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よっぱらい

「るっしおー」


 夜、魔導書(マンガ)を読んでると、ベロニカがいきなり部屋に入ってきて、絡んできた。


 顔が赤く、ろれつが回ってない。テンションが普段と違う。


「ベロニカ?」


「うふふ……うふふふふ」


「どうしたんだ?」


「るぅしおぉ」


 顔を近づけて、トロンとした目で見つめてくる。


「おまえ、まさか――」


「顔にるしおがついてまふわー」


「言ってる意味がわからない」


「あはははは、るしおにるしおがついてる、おっかしー」


 おかしいのはお前の様子だ。


「ええい、たべちゃえっ」


 いきなり舐めてきた。べろっとおれの頬を舐めた。


 首にひっついてきて、べろべろなめる。


 そんなベロニカを慌てて引きはがす。


「ちょっとちょっとベロニカ?」


「うっふふふふー」


 今度は体が前後左右に揺れだした、まるでだるまの様だ。


 もしかしなくても酔ってるな、これ。


 八歳の子供がよっぱらう姿はちょっと珍しい。ベロニカの中身はとっくに成人した大人の女だが。


「なんかあついれす」


 手でばたばたあおいだ。


「窓を開けるか? それとも魔法がいいのか?」


「うーん」


 頬に指をあてて、考える。


「るしおしかいないれふわ」


 部屋の中はおれとシルビアの二人っきりだ。


「るしおだけだから――ぬいちゃえー」


 ベロニカはいきなり服をぬぎだした。


 パパパ、と服を脱いでキャミソール姿になった。


「ちょっとちょっと」


 いきなりの事なので慌ててベロニカを止めた。


「ろーしてとめるんれふの?」


「はいはい、酔っ払いは少し黙ってて」


 手を押さえつつ脱ぎ捨てた服を拾い上げる。これ、どうやって着せたらいいんだ?


