ルシオ'sダンジョン
巨大迷路の中をナディアが走っていた。
迷路の壁は木の板で出来ていて、数歩進むごとにドアがある仕組みだ。
ナディアは次々とドアを開いて先に進む、が。
「こっちも行き止まりじゃん!」
ドアを開いて入ったそこは小さな部屋の様な空間だった。
ナディアはすぐ様引き返して、二つ前のドアに戻って、違う方のルートを行った。
「あと30秒ですわ」
「頑張ってナディアちゃん」
空から少女たちの声が聞こえてくる。
ベロニカは急かしつつ楽しんでるような声色で、シルビアは純粋に親友を応援してるって感じだ。
「30秒!? あわわわ、どうしようどうしよう」
制限時間をきいてますます走る速度をあげるナディア。
ドアを開けて、進む。
ドアを開けて、引き返す。
ドアを開けて――水の中に突っ込んでしまう。
「終了ですわね」
「ナディアちゃん惜しい」
水の中に突っ込んだナディアはそこをでると、体が元のサイズに戻った。
びしょ濡れになったナディアに、シルビアがタオルを持って駆け寄る。
それで頭を拭きながら、ナディアはそばにある巨大迷路の模型を見る。
ミニチュアサイズの巨大迷路の端っこでドアが開けた状態でゆらゆら動いてて、その先の池に波紋が広がっている。
それの、更にすぐ横に。
「あー、右に行ってたらゴールだったじゃん!」
「うん、最後のドアだった」
「もう、悔しいな。せっかくここまで来たのに」
「では、つぎはあたくしですわね。ルシオ」
「はいよ」
ちょっと離れた所で見守ってたおれが応じた。
二つの魔法を使う。
一つはベロニカの体を小さくするもの、もう一つはミニチュアサイズの巨大迷路を作り替えるもの。
小さくなったベロニカが入り口にたって、巨大迷路はその入り口とまわりの池を残して、内部の構造を作り替えた。
「行きますわよ」
「じゃあスタートで」
おれとシルビアとナディアが観戦する中、ベロニカがドアを開けて巨大迷路に飛び込んでいく。
「あ、そっちは――」
「ダメだよナディアちゃん。反応しちゃだめ」
シルビアが慌ててナディアの口を押さえたが、それを聞いたベロニカがにやりとして、手をかけたドアから離れ、別のドアに入った。
ランダムで生成した巨大迷路のダンジョン。
そのランダム故に、最初のドアから池ぽちゃになってしまっていた。
それをナディアが思わず声をだして、ベロニカは運良く回避した。
「面白いねルシオくん。これ、自分で進むのも面白いけど、外からみるのも面白いね」
「そういうもんだ。人狼ってゲームと似てるな。リタイアしたあともニヤニヤして見てられる」
「うん! ニヤニヤだよね。って人狼ってなに?」
「そっちは今度な」
「うん、わかった!」
ナディアは大きく頷いて、シルビアに向かっていった。
「次はシルヴィの番だね。今のうちに対策をたてておこっか」
「でも始まるまでにルシオ様が魔法で中を変えてしまうのよね。だったら対策の立てようがないと思うけど」
「そうでもないよ。あたしおもうんだけど、最初からずっと同じ方向に曲がってたら出られるんじゃないかな。ずっと右だけとか、ずっと左だけとか」
「そ、そうなのルシオ様」
「まあ、それは一つの攻略法だけど――」
「良いことを聞きましたわ」
ベロニカがまたしても迷路の中でニヤリと笑う。
「ずっと同じ方向ですわね。ならこのさきずっと右にいけば――」
「あっ」
小さく声を上げるシルビア。
二つあるドアのうち、宣言通り右のドアを開けたベロニカは、勢いよく池に突っ込んでしまった。
元のサイズに戻ったベロニカはびしょ濡れのままおれに詰め寄ってきた。
「ずっと同じ方向に行けばゴール出来るんじゃなかったんですの!?」
「いや、あれは出口が一つしかない時の攻略法で。こいつは壁際が全部出口のようなもんだろ。ほとんどが池行きになってるだけで」
「うぅ……」
迷路を見て、呻くベロニカ。
おれが言った事がすぐに理解できたけど、それでも腹がおさまらないって感じだ。
「もういいですわ! つぎ、シルビアあなたの番よ!」
「うん。じゃあ、お願いします、ルシオ様」
「ああ」
今度はシルビアに魔法をかけつつ、迷路も作り替えた。
迷路に足を踏み入れるシルビア。性格からか、ドアを一つ開けるのにもかなり慎重な感じだ。
慎重に慎重に、迷路を攻略して、進んでいく。
「ねえ、ルシオ。このままだと……」
