがある、なぜならこの魔導書が続刊ものだからだ。
それはまあおいといて。
「そんなわけで、今日からシルビアは魔法少女だ!」
ズビシッ! と指さす。
「はい!」
魔法少女姿で敬礼するシルビア、かわいい。
「あの……でもルシオ様」
「なんだ」
「魔法少女って、何をすればいいんですか?」
そういえば考えてなかった。
健全なのと不健全なのがあるけど、ここは全年齢で行くべきだな。
「定番は首を食われるのと――」
「えええええ!」
「親友と空の上で全力で殴り合う、とかかな」
「親友って……ナディアちゃん」
「ああ。よし待ってろ」
魔法少女で殴り合って友情を確かめ合うシルビアとナディア。
うん、いい絵だ。
是非とも実現させたい。
おれは屋敷の中を走り回って、ナディアを探した。
そして、見つける。
「ナディア!」
「お、ルシオくんじゃん、どうした?」
「おれと契約して魔法少女になるんだ!」
「いいよ」
シルビアと違って、ナディアは二つ返事で承諾したのだった。