表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/120

親友救出

 異世界転生から二年がたって、おれは八歳になった。


 二年のあいだで何かが変わったといえば、あまり変わってない。


 相変わらずおれは毎日おじいさんの書庫でマンガの魔導書を読みふけって、たまに水とかき氷を売りにいく。


 それで儲けた金を貯金して、ちょっとした財産になった。


 それ以外はほとんど一緒だ。


 変わってないことと言えばもう一つ。シルビアのおねしょだ。


 今でもたまにおねしょをする。おれと手をつないでないと、かなりの割合でおねしょしてしまう。


 それとは別に、最近は手をつなごうとするとはにかむようになった。


 どうやらおれとの間に男女を意識しだした。もう結婚して夫婦なのに、今更それを意識するのかおかしかった。


     ☆


 この日も書庫で魔導書を読んでいた。手足がちょっと伸びたシルビアがうちわでゆっくりおれを扇いでいる。


「ルシオ様、そのご本は前にも読んでましたよね」


「ああ」


「同じ本を二度読むのですか?」


「ここにある本は全部読んじゃったからな」


 じいさんの蔵書は読破した。それで覚えた魔法の数は四桁を超えた。


 正直、今のおれはなんでもできる。


 魔物を召喚しようと思えばできるし、ホムンクルスも作ろうと思えば作れる。


 一回人気のないところで隕石落とし――メテオも使ってみた。


 魔法でできそう、って思う事は大抵本当にできる。


 やる必要性があまりないから、やってないだけど。


「ルシオ様、みかん剥けました」


「あーん」


「はい、どうぞ」


 口をあけて、みかんを口の中に入れてもらう。シルビアは結構手先が器用で、うちわで扇ぎながらみかんを剥く芸当もできてしまう。


 そのシルビアとのんびりした日々を過ごしてる。


     ☆


 シルビアと一緒にバエサの街に来た。


 結構大きい街で、たまに二人でやってきて、何するでもなくぶらぶらする。


 まずは本屋に入った。


 街にも魔導書を取り扱う本屋がある。だけど品揃えはそんなに良くない、大半はじいさんが既に持ってたりするものだ。


「いらっしゃいませルシオ様。今日も新しい魔導書が入荷されてますよ」


 店員の男がおれを見つけて、商売用の愛想笑いを振りまいてきた。


「どんなの? みせて」


「はい、こちらの三冊です」


 そういって、おれの前に三冊の魔導書を出した。


 表紙を見て、ざっと中も見た。


「この二冊はもうあるね。サスピションとドキュメント。この三冊目だけまだ持ってないかな」


「では……」


 店員は目を輝かせた。


 おれはおじいさんに言われてる、本なら――魔導書ならいくらでも買っていい、むしろまだ持ってないのがあったらどんどん買えと。


 おじいさんの趣味なのと、おれにもっともっと読ませたいので、魔導書はかぶってないのだったら容赦なく買ってる。正直結構ありがたい。


 それをこの二年間やってきて、店の人もそれを知ってる。


「うん、買っちゃう。いつもの様に屋敷に送っといて、請求もそっちにお願いね」


「ありがとうございます!」


 店員の満面の笑顔に見送られて店を出た。


 魔導書というのは結構高いものらしく、あれ一冊だけで相当の売り上げになると聞いた。


「また新しいご本が読めますね」


 一緒にいたシルビアが満面の笑顔で言った。


「ああ、どんな本なのか楽しみだ」


「前回買った本はすごかったですよね」


「スクリーニングのことか。うん、あれはすごかった」


 スクリーニングという魔法はかなり便利な魔法だ。


 例えば十個くらいの卵があって、一つだけ古いもので腐ってて、でも外見からわからない。


 そういう時にスクリーニングをかけて、腐った卵、って条件をつければ腐った卵だけが光り出す。


 たくさんあるものの中から、条件にあったものを選び出す魔法である。


 すごいのもそうだし、かなり便利なのだ。


 ちなみに魔導書の方は、おれは読むのに一時間掛かった、シルビアもおじいさんも未だに一ページも読めてない。


 世間話をしながら街の中を散歩する。


「あれ?」


「どうしたシルビア」


「……あの馬車、あの馬車の中に知ってる子がいた気がする」


「どれ?」


 シルビアがすぅと指した。


 丁度角を曲がった馬車が見えた。


「知ってる子って、どういう子なんだ?」


「お父さん同士が親友の、同じ商人の娘の子です」


「へえ、この辺に遊びにでも来たのかな。会いに行こうか」


 シルビアをつれて、馬車を追いかけた。


 馬車が止まってる店の前についたとき、おれはぎょっとした。


「ここは……」


「奴隷だと?」


 そこはバエサでお悪名高い、奴隷を扱う店だった。


「シルビア、お前のその知りあいの実家って、奴隷の関係ある商売をしてるのか」


「ううん、そんな事はない……と思います」


「そうか」


 なんかちょっと悪い予感がした。


 とにかく話を聞こうと、おれはシルビアを連れて中に入った。


 店の人間がいきなりでてきて、いやそうな顔をした。


「ほら出てった出てった。ここは子供が来る所じゃないんだよ」


「あのね、ぼくの名前はルシオ・マルティンって言うんだ」


「ルシ……マルティン様!?」


 店の人がいきなりへこへこしだした。


「マルティン様と言えば、あの? イサーク様とは?」


「ぼくのお兄さんだよ」


「これはこれは、まさかマルティン様のお坊ちゃまだったとは思いも寄らず失礼いたしました」


 店の人はおれたちを中に通した。


 個室に案内され、おれたちは座った。


 しばらくして、違う男がやってくる。


 ヒゲ面の中年男だ。


「初めまして、わたしがこの店の主人ゴルカ・ポロシと申します」


「ルシオ・マルティンです」


「して、今日は奴隷をお求めに?」


「えっとね! ぼくの妻が知りあいかもしれない人がこの店に入るのを見たっていうんだ。それを探しに来たの。ねえシルビア、その子の名前と特徴は?」


「えっと、ナディアちゃんっていいます、わたしと同じ歳です」


「家が商人で、彼女と同い年の子で、ナディアって言う子なんだけど。いるかな」


「ございます」


 ゴルカは即答した。


「当店の商品として」


「商品?」


「はい」


「そんな! ナディアちゃんがなんで商品になるの!?」


「それは――」


「シルビア、それは後でゆっくり話そう」


 おれはシルビアを止めた、そしてゴルカに切り出した。


「商品なら買います。いくらですか」


「1000万セタでございます」


「……うん、買うよ」


「承知いたしました、では請求はマルティン家に――」


「ううん」


 おれは首を横に振った。


「家じゃなくて、請求はぼくにお願いします」


「……ほう」


 ゴルカは面白そうな顔をした。


 魔導書と違って、おれのわがままだから家の金は使わない。


 幸い、この二年間に溜めた金で足りた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