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水中飛行

 次の日の昼下がり。


 おれは魔導図書館に行かないで、屋敷で魔導書を読んでいた。


 というのも、バルタサルがおれにくっついて離れなかったから。


 魔導書をまとめて吹っ飛ばされると復元とかが面倒だから、今日は行かないで屋敷に残った。


 そのバルタサルは今、おれを膝枕してる。


 にじゃなくて、をだ。


 空気ソファーに座ってるおれの太ももに頭を載せて、ごろごろしてる。


 普通逆なんじゃないのか? っておもったけど。


「うふふー」


 ご満悦な顔が楽しげだから、好きな様にさせた。


「ルシオちゃん。それってなあに?」


「これか? 『ボールプール』って魔法の魔導書だ。話は結構面白いけど、魔法は一発芸に近くてほとんど役に立つ所はないかもな」


「?」


 バルタサルは頭にハテナマークを浮かべる。


 おれの太ももの上に寝っ転がったまま、器用に首をかしげている。


「なにがわからないんだ?」


「魔法? 魔導書?」


「うん? この魔導書を読めば魔法を覚えられるって昨日説明したよな」


「バル、覚えてないのよ?」


「おぼえてないのか。まっ、そういう事だ。この――というかこういう魔導書を読めば一冊につき魔法を一つ覚えられるんだ」


「ルシオちゃんはもう覚えた?」


「今読み終わったところだ」


「魔法を見せて」


「ああ、いいぞ」


 汎用性がちっともない魔法だけど、一発芸の時間つぶしにはいいのかもしれない。


 おれは魔導書を置いて、魔法を唱えた。


「『ボールプール』」


「へくちっ」


 魔法を唱えた瞬間、バルタサルがまたくしゃみをした。


 膝枕をしてる状態でのくしゃみ、ゲート関係なく、魔王の魔力がおれの顔面に直撃する。


 予想してたし、対策もした。


 それを無視して、魔法が誤作動を起こす。


 元々は直径三メートルくらいの、球状の水を作り出す魔法だ。


 ただの水が、魔法の力で球状に保ち、その中で泳いだりして遊べる魔法。


 それが、屋敷全体を包み込んだ。


「――!」


 バルタサルが苦しそうにした。


 水がおれ達ごと屋敷全体を包む。


「『アダプテーション』」


「へくち」


 水中に適応する魔法をかけた。


 魔力が顔を直撃して、水を一部ふっとばした。


 球状なのが一瞬崩れたが、すぐに元通りに復元した。


 そう言う効果もある魔法だ。


「くるしー、くるしーのルシオちゃーん」


 一方で、くしゃみをした後、おれの膝の上でじたばたするバルタサル。


 普通にしゃべれてるのにじたばたするその姿はちょっと可愛い。


「落ち着け、もう大丈夫のはずだ」


「ふぇ? あっ、ほんとだあ」


 落ち着いたバルタサル。起き上がって自分の両手をみる。


「水?」


「ああ、水だ……うん?」


 おれは異変に気づいた。


 手を出して、空中――というより水中で動かしてみる。


 水の抵抗を感じた。普通に水中で――風呂とかで手を動かす感じの抵抗がある。


 ちょっとびっくり、こうはならないはずだ。


 今かけた『アブダクション』って魔法は水の中でも陸上とまったく同じように過ごせるようになるという魔法。


 呼吸できるようになるのはもちろん、水の抵抗も無視して普通に歩いたり動いたりする事ができる。


「呼吸は出来るけど、水の抵抗があるな」


 手をみて、バルタサルをみた。


 今のくしゃみで誤作動を起こしたんだな。


 呼吸は出来るから問題ないけど、これじゃ動きにくいな。


「わるいな、今魔法をかけ直す――」


「みてみて」


 バルタサルは手足をバタバタさせた。


 陸上じゃなくて、水中。


 バタバタした手足が彼女の身体を持ち上げ――浮かび上がらせた。


「バル、泳ぎは得意なのよ?」


「そうなのか」


「ルシオちゃんも泳ぐ?」


「そうだな」


 イレギュラーだけど、せっかくだし、これはこれで愉しめそうだ。


 おれはバルタサルを見習って、手足をバタバタさせた。


 するとおれも浮かび上がる。


 そして平泳ぎの動きを真似た。


「うわっ!」


 勢いがついて、天井に向かってすっ飛んでいった。


 天井に頭をぶつけてしまう。


「あいたたた……」


「ルシオちゃん大丈夫?」


