ファッションリーダー
朝の玄関、魔導図書館に行こうとしたところ、ベロニカが屋敷の奥からやってきた。
「まってルシオ、一緒に行きますわ」
「ああ」
頷き、ベロニカと一緒に外に出る。
屋敷を出て、朝の王都を一緒に歩く。
様々な人が行き交い、今日もラ・リネアは活気に満ちあふれている。
ちらっと横を歩くベロニカを見た。
彼女はフリルがついた黒いワンピースドレスに白いタイツ、それに首元には赤いリボンがつけられている。
シルビアとナディアに比べておめかしが得意な彼女は、今日も彼女らしく上品で、かわいいと綺麗がハイレベルで共存してる格好をしてる。
「その格好も似合ってるな」
「あ、あら。そうですの?」
「ああ、よく似合ってる」
「ま、まああたくしにかかればこれくらいのおしゃれ朝飯前ですわ」
そう話すベロニカ。褒められたのはまんざらでもないようだ。
「最初にあった時の格好も色っぽくてよかったけどな」
「あれは流行でしたのよ」
「流行?」
「そう。脇腹と背中を黒いレースで、見えるかどうかのラインで隠すのが流行ですの」
「ああいうのをもう着ないのか?」
「あれはレディのたしなみ、この姿でする様なものではありませんわ」
「ああ、なるほど」
いわれてみたらそうだ、レースで脇腹と背中を透かせる格好とか、子供にはやる訳がないもんな。
「あなた、流行に疎いんですのね」
「悪かったな」
苦笑いする、たしかにそうだ。
流行には疎い、というかわからない。
転生前からそうだ――だが。
「流行には疎いけど、流行を作り出すことなら出来るぞ」
「流行を作り出す?」
「ああ、見てろ――『メイクトレンド』」
魔法を唱えた、目の前に光の塊が出来た。
その塊にイメージを込めて、解き放つ。
やがて、光の玉が小さな粒子になって町中に飛び散っていった。
「これでよし」
「どうなりますの?」
「見てな」
しばらく歩いてると、ある建物のドアが開いて、中から一人の少女が出てきた。
少女はおれ達と同じくらいの歳だが、ドレスを着ている。
そのドレスは露出が大きく、脇腹は黒いレースで透かして見えるって格好だ。
はじめてあったベロニカ、大人版の彼女と同じ格好だ。
「あら、偶然ね」
「偶然じゃないぞ」
「え?」
「ほら」
離れた所を指さす、そこに違う少女がいて、今度は背中をレースで透かす格好をしてた。
朝の町中は徐々に人が増えていった。大人や男の子は特に変わらないが、小さい女の子は全員、ベロニカっぽい格好をしてた。
はなからお嬢様っぽい子も、男の子と遊ぶ元気な子も。
「おはよう、今日もかわいいわねマリーちゃん」
「えへへ、そうでしょう。今一番流行ってる格好なんだ」
「そうなんだ。はい、これおまけね」
果てには買い物袋を持っておつかいをする子も、みんな似たような格好をしてた。
「こんな感じで、流行を作る魔法だ」
「す、すごいわね。相変わらずあなたの魔法は」
「そうか?」
「他の流行にも出来ますの?」
「ああ」
もう一度魔法を使う。光の玉がでて、それをベロニカに見せた。
「これにイメージすればいい。やってみるか?」
「いいんですの?」
「ああ。後で魔法で戻すから、気にしなくてやっていいぞ」
「でしたら遠慮なく」
ベロニカが念じて、光の玉が飛び散った。
しばらくして変化が生まれる。
全員が頭の上に鳥の巣を乗せるようになった。
男も女も、大人も子供も。
全員、鳥の巣――鳥が入ってる――を乗せていた。
「すごいですわね。こんなのも本当に流行してしまうだなんて」
「お前の発想の方がすごいよ」
頭に鳥の巣を乗せるとかどういう発想だ。ペガサス盛りも真っ青な発想だぞ。
「しかし、なんというか」
おれはまわりを見回した。
「流行するといっても、色々バリエーションがあるんだなあ。乗せてる鳥も結構みんな違うし、巣からしていろんな色があるな」
「それがおしゃれですわ」
「へえ、そういうもんか」
「これはあなたの魔法ですが、通常ならここから色々変化が生まれて、更に新しい流行が生まれていくのですわ。自然に、緩やかに」
「なるほど」
「それを生み出せるのがファッションリーダーになりますのよ」
「おれには無理な芸当だな」
そういって、魔法を唱える。
流石に目の前の光景はおれからすれば違和感あるし、一通りやったから、流行を元に戻そうとした。
「ルシオじゃないか」
「この声は――イサーク」
立ち止まり、話しかけられた背後に振り向く。
そこにイサークがいた。
イサークは頭にクジャクを乗せていた。
いつもの派手な貴族っぽい服に、頭はクジャクとその巣を乗せてる。
ビックリするくらい自然だった、いつも通りのイサークだった。
「どうしたルシオ、兄の美貌に見とれたか?」
「あ、うん」
「ルシオ……」
ベロニカと視線を交換する。
行き交う通行人は全員イサークに尊敬とあこがれの眼差しを向けている。
流行は、戻さない方が彼にとって幸せかもしれない、そんな風に思ってしまったのだった。
珍しくイサークが報われた(?)、という話。