鉱海夫ルシオ
「ぶぶー、そんなことはどうでもいいぶ。まえにもいったけど、おれは忙しいからそっちが適当にやってればいいぶ」
謁見の間、ぶた――もといゲルニカ王に会いに来た。
この国にやってきた目的、それでやる事を見つけたから、その許可を取りに来た。
ちなみにベロニカは隣にいるけど、まったく気づかれてない。
「本当にいいんですか?」
おれは念押しで聞いてみた。
ゲルニカ王は相変わらず砂糖と手づかみで食べてて、口のまわりにべとべとそれがくっついてる。
「くどいぶ! 勝手にやるといいぶ」
そう言って謁見の間から去っていった。
なんというか、フリーダムだな。
隣でベロニカがため息を吐いた。
「相変わらずですわね」
「昔からそうだったのか?」
「ええ、子供の頃から。あの趣味は割と有名で、国家首脳の間では割と有名な話でしたわ」
「なるほど」
だからこそ王にさせられたのか?
どう見ても、ベロニカの方が王にふさわしい。
実際に女王として何をやってきたのかはしらない、でもあれ以下はあり得ない。
実際の能力も――高いとおれは思ってる。
初対面でイサークのダメさを見抜いてたしな。
用事が済んだから、おれとベロニカは謁見の間を出た。
廊下を歩く。たまに兵士やら女官やらとすれ違って、その度にちょっとドキドキする。
「どうしましたの?」
「いや、ベロニカの正体がばれたのかなって思って」
「それはありませんわ」
にこりと微笑んで、ベロニカは言い切った。
「気づいたらこの程度の騒ぎではすみませんもの」
「そうなのか?」
「ええ、だってあたくし」
にやりと笑う。
「王宮に出入りしたら死刑ですもの」
「えええええ」
驚き、思わず立ち止まった。
「なんで?」
「退位した時の条件でそうなりましたわ」
「そういう条件をつけられたのか。だったらまずいんじゃないのか? ここにいるのは」
辺りをきょろきょろする、急にドキドキしてきた。
ベロニカがあまりにも普通にしてるもんで、そんな事になってるとは予想もしなかった。
「あら、どうしてですの?」
「いやだって――」
「あたくしの夫はこんなに頼もしい人ですのに?」
笑顔で言われた。
卑怯だ、その言い方は卑怯だ。
そんな風に言われたら――嬉しくなってしまうじゃないか。
「ダメですの?」
「……そんなことはない」
おれは首を振った。
信頼されてる、だったらこたえなきゃ。
「何があっても傷一つつけさせない。絶対に」
「……」
ベロニカは恥じらってうつむいた。
「卑怯ですわ」
「え?」
「そんな……予想以上の言葉を返してくるなんて」
「予想以上?」
「『絶対に守る』と予想してましたのに……」
「守れても怪我とかさせたら困るからな。傷一つつけさせない、絶対に」
もう一度宣言するようにいう。
「……」
ますます恥じらってしまうベロニカ。
でも顔は嬉しそうだ。
ふと、すぐそばにいる兵士と目が合った。
血走った目で、今にも血の涙を流しそうな表情。
リア充爆発しろ、今すぐもげろ。
そんな祝福の言葉が聞こえてくるかのようだ。
「ね、ねえルシオ」
「なんだ」
「手を……つないでもいいかしら。ほら、二人がいつもしてるような」
お手々とお手々をつないでの、あれか。
おれは何も言わず、手をつないだ。
それでベロニカはますます嬉しそうになった。
彼女と手をつないだまま外に出た。
☆
ベロニカと一緒に海にやってきた。
前に来たのと同じ場所で、同じ魔法をかけた。
「『アダプテーション』。さあ、行こうか」
「うん」
そして、お手々とお手々とつないで、散歩気分で海にはいる。
「本当にこんなところにあるのかしら」
「ある。というかおれは見た」
「見間違いってことはないのかしら。だって、ねえ……」
「その時はベロニカとのただの散歩になるだけだ。何も損はない」
「そうね」
ベロニカは納得した。
おれたちは歩く、のんびりのんびりと、海底を散歩していった。
海藻が漂ってる。
魚が泳ぎ回ってる。
