仲良きことは美しきかな……かな?
「ルシオや」
「余の千呪公よ!」
魔導図書館の中で魔導書を読んでると、聞き慣れた声がやってきた。
顔を上げる、おじいさんとお忍び姿の国王の二人が同時に入ってきた。
「どうしたの?」
この二人の事だから、また何かで張り合ってるのかな。
「余の千呪公よ、聞いてくれ。ルカのやつが――」
「わしは嘘はついとらんぞ、そもそもからして――」
「すぴぃ……」
言い争ってた二人だが、のんきな音にぴた、と言い争いをやめた。
同時に音の主を注目する。
おれの隣でバルタサルが鼻提灯で居眠りしていた。
魔導図書館という魔導書が大量にある空間で、彼女はいつもとおり二コマ即堕ちレベルで眠りについた。
それはいつも通りで、そうじゃないところが一カ所ある。
それは、おれと手をつないでること。
お手々をつないだまま、彼女は寝ているのだ。
そんな彼女を見て、驚くおじいさんと国王。
「ルシオや、その娘はだれだ?」
「お前の目は節穴か。ほれ、余の千呪公とつないでるその娘の手を見るがよい」
「手? むっ、これは指輪。そうかルシオの嫁か」
「そういうことだ」
何故か国王が胸を張って威張りだした――なぜあなたが威張るのか。
「また妻を迎えたのかルシオや」
「うん、そういうことになるね。ごめんなさい、バタバタしてて、報告が遅れちゃって」
「気にすることはないのじゃルシオよ」
「こればかりはルカの言うとおりであるな。余の千呪公ほどの男だ、妻を迎えた程度のこと、わざわざ断る必要もない」
「うむ、そうだな。しかしこうなると結婚祝いが必要だ」
「その通りだ。少し待っているがいい余の千呪公よ。すぐに支度させる」
「まってるのじゃルシオ」
二人が同時に身を翻して歩き出そうとした。
この二人が張り合ってお祝いをしだしたら結構大変な事になる。
おれは慌てて二人を呼び止めた。
「ちょっと待って。それよりもおじいちゃんも王様も、ぼくになにか用事があったんじゃないの?」
「むっ?」
「そうじゃった!」
走り出しかけたのが止って、一斉におれに振り向く。
表情が登場した直後のように、ちょっと険悪――といってもこの二人の場合仲が良い――なものに戻った。
「聞いてくれルシオ、エイブがわしの言うことを信じてくれぬのじゃ」
「ルカが妄言を弄するからであろうに。若いころがイケメンだといって誰が信じるか」
あー、なるほど。おれの若いころは格好良かったんだぞ議論か。
「お前は重要な事を忘れてるのじゃエイブよ。わしは、このルシオの祖父なのじゃ。同じ血を引いてるのじゃ」
同じ血を引いてるって言い回しって、上の人の方がいうものだっけ。
「むにゃむにゃ……18.75%るしおちゃんだあ……」
バルタサルが意味不明な寝言を言い出した。お前実は起きてるだろ。
「トンビからドラゴンが生まれることもある」
その生み方はすごいな!
「どうあっても認めぬつもりか」
「行きすぎた妄言ではな」
「というわけでルシオ! わしに魔法を頼むのじゃ」
「魔法?」
「わしに魔法をかけて、若かりし頃に戻すのじゃ。現物をみればエイブも一発で納得じゃろ」
「なるほど、そういう話だったんだね」
ようやく話を全部飲み込めた。
「王様もそれでいいの?」
「うむ。やってくれ余の千呪公よ。余は若返った、しかしそれほどでもないルカを指さしで笑ってやるのだ」
プギャーはやめてあげて。
まあ、そういうことなら。
魔法は……そうだな、『グロースフェイク』でいいな。
今までは嫁達を大人の姿にするために使ったけど、逆に子供に――若返るために使う事もできる。
脳内で瞬時に魔法を検索して、おじいさんの方を向いた。
「じゃあ行くよおじいちゃん」
「うむ、やってくれなのじゃ」
「『グロースフェイク』」
「へくち」
瞬間、魔力が爆発した。
やべ、忘れてた。
静かに寝てたから忘れてた。
おれの魔法に誤作動を起こすバルタサルがそばにいたのだ。
とっさにシールドを張って、魔力の爆発がおれだけに来るようにガードした。
ちょっと待て、魔力の煙が晴れて、視界が戻る。
すると、とんでもない光景が見えた。
「……おじい、ちゃん?」
「どうかしたのかしら、ルシオ」
なんと、おじいちゃんの姿が変わっていた。
いや姿を変える魔法だからいいんだけど、その代わり方がおかしい。
おじいちゃんは若返って――二十歳くらいの深窓の令嬢風になった。
童貞を殺す服っぽいのを着てて――ぶっちゃけ綺麗だ。
「る、ルカ……おぬし女だったのか?」
「何を言ってるの? わたしは男よ……あら?」
おじいさん(?)は自分の姿を見て驚く。
「ルシオ、これはどういう事なの?」
「ごめん、今すぐ戻す。『グロースフェイク』」
「へくし」
ミスった、これは完全におれのミスだ。
慌てて魔法を使って、またくしゃみをされて、爆発と一緒に誤作動を起こした。
「なんなのよもうー。あたしの千呪公様! これはどういう事?」
「……」
言葉を失った。盛大な誤爆に言葉を失った。
今度は対象までも誤作動を起こした。
国王が八重歯の可愛い、ツインテールの美少女に変身してしまった!
ミスの二連発、その結果である二人。
童貞を殺す令嬢とツインテール八重歯が向き合っている。
見つめ合っていた、何故か互いに頬を染めて。
「あなた、可愛いわね」
「そ、そんな事言われなくてもわかってるわよ! あんたなんかに言われるまでもない」
「こら、女の子がそんな言葉遣いをするものじゃないのよ」
おじいさんが国王に唇に指をあてて、「めっ」をした。
すると国王は顔を真っ赤にして、逃げ出してしまった。
「あっ、待って」
おじいさんは慌てて後を追った。
なんというか、百合っぽいなにかを見てしまったような気がする。
呆然とするおれ。
誤作動で見た目だけじゃなくて性格まで変わってしまったおじいちゃんズ。
後日、また張り合いにやってきた二人の間に、どこかぎこちない空気が流れていたのだった。