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白鳥のバタ足

 昼寝から起きた四人。


 ご機嫌に起きた三人と違って、ベロニカだけちょっと不機嫌そうだ。


「どうした」


「どうしたもこうしたもありませんわ。夢にまであのトンボが出てきましたわ!」


「それは大変だったな。口直しになんか別のことするか?」


「ルシオに乗せてくださいまし」


「うん? おれに?」


「そうですわ。いつもの様にドラゴンになって、その背中に乗せてくださいまし」


「わかった」


 おれは即答した。それくらいの注文、どうって事はない。


「トランスフォーム・ドラゴーー」


「へくちっ!」


 魔法を使った直後、バルタサルがくしゃみをした。


 お約束のくしゃみ。


 放出された魔力が彼女対策のゲートに吸い込まれ、おれにまとめて放出される。


 頭のあたりで大爆発が起きて、土煙が全身を覆った。


「ルシオ様!」


 シルビアのあわてた声が聞こえる。


「大丈夫だ、心配するな」


「よかった……」


「さすがルシオくんだねーーって、なにこれ」


 ナディアが言い掛けて、テンションが急上昇した。


 ものすごく楽しげな「なにこれ」。


 直後、腹を抱えて笑い出した。


「あはははは、ルシオくんすっごいかわいい」


「これは……ありですわね」


「ほわ……」


 嫁達の声が次々と聞こえてきた。何がどうしたんだ?


