農業革命
「ようこそ、わらわの領地、ラルタルへ」
ラルタルという場所にある、領主の館。
館に入ったおれを出迎えたのはお姫様ドレス姿のルビーだった。
なんというか……相変わらずのラスボス風ドレスだ、しかも前回と微妙に違うぞ。
前回のが普通のラスボスで、今回は一回倒された第二段階って感じでパワーアップしてる。
そのうち玉座を自分の姿にしてその上に座るんじゃないだろうか。
「久しぶりだな」
「遠路はるばるご苦労だった……いきなり呼びつけてすまぬ」
ルビーは神妙な顔で言った。
そう、ついさっき、王都ラ・リネアのおれの屋敷に彼女の使いと名乗る人がやってきた。
おれを呼んでる、ってことでここまでひとっ飛びしてきた。
「気にしなくていい、大した距離じゃなかった」
「早馬でも丸一日は掛かる距離だが」
「飛べば一瞬だ。それよりもおれを呼んだのは?」
「うむ、実際の様子をみて話そう、その方が話が――」
ルビーは身を翻して歩き出した。
――ピターン!
ドレスを踏んづけてしまって、盛大にすっころんで顔から床に突っ込んでいった。
ぱっと顔をあげて、涙目でおれを睨む。
「――♪」
わざとらしく目をそらして口笛を吹いた。
ルビーは立ち上がって、咳払いして、取り澄ます。
「――その方が話が早い」
「わかった」
こっそり魔法で裾を踏まないようにしてやりながら、彼女のあとについて屋敷をでた。
☆
「ここラルタルは我が国の穀倉地帯として重要な地だったのだが、ここ数年収穫高がめっきりへってのう」
「減った、なんでだ」
「理由はわからぬ。新しく作物を植えようとすると半数以上が死滅し育たぬのだ」
「へえ」
ルビーと一緒に馬車にのって、農園の視察に回った。
彼女が言ったとおり植えても作物がほとんど定着しないためか、畑はすかすかで、十円ハゲがあっちこっちにあるような感じになってる。
「法則性もないみたいだな」
畑を見て、感想を言った。
植えた物が育たないで枯れて地面が見えてる所はランダムで、法則性とか無い様にみえる。
「うむ。まったく原因不明で困っておるのじゃ」
「あっちの果樹は普通だな」
指でさしてルビーに聞く。
遠くに果物がなってる果樹園みたいなのがあって、そっちは割と普通だ。
「一度定着した作物は問題なく育つ。不思議であろう」
「定着するまでが大変って事か。それなら数を植えればいいんじゃ?」
「育つかどうかわからぬし、ある程度育ってから枯れることもある。数を植えればいいのはまさしくそうじゃが、土地の半分近くを無駄にしてしまうことに変わりはない」
「なるほど、それもそうか」
頷き、ルビーを見る。
「で、おれに何とかして欲しいと」
「うむ。陛下肝いりの千呪公じゃ。そなたならきっと何とかしてくれるであろうとおもってな」
「買いかぶるなあ。まあ、もう解決策見つかったけど」
「本当か!」
ルビーは目を輝かせた。
☆
果樹園の所にやってきた。
その中で一番健康そうな木の前にたって、ルビーにいった。
「もともとここで育ててる主力の作物はなんだ?」
「これじゃ。アロースという」
ルビーはすっと種を差し出した。
それはほとんど毎日食べてる、米みたいなやつだ。
「なるほどこれか」
「春に植えて、秋に収穫する物じゃ。育つまでが長く、異常で枯れるまでの猶予期間もながくて困っておる」
「本当にイネと同じなんだな」
「これをどうするのじゃ?」
「みてろ……『シンザシス』」
魔法を唱える。
光が種と果樹を包み込んで、二つを融合させる。
光が収まったあと、現われたのは一回り小さい木だった。
成人男性と同じ高さの比較的小さい木、木にたくさんの実がついている。
「これは……アロースか」
「そう」
「アロースが木にじゃと?」
「多分植えっぱなしで、年に複数回は収穫出来ると思う。これで問題は解決するだろ?」
「……」
ポカーンと口を開けるルビー。
「どうした」
「どうしたもこうしたも……」
信じられない表情でおれを見つめる。
「問題は解決ところか、これは大変な進化であるぞ」
「そう?」
そうかもしれないけど。
「どっちみち問題が解決するのは間違いないだろ?」
「う、うむ。その通りじゃ。そなたの申す通りだな」
ルビーは気を取り直して、まっすぐおれを見つめて、いった。
「礼をいうぞ千呪公」
ルビーにメチャクチャ感謝された――のはいいが。
このアロースの木、後に国王の鶴の一声で。
「品種名はルシオだ」
と、ササニシキみたいな感じでつけられてしまったのだった。




