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嫁が四人いる理想の家庭

 夜の寝室、風呂からあがったおれはパジャマ姿でマンガを読んでいる。


 持ってるのは魔導図書館から持ち出したマンガ、五人の少年少女が発明品で様々な物語を展開していく、青い機械猫を彷彿とさせるマンガだ。


 それで覚える魔法は『ウェアハウス』って言って、次元の壁を開いてつなぐ小さなスペース、金庫のような魔法だ。


 ちなみに続刊もので、巻数を読み進めていくごとに金庫が一つずつ増えていく。


「ルシオ様」


「お風呂上がったよー」


 巻末近くまで読み進めると、ドアを開けてシルビアとナディアが入ってきた。


 嫁の二人は言葉通り風呂から上がったばっかりで、かわいいパジャマ姿に頬が上気している。


「あっ、ナディアちゃん走ったら危ないよ」


「きゃっほーい」


 ナディアが走ってきて、ベッドにダイビングしてきた。


 シルビアはちょっと遅れて、でもいそいそとベッドに上がってくる。


「ルシオ様は魔導書を読んでたんですか」


「ああ、新しいヤツを見つけてな。続刊もので五十冊だから、読むまでだいぶ時間がかかりそうだ」


「五十冊ですか……普通の人は一生かかっても読めない量ですね……」


「そうだな。おれなら徹夜すれば二日、まあのんびり読んで一週間って所か」


 昔漫喫にナイトパックで入ったときのことを思い出した。


 人気シリーズを一巻から読んでいこうと思ったら一晩かけても読み切れなくてプラン延長したときの微妙な切なさを思い出す。


「ねえねえ、どういう魔法なのそれ」


 ナディアはわくわく顔で聞いてきた。


「こんな感じだ――『ウェアハウス』」


 何もない所に空間を開いて、手を突っ込む。


 そこから用意してたクシを取り出す。


「こんな風に収納スペースをつくって、どこでもものを出し入れ出来る魔法だ。シルビア」


 名前を呼んで、クシを手渡す。


 シルビアは受け取って、ニコニコ顔でナディアの髪の毛をすき始めた。


「ほえ、すっごい便利な魔法じゃん」


「地味に便利、って方がしっくりくるな」


「ねえねえ、それって何でも入るの?」


「大きさはなんでも、部屋ごとにものが一個って制限がつく」


「なんでも?」


「なんでも」


「大きくなったアリでも?」


「はいる。一部屋につき一匹だが」


「すっごーい」


「あっ、ナディアちゃん動かないで」


「あはは、ごめんごめん」


 ナディアは笑って、言われた通りじっとした。


 嫁同士であり、親友同士である二人。


 シルビアは嬉しそうにナディアの髪をすいて、ナディアも楽しそうにシルビアにさせてやった。


 魔導書を膝の上に開いたまま置いて、ナディアの手を握った。


 シルビアはそれを見て、器用に片手でナディアの髪をすいてアピールしてきたから、彼女の手も握った。


 お手々をつなぐ、我が家で一番のスキンシップだ。


 柔らかくて、温かくて、いいにおいがして。


 心が、落ち着く。


 しばらくの間そうしてた。


「今日は、お時間がゆっくりですね」


 シルビアがつぶやくように言った。


 ナディアと目があった、三人で微笑みあった。


 だれも答えない、「そうだな」って言葉すらいらない。


 のんびりしてて、心地いい時間が流れる。


「あっ、戻ってきた」


 沈黙を破ったのはナディアと、二人分の足音。


 おれは二つの魔法を唱えた。持ってる魔導書を魔法の倉庫にしまう。


 直後、ドアがいきなり開け放たれて、バルタサルが入ってきた。


「ルシオちゃーん」


 ナディアを彷彿とするダイビングでおれに飛びつくバルタサル。


「こら! 髪をちゃんとおふきなさいな」


 ちょっと遅れて、怒った様子で入ってくるベロニカ。


 バルタサルもベロニカも同じようにパジャマ姿で、頬が上気してるお風呂上がりだ。


 二人もベッドに上がってきた。


「ルシオちゃん、あのね、バル、ちゃんとお風呂に入ったのよ?」


 上目遣いでそんなことを言ってくるバルタサル。


 ほめてほめて、としっぽをふってくる子犬の様だ。


「何をおっしゃいますか、全部あたくしがやってあげたのではありませんか」


「ベロニカが洗ってやったのか?」


「ええ。そうでもしませんとこの子カラスの行水なんですもの。そのくせアマンダがやると言ったら拒否しますし」


「そうなのか」


 バルタサルを見る、彼女はキョトンとした顔で答えた。


「バルはルシオちゃんのお嫁さんなのよ?」


「……おれの嫁だからアマンダさんには洗われたくないのか?」


「うん」


「ベロニカだったらいいのか」


「ベロちゃんもルシオちゃんのお嫁さんなのよ?」


「なるほど」


 そういう線引きなのか、となんだか面白く感じた。


 ベロニカはやれやれって顔で、持ってきたタオルでバルタサルの頭を拭いた。


 おれが何かしようとするのをみて、「いいから」と目で制止した。


 ニコニコ顔のバルタサル、まるで母親になったかのようなベロニカ。


 彼女が入ってくる前に唱えたもう一つの魔法――誤作動させないために用意したもう二本の腕。


 そっとベロニカ、そしてバルタサルの手を握った。


 ベロニカはちょっと硬いがまんざらでもない顔をして、バルタサルはふにゃっとなった。


 四人の嫁と手をつなぐ。


 シルビア、ナディア、ベロニカ、バルタサル。


 柔らかい空気の中お手々をつないで、心が軽くなる。


「ねえねえ、明日どこに遊びにいこっか」


「また海の底へでもいきますの?」


「バルタサルちゃんはまだいってませんから、いいかもしれませんね」


「バルはルシオちゃんがいるところならどこでもいいのよ?」


 おれを中心にお手々つなぐ四人の嫁達、円満な夫婦生活。


 この日生まれ変わってから一番健やかに眠れた気がして。


 おれは、理想の家庭ができあがった、そんな気がしたのだった。

冒頭でルシオが読んでるドラえもんっぽいマンガのように、『マンガを読めるおれが世界最強』はドラえもんとかキテレツ大百科とか、ケロロ軍曹とかそう言った作品を意識していて、メインキャラは五人にしたいなあ、と漠然と思っておりました。


と言うわけで四人目の嫁・バルタサル編終了です。


これからも安定した「マンガ嫁らしい」楽しさを提供して行きたいと思いますので、応援よろしくお願いいたします。

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