 土煙がはれたあと、すぐに異変に気づいた。


 視界の高さがいつものと違っていた。


 いやドラゴンに変身する魔法を使ったんだから視界の高さは変わるものだが、そうじゃなかった。


 むしろ逆だ。


 大きくなって見下ろす視界じゃなく、嫁達をみあげる視界。


 下からみんなを見上げるような感じ、巨人を見上げる様な感じになったのだ。


「どういうことだ、これ」


「ルシオくんがちっちゃくなった」


「むっ?」


「ちっちゃい、ドラゴンの赤ちゃんですね」


「ぬいぐるみみたいになってますわね」


「『フルレンスミラー』」


 魔法を使った。


 目の前に体と同じサイズの鏡が出現して、おれの姿を映し出す。


 写ってるのは小さなドラゴン。


 以前変身したドラゴンの姿をそのまま小さくデフォルメした姿。


 ベロニカがいうとおり、まるでぬいぐるみみたいだ。


「なんでこうなったんだ?」


「大きくなる事は出来ませんの?」


「できるーー『グロースフェイク』」


「へくちっ!」


 魔法をつかった瞬間、またもバルタサルがくしゃみをして、魔力がおれを直撃。


 同じように爆発が起きて、土煙がまう。


 はれた瞬間、視界の高さがさらに変わる。


 なんと、四人が大人になっていた。


 ドラゴンになった自分を大きくする魔法を使ったんだが、逆に四人を大人にしてしまった。


 さすがにもう、理由がわかる。


 魔法を使った瞬間、バルタサルの魔力が直撃した。


 それでおれの魔法が誤作動を起こしたんだろう。


「すぴぃ……」


 とうのバルタサル……初めて見る大人バルタサルは鼻提灯だして、立ったまま居眠りしていた。


 大人になっててかわいいが、ものすごく残念な姿だ。


 ……さて、もう一回魔法を使おう。


 大きくなって、ベロニカを背中に乗せてーー。


 と思ったら、そのベロニカにひょい、って抱き上げられた。


「ベロニカ?」


「……かわいいですわ」


「え?」


「ルシオ、あなたこんなにかわいかったの?」


「待てベロニカ、お前何を言ってる」


「ルシオくんはもともとかわいいんだよ。ねっ、シルヴィ」


「そんな、ルシオ様をかわいいだなんて……でも、うん……」


 頬を染めてうなずくシルビア。


 きゃいきゃいと盛り上がる大人姿の三人、囲まれるおれ。


 気分は女子高生に捕まった子犬だ。


 おれを抱き上げるベロニカは、慈しむような手つきで頭を撫でてきた。


 ひとしきり撫でた後、ナディアに順番を譲った。


 ナディアは強めにほおずりしてきた。


 その次はシルビアに渡された。


 シルビアはおずおずとしながらも、ぎゅって抱きしめてきた。


 これも悪くない、お姉さん達に可愛がられるような気分になって、悪くない。


「あはは、ルシオくんをよしよしってしてるみたいで楽しいね」


 ナディアがそう言った、シルビアとベロニカはうなずいた。


 みんな、同じ気分のようだ。


「バルちゃんもやってみる――ありゃ、バルちゃんまた寝てる」


 最後にバルタサルに渡そうとしたが、彼女は大人の姿になってからずっと眠ったままだ。


「残念、楽しいからバルちゃんにもやってもらいたかったのに」


「起きるまでルシオが今の状況を維持すればいいだけですわ」


「今のって事故みたいな状況ですけど、それは大丈夫なんですかルシオ様」


 心配するシルビア。


 確かに今の状況は事故、バルタサルの魔力がおれの魔法を暴走させた結果。


 それを心配するのはわかる。


 だが大丈夫だ。この程度のアクシデント、どうとでもなる。


 安心させるため、にこり微笑んで。


「大丈夫――」


 口を開いた瞬間、景色が変わった。


 まわりの空間がゆがんで、まったく違う所に飛ばされた。


「――だあ?」


 何もない空間だ。


 まわりが真っ黒で、上下左右もなくバランス感覚がおかしくなりそうな空間。


 見覚えのある――何度も来た事のある空間だ。


「ふははははは!」


 聞き覚えのある声。


 振り向くと、そこにバルタサル(一世)の姿があった。


 そう、何回も召喚されてきた空間。


 オリジナルの魔王バルタサルが封印されてる空間。


「ほう、感じたとおり弱っているようだな、ルシオ・マルティンよ」


「弱ってる?」


「貴様に魔法をかけておいたのよ。体力と魔力が低下したときに発動し、ここに引きずり込む為の魔法をな」


「そんな事をしてたのか」


「はらわたを裂いてバラバラにしてくれる!」


 オリジナルバルタサルが襲ってきた。


 おれが弱ってる時に発動するトラップ、なるほど戦術としては悪くない。


 わるくない――が。


「『トランスフォーム・ドラゴン』」


 魔法を使う。姿が変わる。


 魔力の暴走――横やりが入らない本来の魔法。


 魔法で本来あるべき姿、巨大なドラゴンに姿を変えた。


 デフォルメされたものじゃなくて、巨大な、力の象徴であるドラゴンの姿に。


 バルタサルの顔色がかわった。


「ば、ばかな。弱っていた――ぶるうううううあああああああああ!」


 オリジナルバルタサルを前足で踏みつぶした。


 割と全力で、容赦なく。


 ついでにグリグリもつけてやる。


 まったく、せっかく嫁達と遊んでたのに邪魔して。


 オリジナルバルタサルを倒して、空間がゆがみはじめた。


 元の場所に戻る前兆だ。


 むっ、このまま戻ったら色々台無しだな。


「『トランスフォーム・ドラゴン』……『リプロダクション』」


 二つの魔法を同時に使う。


 ドラゴンに変身する魔法と、状況を再現する魔法。


 変身する途中で、自分に魔力の塊をぶつける。


 彼女のくしゃみを再現する。


 そして、次の瞬間。


「……」


「ルシオ様?」


 元の場所に戻ってきた。


 きょろきょろまわりを見回すぬいぐるみサイズのおれをみて、大人のシルビアが小首を傾げる。


「どうかしましたか?」


「おれは今――いやなんでもない」


 シルビアもナディアも、ベロニカも特に何の反応もしていない、「どこに行ってたの?」とも聞いてこない。


 バルタサル空間に召喚された事を気づいていないようだ。


 気づいてないのならそれでいい、むしろそれがいい。


 その時――バルタサルの鼻提灯がはじけた。


 目覚めた彼女はまわりをみて、自分をみて、おれをみる。


 ぬいぐるみサイズのおれをじっと見つめて、やがて、ぽわあ、と笑みをこぼした。


「ルシオちゃんだあ……夢の中でもルシオちゃんだあ」


 といって、おれを抱き上げて、ナディアのようにほおずりして――また寝てしまった。


「ルシオ様だってわかるんですね」


「寝ぼけてるのにね」


「本物という証ですわね」


 夕焼けの中、バルタサルに抱きしめられるおれ、頷きながら見守る大人の三人。


 草原は、「楽しい」に包まれていた。

書籍版二巻発売されました。

こちらもよろしくお願いいたします。


挿絵(By みてみん)

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