無粋なサメは魔法で召喚した馬で蹴っ飛ばす。
色々あって、それでも散歩を続ける。
「さて、この辺のはずだが」
「手分けして探したほうがいいかしら」
「いいのか?」
ベロニカはにこりと笑った、普通に手を離した。
ちょっと驚きだ。てっきり手を離すのを渋られると思ってたのに。
それがにこりと笑って――自ら手を離した。
……いい女だ。
おれ達はまわりを探した。
目当てのものをしばらく探して回った。
「ルシオ!」
離れたところからベロニカがおれを呼んだ。
駆け寄ると、ベロニカは拾った石をおれに見せた。
「もしかしてこれ?」
「そう、これだ」
「これが……」
「そう、金の鉱石だ」
ベロニカが見せてくれたのは金。
鉱物としての金鉱石だ。
「まさか本当に海底にあるなんて。誰かが投げ込んだのかしら」
「違う、ここにあるものなんだ」
「海底ですのに?」
「海底に結構資源が寝てるんだ。ガスとかはもちろん、意外と鉱石類もな」
「そうだったの……」
「ベロニカ、ちょっと離れててくれるか」
「ええ」
ベロニカは言われた通り離れた。おれが何かをすると一瞬でわかって、距離をとって待避した。
おれは手をかざし、魔法を使う。
「『ゴールデンピッケル』」
でっかい金色のつるはしを召喚して、海底にたたきつけた。
舞い上がった土でエメラルドグリーンの海底が一気に混濁する。
『アダプテーション』の効果があるから大丈夫だが、一応ベロニカに聞いた。
「ベロニカ、大丈夫か?」
「ええ、なにも見えないけれど」
声が平気そうだ。
そのまましばらく待った、やがて海が落ち着いてまたエメラルドグリーンの綺麗な海に戻っていく。
いつ戻って来たのか、ベロニカがそばにいた。
「わあ……」
土が剥がれて、そこに鉱床が剥き出しになった。
「これ……全部金の鉱石なの?」
「見た感じそうだな。それに……」
辺りを見回す。
「この調子ならまだまだありそうだ。それに金だけじゃない、銀やら銅やらもありそうな気配だ」
「それらも?」
「更に……」
「更に?」
「手がつけられてない分、地上の鉱山よりも量は多そうだ」
「……世界ではじめて手をつけるからですわね。まだ誰にも手をつけられたないまっさらなところ」
「そういうことだ」
「ルシオじゃなかったらできなかった事ね」
それはわからない。『アダプテーション』の魔法は昔からあった。
おれは単に、昔テレビで「海底はメタンハイドレートだけじゃなくて鉱物もあるよ」ってみたから、ここに目をつけただけだ。
よく考えたら海底だって「地面」なんだから、その下に鉱物が埋まってるのは当たり前のことで。
単にずっと海底にあって掘り起こすのが難しいだけだ。
『アダプテーション』の魔導書がよめて、かつその事に気づく人間だったら同じ事ができる。
まあ、今の所おれがこの世界で初めてっぽいけど。
「とりあえずお金になりそうな金からはじめるか?」
「採掘のための人間を集めますわ」
「いやそれはいい、魔法でなんとかなる心当たりがある」
採掘して、海上に運び出すのはできる。
「それよりも鉱石から金にする方をなんとかしてほしい」
そっちも心当たりがあるけど、効率が悪い。
「わかりました、任せてくださいまし」
「やれるの? ベロニカは実権を取られたんじゃないのか?」
「こちらも心当たりがありますわ。もちろん、ルシオの元に確実に戻ってこれる程度には安全な」
「そうか」
おれは安心した。
魔法を更に使って、金鉱石を掘り出していった。
☆
海底で発掘した金鉱石は瞬く間に金塊になった。
手つかずの鉱床にはものすごい量が隠されてて、金塊だけでも最終的に100トンになるという概算をだした。
その資金をどう使うのかは、おれにはわからない。
おれはただ「金塊100トン以上の財産」をゲルニカにもたらした。
それだけだ。
それだけのことだった。
百トンの金塊を稼いだルシオ。
水の浄化以来の真っ当な商売ですね。その気になればこれくらい稼げる子、っていうお話。