次男坊、独り立ちへ
「ナディアちゃん!」
「シルヴィ……シルヴィなの!?」
部屋の中、友達の二人が再会を果たした。
つれて来られて驚くナディアに、シルビアがかけよって抱きついた。
「どうしてここに?」
「ナディアちゃんこそどうして?」
女の子二人が話す中、おれはゴルカに向き合う。
「もう、連れて帰っていいよね」
「支払いを確認しました。今この時より奴隷ナディアの所有権はあなた様にうつりました。ご随意に」
ゴルカが言った。
支払いはついさっき、使いを走らせて、屋敷にいっておれがため込んだ金を運んで来てもらった。
魔導書はおじいさんに事後報告でいくらでも買っていいけど、こっちは自分の金じゃなくてはいけなかった。
貯金の大半を使ったけど、まあいい。
「シルビア、それと……ナディア? とりあえず帰ろう」
☆
おまけのつもりだろうか、屋敷までの馬車を出してくれた。
おれたち三人が馬車に乗って、屋敷に戻る。
「シルヴィの事をずっと心配してたの。お父さんに聞いても何も話してくれないし。シルヴィちゃんの事はもう忘れなさい、ってしか言ってもらえなくて」
「ごめんなさい……」
「それより、お前はなんで奴隷になったんだ?」
普段の口調に戻ってナディアに聞いた。
ナディアは一瞬きょとんとして、シルビアを見た。シルビアが頷き、ナディアがおずおずと話し出した。
「わかんないよ、いきなり家に知らない人がいっぱい来て、差し押さえとか言って」
「ああ」
ナディアはわからないって言うけど、それだけでなんとなくわかった。
シルビアと似たようなもんだろ。
「ルシオ様」
「うん、なんだ」
「ナディアちゃんは……これからどうなるの?」
「……」
おれは迷った。
ナディアの身分は奴隷、だから普通は召使いとか、メイドとかそういうのでこき使うものらしい。
でもナディアはシルビアの親友だ、同じ年の彼女をシルビアの近くで使用人として使うのは気が引ける。
どうすればいいのかな。
☆
「結婚すればいいのじゃ」
屋敷に帰り、一番の理解者のおじいさんに相談すると、そんな事を言われた。
「結婚? ナディアとも結婚するの?」
「それが一番無難じゃ」
そっか、無難か。
「あっ、でも奴隷だから身分がどうとかってならないかな」
「マルティン家は大丈夫じゃ。そこの所うるさいお貴族様もいるが、うちは問題ない。というか」
おじいさんはにやりと笑った。
「わしも奴隷妻もってたしな」
おいおい、マジかよ。
でもそれはいいことを聞いた。
事実上の当主であるおじいさんがそう言って後押しをしてくれるのなら何も問題はない。あとはナディアを説得するだけだな。
「そうするのか?」
「うん、それしか方法がないみたいだから」
「なら、独立した方がよいな」
「独立って?」
どういう事だ。
「二人も妻を持つのに実家暮らしもないじゃろ? 家を買って、妻達とそっちで暮らすのが筋というものではないのか?」
確かにそうかもしれないけど。
「おじいちゃん、ぼくまだ八歳だよ?」
「自分の意思でおなごを連れてきて嫁にする男ならもう大人だ」
そうかもなあ。
仕方ない、何か稼ぐ方法を見つけて、家を手に入れて独立しよう。
あっ、その前にナディアの意思を確認しないと。
☆
「と言うわけで、結婚するのが一番無難な方法だけど、どうだ?」
部屋に戻ってきて、シルビアとナディアの二人にその話をした。
「本当!」
ナディアは何故か大喜びした。
「シルヴィと同じ人のお嫁さんになれるの?」
「まあ、そういうことだな」
「なる、お嫁さんになる!」
ナディアが予想以上に乗り気で、逆におれが戸惑ったくらいだ。
「そ、そうか。シルビアはどうなんだ」
「ルシオ様がそれがいいっていうのなら」
にこりと微笑むシルビア。この歳にして、従順な嫁が板についてきた。
「よし、じゃあそうする」
意外とあっさり話がまとまった。
さて、まずは独立するための家だな。
次回、独立するための家を探す話です。