「ああ大丈夫だ。水中だから、ちょっと浮くんだな」


 試しにいろいろ動いてみた。


 呼吸できるししゃべれるけど、それ以外は水の中にいるのと同じ感じだ。


 下に潜るのは大変だけど、浮くのはわりかし楽だ。


 つまり、今の状況は。


 自由に呼吸できるプールの中にいる、そんな感じだ。


「うっふふ-」


 バルタサルは部屋の中を泳いで回った。


 まるで人魚のようで、みていて飽きない。


「ルシオちゃん、外に行こう」


「ああ」


 バルタサルと一緒にあいてる窓から外に出た。


 巨大な球状のプールは屋敷全体を覆ってる。


 おれ達は屋敷のまわりを泳いで回った。


 普段いけない様な、テラスの裏側とかもいってみた。


「パパ!」


 おれを呼ぶ声。


 屋敷の中から出てきたのはクリスティーナ……魔導書の精霊クリスだった。


 クリスはおれ達のように空中を浮かんで、こっちに飛んでくる。


「大変だよパパ、魔導書がずぶ濡れだよ」


「そうか。後でなんとかする」


「いいの?」


「ああ」


 それも織り込み済みだ。


 屋敷全体に復元の魔法をかければ済むこと。


 その際、バルタサルのいない所でやらないといけないがな。


 ……いや、いる時にやって、どんな誤作動が起きるのかをみてみるのも面白いかも知れない。


「ねえねえパパ、あの人だれ?」


 クリスはバルタサルの事を聞いた。


 おれが答えるよりも先に、バルタサルが代わりに答えた。


「バルはバルなのよ?」


「わたしはクリス。よろし――く?」


 そういって、おれをみるクリス。


 首をかしげる姿は「よろしくしていいの?」って聞いてるかのようだ。


「仲良くするといいよ」


「うん、よろしくね」


 クリスが手を差し出した。


 バルタサルは握手しようとしたが、半透明のクリスの手はすり抜けてしまった。


「まだ触れないのか」


「早くもっと多くの魔導書をよんで? パパ」


「努力する」


 クリスはおれが魔導書を読めば読むほど実体化する。


 いつの日か完全に実体化するのを目指して魔導書を読んでる。


「そだ、パパパパ、もう一つ知らせる事があった」


「うん?」


「あっちでココちゃんがじたばたしてるよ」


「それを早く言え! どこだ」


 クリスにココの居場所を聞いた。クリスは一瞬きょとんとしてからおれを案内した。


 屋敷の反対側でココを見つけた。


 ココは犬かきをして水の外に出ようとしてるがうまく出れないでいる。


 泳げてるけど息継ぎが出来ないから苦しそうだ。


 あっ、気絶した。


 おれは慌てて空中を泳いでココの所に向かって行く。


「『アブダクション』」


「へくち」


 背後からくしゃみの声がして、後頭部に魔力が直撃する。


 知ってた。だからココにはちゃんと魔法障壁をかけてある。


 一瞬して、ココが「ぷー」って水を吐き出した。


 まるでクジラの潮吹きだ。


 水の中で水を吐き出すという、ちょっとした面白い光景になった。


「あれぇ? ここはどこですかぁ?」


「気がついたか」


「ご主人様ぁ……あれれ、さっきお母さんが川の向こうで手招きしてるって見えた気がしたですけどぉ」


 首をかしげるココ、どう聞いても臨死体験じゃないか。


「ねえ、今のどうやったの?」


 バルタサルが聞く。


 ん? 今のって普通に『アブダクション』の魔法だけど……。


 と思ったらバルタサルはおれじゃなくて、ココに聞いてた。


 ここは困惑しておれとバルタサルを見比べた。


 おれはバルタサルに聞いた。


「今のって、ココの泳ぎ方のことか?」


「うん」


「犬かきだったな、やりたいのか?」


「うん」


「ココ、教えてやってくれるか?」


「はい、わかりましたぁ」


 ご主人様が言ったので、ココは安心して、バルタサルに犬かきを教えた。


 バルタサルはすぐに覚えた。


 ココと二人、犬かきで屋敷のまわりを飛び回る。


 それにクリスも加わる。クリスは空中を飛んでて、動きがスムーズだが、一応犬かきのポーズをしている。


 昼下がり。


 おれ達四人は、屋敷の内外を泳いで、はしゃぎ回ったのだった。

書籍版二巻発売されました。

こちらもよろしくお願いいたします。


挿絵(By みてみん)

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