 面倒臭いから魔法使うか。


「ルシオくん」


 名前を呼ばれた。


 ナディアがこっそりドアの影からおれをみてる。


「どうしたナディア」


「ごめんなさいルシオくん」


 ナディアが入ってきて、おれの前にたった。


 顔が赤い、酒の匂いがする。


「お前も飲んでたのか?」


「うん。あのね、ベロちゃんが酒は良いものだって。一人前の大人なら酒くらいのめるようになるべきだっていったんだ」


 みんな子供じゃないか。


 いやベロニカはちょっと違うか。


「あたしルシオくんのお嫁さんだし、それで一緒になってちょっと飲んだんだけど、ベロちゃんが急にああなって」


「なるほど」


 頷き、ベロニカをみる。


「よっれないれふ!」


「はいはい、酔っ払いは黙っててな」


 ベロニカはもうまるっきり酔っ払いだ。


「で、どれくらい飲んだんだ?」


「えっと、ベロちゃんはコップでこれくらい」


 親指と人差し指で摘まむような仕草で量をしめした。


 コップの満タンから一センチもない、舐めるように飲んだ程度だ。


 それでこうなのか。


「ルシオくん」


 おれの名を呼ぶナディア、珍しく不安そうな表情だ。


「どうした」


「お酒を飲むとこうなるの? あたし、ベロちゃんが飲み残したのを全部飲んじゃったんだけど……」


「コップの残りを全部か?」


「うん」


「へえ」


 こっちはこっちでちょっと面白い。


 ナディアは受け答えがしっかり出来てるし、顔が赤くなってるが酔っ払いって程じゃない。


「大丈夫だ。何かあってもおれがここにいるし、どうにでもしてやる」


「それもそっか」


 ナディアはほっとした、顔から不安が一気に消えた。


「うん、ルシオくんがいるんだもんね。じゃあ大丈夫だ」


「ああ」


「でもお酒って不思議な味だね。ふわふわしてあったかくて気持ちよくて」


「そういうもんだ」


「ルシオくんと手をつないで寝るのの半分くらい幸せ」


「斬新な比較対象だ」


「お風呂上がりにこう、ちょっと飲みたい感じ」


「天才だったか」


 ナディアには酒飲みの素質があるかも知れない。


「るっしおー」


 ナディアと話してる横から、ベロニカがひっついてきた。


 おれの後頭部にひっついた。


 いつもの肩車っぽい体勢だが、普段はしがみついてるだけなのに、酔っ払ってる彼女は前後に揺れ出した。


 まるで遊具の木馬にのってるかのような感じ。


 酔っ払いってこういうもんだが、それにしてもひどい。


 暴れるだけ暴れて、電池が切れたかのようにぐっすりと寝てしまった。


「ベロちゃんが別人だ。お酒を飲むとこうなるんだ」


「個人差もあるけどな。大抵は酔っ払うと普段とは違う姿になるんだ」


「あたしも?」


「しっかり酔えばな」


「なんかそれ面白い。もうちょっとのんでこよ」


「あー待て待て」


 部屋の外に飛び出そうとするナディアを引き留める。


「酒は飲み過ぎると体にわるいからやめとけ」


 おれの嫁で社会的には成人扱いだが、それでも体は子供だから良くない。


「えー、でもなんか楽しそうだよ?」


 ナディアはベロニカを見る、ものすごく羨ましそうだ。


「ふむ、ようはよっぱらったらどうなるのか知りたいんだろ?」


「うん!」


「わかった――『リバースソーバ』」


 瞬間の脳内検索をして、一番適してる魔法を使った。


 手のひらに数個、あめ玉のようなものが出てきた。


「それはなに?」


「一粒で一分間酔っ払える魔法の薬だ。アルコールじゃないから体に悪いとかはないし、一分間で溶ける様に出来てる」


「すごい、そんな便利なものがあるんだ」


「これでためしてみろ」


「うん!」


 ナディアはあめ玉を受け取って口に放り込む。


 ゴクン、と一気に飲み込んだ。


 そして、次の瞬間。


「るしおくーん」


 超ハイテンションになっておれにしがみついた。


「るしおくん、るしおくん、るっしおくーん」


 さっきまでと違って、一気に酔っ払い状態になった。


「るしおくん!」


「うん」


「だいすき!」


 ぎゅっとしがみつかれて、ほっぺにキスをされた。


「だいすき」


 またほっぺにキスをされた。


「だいだいだいーすき」


 ほっぺをめちゃくちゃキスされた。


 キス魔か、こいつ。


 キスの雨が降り注ぐこと、一分。


「だーいしゅ……き」


 魔法の効果が切れた。


 一瞬で我に返ったナディア。


 おれの顔と魔法のあめ玉を交互に見比べる。


 これは……酒飲みにありがちな醒めたら後悔するパターンかな。


「まあ気にするな、酔っ払いってのは――」


「面白い!」


「え?」


 予想外の反応だ。


「すごいよルシオくん、お酒ってこういうものなんだ」


「お酒っていうか、よっぱらいっていうか」


 おれの魔法だからな。


「そっかぁ……面白いなあ。そうだ、チョット待ってて」


 ナディアは部屋から飛び出してしまった。


 どうしたんだいったい。


 しばらくして、シルビアの手を引いて戻ってきた。


「どうしたのナディアちゃん。わたし、お部屋のお片付けが」


「いいからいいから、そういうのはアマさんに任せてさ、シルヴィはこれを食べて」


 ナディアは余った魔法薬を一粒シルビアにわたした。


「これ食べて」


「これは?」


「いいから」


 押し切られたシルビアは魔法薬を飲んだ。


 直後、顔が赤くなって、目がうるうるし出した。


「るしおさまぁ」


 いきなり抱きついてきた。ベロニカパターンか?


「ごめんらさいるしおさま、ごめんらさいるしおさま」


 いきなり泣き出す始末。


 ああ、泣き上戸なのか。


「うぇーん、いつもおねしょひてごめんらさい」


「おー、泣くんだ」


 ナディアが楽しそうにケラケラ笑った。


 泣きながらすがってくるシルビア。


 そして、一分。


 ナディアの時と同じように、ピタッととまるシルビア。


 ぎぎぎ、とぎこちない動きでおれから離れる。


 恨みがましい目でおれを見る。


「ひどいです、ルシオ様」


「おれのせいかな」


「ナディアちゃんもひどい」


「大丈夫! シルヴィかわいかったから!」


 親指を立てるナディア。


 何が大丈夫なんだか。


「そうだ、ルシオくんもそれ飲んでみてよ」


「え?」


「うん、ルシオ様のが見たいです」


「いやいや、待て待て」


 おれは冷や汗をかいた。


 『リバースソーバ』のあめ玉を見た。丁度もう一つ残ってる。


 このままじゃ飲まされてしまう、処分しなきゃ――。


「だーめ」


 寝たと思ったベロニカがいきなり起き出して、あめ玉をおれの口の中に入れてきた。 いきなりの事で、つい飲み込んでしまった。


 やばい――と思った時は時既に遅し。魔法の酔いが回った。


 目の前の三人を見る。


 かわいいかわいいおれの嫁達、大事な大事な幼女妻。


「シルビア、ナディア、ベロニカ」


 三人の手を取って、目をまっすぐ見て、いった。


「取りに行くぞ――世界を」


「ルシオ様かっこいい……」


「ルシオくん……」


「ふ、ふん、あたくしの夫なのだからこれくらい当然よ」


 三人はそれぞれ違う反応をした。


 目をきらきらさせたり、まんざらでもなかったりで、全員が好意的だった。


 が――一分後。


 おれは生まれてきたことを死ぬほど後悔するのだった。

本日マンガ嫁一巻発売です。

それを記念して、一巻収録分の「夢の中へ」(31話)にちなんだ話を書きました。

この話につけたイラストが個人的に一番お気に入りです。

よろしければ31話も読んで、書籍版も手に取ってみてください。

よろしくお願いいたします。

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