二倍ルシオ
間違って別の作品に投稿してしまいました。
修正してお詫び申し上げます。
「へくちっ」
いつものように、おれの魔法に反応して、くしゃみで魔力を放出バルタサル。
屋敷の庭での出来事、バルタサルは思いっきり落胆した。
「ルシオちゃんの指輪……」
彼女は自分の手を見つめながら、悲しそうにつぶやいた。
おれは彼女に指輪をはめた。
魔法で作った、嫁にはめる結婚指輪。
それに反応してバルタサルがくしゃみして、指輪を粉々に吹っ飛ばした。
くしゃみの魔力はいつも通りおれに飛ばされたから、指輪が壊れたのはそれが直接的な理由じゃない。
もう一つ起きる現象、魔法の誤作動がそうさせた。
浮気をすると壊れる指輪、その誤作動で、しなくても壊れる、それかしない方がむしろ壊れる、って誤作動したんだろう。
「ルシオちゃん……」
悲しそうな目をするバルタサル。
胸がズキって痛む。
直前まで彼女は笑ってた。
指輪をはめて、これでルシオちゃんとお手々をつないで寝れる、って喜んでた矢先の出来事だ。
「もう一回やってみよう」
「もう一回?」
「ああ……『マリッジリング』」
もう一回魔法で指輪を作る、それをバルタサルの指に通そうとする。
「へ……へ……」
バルタサルがむずがる、くしゃみが出そうなのを必死にガマンしてる様子。
「――へくちっ」
でもガマンできなかった。
くしゃみをして、魔力がおれに直撃して、指輪が粉々になる。
「はぅ……」
泣きべそをかくバルタサル。
ちょっとかわいそうになってきた。
これは流石に可愛そうだと、どうにかならないものか、とおれは考えた。
☆
「すぴぃ……」
魔道図書館に入ったのとほぼ同時に、バルタサルは鼻提灯を出してねてしまった。
入り口で立ったまま寝る魔王の幼女。
文字にするとかなりシュールだ。
これも仕方ない、魔法に反応してくしゃみをするのと同じように、魔導書に反応して居眠りをするようだ。
念のために外に連れ出してみた。
パチン、って音をたてて鼻提灯がはじける。
「ふわーあ……おはようるしおちゃん」
若干舌っ足らずな感じで言ってくる。
魔導書から離れると起きるみたいだ。
これもまたいかにも彼女らしいって感じだ。
「中にはいらないの?」
「もう入ったあとだけどな」
「ふえー? そうなの?」
「そうなの」
おれは迷った。
ここにバルタサルを連れてきたのは、魔道図書館の蔵書から、現状を打破する為の魔法を見つけるためだ。
それがこの調子なら、魔導書のそばで居眠りしてもなにも出来ない可能性が高い。
寝てるとき魔法でおこすか? いやそれも誤作動するだろうな。
うーん、どうしたらいいんだろ。
と、おれが考えてると。
「あっ」
「うん? どうした」
「3分の1ルシオちゃんだ……」
聞いたことのある言い回し。
バルタサルの視線をおった、その先にぎょっとして、逃げ出すイサークの姿があった。
バルタサルの体がひかって、魔法の光がイサークに追いつき、星柄のナメクジにかえた。
これも彼女らしいな。
イサークに近づいて、拾い上げて、魔法で安全なところに送ってやった。
くしゃみが爆発して、魔法が誤作動する。
送ろうとしたのが、元に戻す効果が生まれた。
イサークは人間の姿にもどった……ただし素っ裸で。
「お、おぼえてろよー」
イサークはそう言って、逃げ出してしまった。
流石にこれは悪いことをした、魔法でフォローを……いや今はやめた方がいいな。
おれはバルタサルを見た。
ふと、ある事に気づく。
「バルタサル」
「バルのことはバルちゃんってよんで?」
「……バル。お前、魔法は使えないんじゃないのか?」
「うん、使えないよ?」
彼女は当たり前の様にこたえた。
うん、これは前にも聞いた、そして魔法でも確認した。
彼女は魔法を使えない。
「じゃあ今のは?」
「ルシオちゃんは一人っていいって思ってたら、そうなった」
「ふむ……」
そっちも魔力の暴走みたいなもんか、そして3分の1ルシオっていう言い回しからして、「おれ」に反応してる?
なら、「おれ」の濃度を変えれば?
「バル、ちょっとここで待っててくれ」
「えー、どうして?」
「いいから。すぐにもどる」
おれはバルタサルをおいて、図書館の中に入った。
入ってこない(多分来れない、寝てしまうから)バルタサルから距離を取ったのを確認して、魔法を使う。
「『タイムシフト』」
魔法で未来の自分を召喚した。
「やりたいことはわかってるな」
「ああ」
「いくぞ」
うなずく未来のおれ。
おれは更に魔法を使った。
「『コーレセンス』」
魔法がおれと未来のおれを包み込む。
視界が城に染まって、晴れると、未来のおれがいなくなった。
「「これでいけるか」」
かわりに、声がおかしくなった。
同じ声が重なっているそんな感じの声。
未来の自分を召喚して、更に合体する魔法を使った。
その状態で図書館の外にでた。
バルタサルがぽかーんとしている。
「2倍ルシオちゃんだ……どうして?」
「「わかるのか」」
こくこくって頷くバルタサル。
さて、この状態なら?
「「『マリッジリング』」」
魔法を使った。
念のために警戒しつつ、魔法を使った。
手のひらに指輪が出来た。
くしゃみはなかった。2倍おれだと魔法でくしゃみはないみたいだ。
唖然としてるバルタサルの手を取って、指輪を薬指に通す。
「……」
「「……」」」
しばらく待って、何も起こらなかった。
正しく言えば、変な事は何も起こらなかった。
指輪は本来の効果を発揮して、バルタサルの指と一体化する。
それを確認して、魔法をといて、未来のおれを送り返す。
親指を立てられた。余計だよ、その情報は。
未来のおれはいなくなった。
バルタサルを振り向く。指輪がついてる手をとる。
それを見つめる。
くしゃみはなかった、誤作動もなかった。
二倍おれが作った指輪は、ちゃんとバルタサルの指の上に輝きを放っていた。
「バル」
「ふぇ? な、なあに?」
おれは真顔で彼女を見つめて。
「おれの嫁になってくれ」
改めて、ちゃんとプロポーズしたのだった。




