敵と認定する
はじめて金を稼いでから一週間がたった。
三つの街にそれぞれ一回行って、水を浄化して、その後かき氷を売った。
どっちもほぼ元手がいらない商売で、一週間で10万セタ位稼いだ。
これがどれくらいの金額なのかって言うと。20万セタで四人家族が一ヶ月を節約なしで過ごせる位だ。
そこそこいい収入だけど、すげえ! って程じゃない。
でも楽に稼げるし、これでいいと思った。
その仕事に行かない時は、屋敷でのんびりマンガ魔導書を読んだ。
今読んでるのはレイジングミストという名前の魔法の魔導書だ。
かなりの広域攻撃魔法で、使える機会なんてなさそうだけど、内容がやっぱり結構シュールで面白いから読んでる。
おれが読んでる横で、シルビアがかき氷を持って、一口ずつ食べさせてくれてる。
特に意味はないけど、シルビアがどうしてもやりたいっていうから、やらせてる。
「ばっかもーん!」
屋敷に響き渡る程の大声が聞こえた。
おじいさんの怒鳴り声だ。いきなりどうしたんだ?
気になった俺はシルビアに目配せして、魔導書をおいて、二人で一緒に何事か見に行った。
中庭におじいさんと兄貴のイサークがいた。
イサークは小さく縮こまってて、おじいさんが説教をしてる。
「まえからあれほど言ってるじゃろ! 甘い話には裏があると。だというのにこりもせず大金を注いで失敗をして」
どうやら商売の失敗で説教してるみたいだ。
16歳になってるイサークは両親の仕事を手伝ってて、それで失敗したみたいだ。
イサークは黙ってしかられていたが、思い切って反論した。
「し、しかしお爺様。ブルノが絶対に儲かるといったのです。今投資すれば倍になって帰ってくるからって」
「いやそれはダメだろ」
思わず声に出てしまった。あまりの話に思わず突っ込んでしまった。
イサークに睨まれた。
……いやそこで睨まれても。ブルノってのが何者かは知らないけど、絶対に儲かるから、今投資すれば倍になって戻るなんて詐欺の中でも時代遅れの詐欺だぞ。
そんなのに引っかかったのかイサークよ。
「だから前から言ってるじゃろ! 甘い話など存在せん、と。絶対に儲かるのなら、なぜそのブルノという男が自分でやらない」
うん、まさにその通り。
「ブルノはおれに言いました、お前は友達だから、特別におしえてやるって」
それで信じたのかよ、おいおい。
その反論で、イサークはますますおじいさんにしかられた。
こっぴどくしかられて、反省しろと言われて、解放された。
おじいさんがさった後、イサークに思いっきり睨まれた。
「なんださっきのは! それになんだその目は!」
……正直哀れんでる目だが、いわないことにした。
あんな詐欺みたいなのに引っかかったあげく、反省をまったくしてないのがなあ……。
「その目をやめろ! 子供のくせに、働いた事もないくせに!」
「る、ルシオ様は――」
「お前は黙ってろ! 買われてきた女がしゃしゃり出るな」
怒鳴られて、シルビアは涙目になった。
ぎゅっと自分の服の裾を掴む。
涙がこぼれて……指輪に落ちた。
「……」
カチーン、となった。おれはイサークに聞いた。
「あれれれー、兄さんって稼いでるんだっけ」
「はあ? なんだそれは」
「ぼく、兄さんが稼いだって記憶がないんだ。いつも商売で損をして怒られてばかり。そういうのって、ちゃんと働いてるっていえるのかなあ」
「子供が生意気言うな、儲けるってのはそんなに簡単な事じゃないんだ!」
あるって言えばいいのに逆ギレって――まさか儲けたことないのかよ。
「ぼくは儲けたよー、一週間で、10万セタ」
「は?」
「これが証拠だよ」
この一週間で稼いだ金を見せた。
「な、何をやったんだお前は」
「魔法で水を綺麗にして、それを売ったんだ」
「――っ!」
兄貴は言葉を失った。
やがて元に戻って、虚勢を張った。
「ふ、ふん。その程度、子供のおままごとには丁度いい」
「うん、おままごとかもしれないね。兄さんはおままごと以下のことしかできないんだよね」
子供モードでわざとらしくいって、ぎろっと兄貴を睨んで、トドメをさすようにいった。
「結婚してない子供だし、おままごとでも大丈夫だよね」
「くっ」
兄貴はまたも言葉を失った。そして言い返す事もできず、そのまま逃げる様に立ち去った。
おれは追いかけようとした、もっともっと言ってやりたかった。
人の嫁をコケにして、この程度で済ますわけがない。
しかし追いかけられなかった。服をつかまれた。シルビアだ。
シルビアはおれの服を摘まんで、涙目のまま上目遣いで見てきた。
「ありがとうございます、ルシオ様」
涙目で感謝された。
シルビアの涙を拭いてやった。口調を普段のものに戻して言った。
「言っとくけど、シルビアは買われてきた女じゃないからな。生まれる前からおれのお嫁さんになる運命の人だから、買われたとかそういうのじゃないからな」
「はい……」
「……書庫にもどろっか」
もっと兄貴に言いたいことはあったけど、シルビアの顔を見てるとどうでも良くなった。
おれたちは書庫に戻って、魔導書の続きを読んで、かき氷を食べた。
夜はおててをつないで一緒に寝た。