「ああ、間違いなく時間切れになる」
「そういえば時間切れになったらどうなるの?」
ナディアとベロニカが同時におれを見た。
「説明するより見た方が早いな……ほら出たぞ」
「ああ、こうなりますのね」
「わわ、シルヴィ逃げて逃げて」
「え、え、えええええ?」
小さくなったシルビアが慌てた。
「あれは……ひどいですわね。あれに追いつかれるのなら素直に水に落ちた方がましですわ」
ベロニカが感想を漏らす。
うん、そのために設定したものだからな。
巨大迷路のなかから小さなバケツのようなものが出てきた。
バケツの中は黒い墨汁がなみなみと入ってて、自走して迷路を進んでる。
タイムアップした攻略者を探して墨汁をぶっかけるというものだ。
「シルヴィ逃げてー」
「見てる分には楽しいですわね」
「ちなみに」
おれが言った直後、二つ目のバケツが現われた。
「時間経過で増量する」
「ああ! だめシルヴィ、そっちに行ったら挟み撃ち――」
ナディアが警告する間もなく、シルビアはバケツにつかまって、墨汁をぶっかけられてしまった。
元に戻ったシルビアはちょっと泣き顔だ。
「うぅ、ひどいですルシオ様……」
「悪い悪い、お詫びに拭いてやるよ」
おれはタオルを受け取って、魔法を使いつつシルビアを綺麗にした。
「よし、綺麗になった」
最後におでこにちゅ、ってキスをしてやる。
「……」
「次はどっち?」
じっとおれを見つめるベロニカと、逆にわくわくした顔で迷宮を見つめてるナディア。
「あたくしが行きますわ」
そして、ベロニカ二回目の挑戦。
「あれ、動かない」
「どうしたの? うごかないとタイムアップになっちゃうよ」
不思議がるシルビアとナディア。
ベロニカは入り口から入った最初の部屋に止まったまま動かなかった。
やがてバケツが出てきて、彼女は墨汁まみれにされる。
「なんで動かなかったの?」
戻ってきたベロニカを不思議がって聞くナディアは。
ベロニカは答えず、一直線におれに向かってきた。
「あたくしを拭いてくださいな」
「ああ」
シルビアの時と同じようにタオルと魔法の併用で拭いてやった。
「うん、これでいい」
「それだけですの?」
ベロニカは不満そうにおれをジト目でみた。
「もっとこう、綺麗にしたあとに何かありますでしょう」
「綺麗にした後?」
なんだろうと首をかしげる。
「うーん、綺麗になったな。って位?」
「え、い、今なんと?」
「え? ベロニカが綺麗になった?」
それがどうしたんだろう、って思ったけど。
「綺麗に……」
ベロニカはぽっ、って顔を赤くしてうつむいてしまった。
なんだ?
「あっ、そういうことなんだ」
「なになに、どういう事?」
「えっと、私の時は――で、ベロニカさんの時は――だったから」
シルビアがナディアに耳打ちする。
こっちにはよく聞こえなかったが、されたナディアは徐々に目を見開いていく。
「なるほど! ルシオくん、次あたし!」
「あ、ああ」
テンション急上昇してMAXになったナディアを小さくして迷路に送り込む。
「こっちかな、こっちかな。まだかな、早くでてこーい」
どういうわけか、ナディアはまともにダンジョンを攻略する事なく、開けたドア、安全な部屋を行き来した。
「ねえ、あれ」
「はい。ああした方が早く遭遇します」
「なるほど。まあ仕方ないですわね」
シルビアとベロニカがなんか訳知り顔で頷きあった。
やがてタイムアップして、ナディアは、出現したバケツに自分から突っ込んでいった。
そして戻ってきたナディアは。
「ルシオくん! 拭いて拭いて、おでこにキスして綺麗だっていって」
「……」
それでわかった。
シルビアとベロニカを見る。
シルビアは恥ずかしそうにうつむいてしまい、ベロニカはしれっとすっとぼけた。
おれに何かして欲しくて、わざと突っ込んでったのか。
……おいおい、ゲームにならないだろうがそれ。
ゲームにならないが。
「ルシオくん、早く!」
満面の笑顔でわくわくしながら急かしてくるナディアの姿をみて、まあいっか、って思ってしまうのだった。
80年代にこういう番組ありましたよね。
クリアそっちのけでルシオにおねだりする幼女妻達が可愛くて書いてて悶えました。
そして公式サイトにも情報が出ました。8月にマンガ嫁二巻発売します。
今回もわたあめさんの超絶作品にあったイラスト満載ですので、是非よろしくお願いします。
 




