小遣い稼ぎ
結果から言うと、ディスティレーションはちゃんとお金になった。
近くのアイセン、カルチ、キブの三つの村に言った。
話をして、売り込みをして、洗濯とかにしか使えないって水源に魔法をかけて、実際に飲んで見せた。
それがすごく喜ばれた。一週間に一回浄化に行くという約束で金をもらった。
次に何が金になるのかを考えた。
最後の村、キブから屋敷に戻る帰り道で歩きながら、考える。
すっと横からシルビアが手を伸ばして、おれのおでこをハンカチを拭いてくれた。
また、汗が出てたみたいだ。
「暑いな」
「はい」
「シルビアは大丈夫なの?」
「わたしは大丈夫です」
そうは言うけど、シルビアも額に豆粒大の汗がにじんでる。
季節は夏に近い。そろそろ暑くなってきてる上に、二人で歩きっぱなしだ。
そりゃ汗も出る。そして気づいたら喉も渇いてる。
「冷たい飲み物がほしいよな。氷でキンキンに冷やしたジュースとか」
「氷は高級品だから」
「うん?」
足を止めた、シルビアを見た。
「どうしたんですか?」
「いまなんて? 氷は高級品?」
「はい」
「どういう事?」
「えっと、昔お父さんから聞いた話だけど。夏に氷が食べられるのは、地下のすごーく深いところを掘って、冬の氷を保管して、食べたい時に取り出すって方法しかないの。それができるのはすごいお金持ちか、王様とかだけだって。後は大きい街のこーきょーじぎょーだけだって」
公共事業か。
でもそっか、そういえば冷蔵庫とかないのか。
つまり……氷も金になるって事か。
おれは今まで覚えた魔法を一つずつ思い出して、使えそうなものがないか探した。
☆
屋敷に戻って、リビングに飲める水と包丁、そしてシロップを用意した。
「セルシウスゼロ」
まず魔法で水を凍らせた。水はすぐに氷になった。
その氷を包丁で削った。こっちは肉体労働だったから、ちょっと苦労した。
削り出した氷に、甘いシロップをかけてみた。
かき氷のできあがりだ。
「ほら、食べてみて」
「いいの?」
「ああ」
シルビアはかき氷を受け取って、一口すくって、口の中に入れた。
「あまい、冷たい。くぅ……」
最初はうれしがったけど、すぐに目が×みたいになった。
きーんときたな。
「大丈夫か」
「う、うん……ちょっと頭」
「かき氷を一気に食べるとそうなるんだよ」
笑って、シルビアからかき氷を受け取って、自分でも食べてみた。
美味しかった。シロップに色がついてないから面白さはなかったけど、味は問題なかった。
これは、金になる。
☆
メイドから台車を借りて、必要な道具一式を乗せて、アイセンの村にきた。
村の広場で道具を広げて、水を浄化して、凍らせて、かき氷にした。
一人の農作業者が通り掛かったので、呼び止めた。
「ねーねーおじさん、かき氷食べていかない?」
子供モードで、愛想を振りまいてみた。
「かき氷?」
「うん! こう、氷を削って、シロップをかけた食べ物なんだ」
「氷を!? それは美味しそうだ。……でも高いよね」
「200セタでいいですよ」
セタというのはこの世界の通貨の単位で、200は小さい茶碗いっぱいのスープ麺の値段くらいだ。
つまりかなりリーズナブルな値段設定だ。
「安い! その値段で氷を売っていいの?」
「魔法で作った氷だからね」
「キミが作ったの?」
「うん!」
「そっか、魔法で作ったのか。じゃあ一つもらおうかな」
男は200セタを出した。シルビアがそれを受け取って、おれがかき氷を作って渡した。
「あまい、それに冷たい。はあ……熱い日に冷たいものを食べるのってこんなに気持ち良かったんだ」
「だよねー。よかったらみんなにも紹介してよ。これからお水を綺麗にしに来る度にここで売ってるから」
「うん? ああキミが水を浄化してくれるっていうルシオくんか」
「うん! これからよろしくね」
「おう、よろしく」
男はおれの頭を撫でた。
「でもキミすごいね、その歳で商売してるのは」
おれはシルビアの手を取って、指輪を見せた。
「お嫁さんできたからね」
男は一瞬きょとんとして、それから大笑いした。
「そりゃそうだ、お嫁さんできたら稼がないといけないよな。男の子……いや男だもんな」
「うん!」
「よし、おじさんにまかせろ。キミのこの……かき氷だっけ? を村中に宣伝しとくよ」
「ありがとうおじちゃん」
「ありがとうございます!」
おれが礼を言って、シルビアも礼を言った。
これでもう少し、稼げそうだった。