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魚と釣り竿

「さすが余の千呪公だ」


 王都、謁見の間。


 報告にやってきたら、国王がメチャクチャ大喜びした。


「余は信じておったぞ、余の千呪公ならきっと魔法のごとき手腕でゲルニカの国政を立て直してくれるだろうと」


「褒めすぎだよ王様。ぼくはただ金を掘ってきただけで他には何もしてないよ」


「うむ、その謙虚さもさすがである。さすが余の千呪公だ」


「公爵閣下。その……閣下が掘り当てた金塊は……」


「全部ゲルニカの国庫に納めてきたよ」


「全部ですか!」


「うん、全部」


「さすが余の千呪公。金を前に目をくらまさぬとは。その清廉さは史書に書き残すべきだ」


「……私腹を肥やしてくれた方がどんなに良かっただろうか……」


 大臣がくらくらした。


 気持ちはわかる。おれも後から気づいた。


 金塊百トン。


 百トンという数字は大した量に聞こえない。金だから高いだろうな、って思ってたけど、でも百トン程度だしなあ。って思ってた。


 それがよくよく考えてみたら、元いた世界の相場を思い出してみたら。


 どんぶり勘定でも実は5兆円くらいになることに気づいた。


 百トンの金というのはそれくらいの量だ。


 この世界の相場はわからないけど、でもとんでもない金額なのは間違いない。


 大臣がくらくらするのもわかる。


 ていうか、マジごめん。


「公爵閣下、今からでもなんとかならないだろうか。今回の件公爵閣下が最功労者だし、いくら何でも取り分が少なすぎるかと」


 大臣は食い下がってきた。


「よいではないか大臣よ」


 国王がたしなめるようにいった。


「余の千呪公はこの一件で名前が轟いたのだ。そなたの進言通りな。それでよいではないか」


「サヨウデゴザイマスネ」


 うわあ、めっちゃ棒読み。


 この人、そのうち胃に穴が開くんじゃないだろうか。


 大変な王の下につくと大変なことになるんだなあ。


 いや、今回はおれのせいでもあるけど。


 大臣と目が合った、同情する視線を向けるとますます切ない顔をされた。


 などと、大臣とわかりあっていると。


「大臣よ」


「は」


「そなたの危惧はわかっておる」


「え?」


「余はそこまでもうろくしているように見えるか? 百トンの金塊、それがゲルニカに渡ったらどうなるのかくらい、余にも想像がつくわ」


「な、ならば」


「それを踏まえた上で問題ないと言っておるのだ。何しろ我が国にはほれ」


 国王がおれをみた。ニコニコ顔のえびす顔だ。


「余の千呪公がおる」


「……おお」


 大臣が手をポンと叩いた。


 なるほど、って顔だ。


「たしかに、あれをなさったのは公爵閣下、そして公爵閣下は我が国の重鎮」


「うむ、その通りじゃ。渡った金塊はそれっきりの、いわば死んだ金。しかしここにいるのは生きている千呪公(、、、)だ」


「たしかに、なんの問題もありはしませんな」


 ……。


 まあ、言いたいことはわかる。


 釣った魚を大量にわたしたとしても、釣り竿さえ手元にあれば大丈夫って理論だろ。


 それはわかる。


 驚く、まさか国王がそこまでかんがえてるとは。


 てっきりいつも通り、何も考えないでおれを持ち上げてるだけだと思ってた。


 正直すまん。


「それでよいな、大臣よ」


「はっ」


 気のせいか、大臣のおれを見る目も変わった。


「公爵閣下」


「なに?」


「これからもよろしくお願いいたします」


 何というか、国王とまるっきり同じ目――千呪公すげえ、って目になったのだった。

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