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第三の嫁

 ベロニカは屋敷につくなり客室にこもってしまった。


 おれはリビングで一休みして、そこにナディアがやってきた。


「ベロちゃんなにかあったの? なんかすごい様子で部屋に駆け込んじゃったんだけど」


「ちょっと色々あってな」


「色々って?」


 ナディアは容赦なく問い詰めてくる。


「だからいろいろ」


 さすがにいえない。


 あんな形で指輪をわたして、妻だって宣言しちゃったなんて。


「うーん、普段なんでも話してくれるルシオくんが話せないって事は……」


 ナディアは考える。


 結構鋭いところのあるナディア。もしかして――。


「外でもおしっこもらさせた?」


「してないから!」


 その方がまだマシだよ!

「はあ……」


「ありゃりゃ、ルシオくんがため息をつくなんて珍しい」


 洗いざらいぶちまけてしまおうか、と思った。


 パン!

 ドアが開き、壁にたたきつけられた。


 シルビアが入ってきた。なんかものすごく怒ってる。


「シルヴィ?」


 驚くナディア。親友の彼女でさえビックリするくらいの形相だ。


 シルビアはつかつかとおれのところにやってきて、真っ正面に立った。


「ルシオ様ひどいです!」


「ひ、ひどい?」


「はい! ベロニカさんから全部聞きました」


「……あー、聞いたか」


 それで怒ってるのか。まあ、当然だな。


 おれはソファーの上で正座した、何となく。


 それを見て、ナディアが横で目を丸くさせていた。


「どうしてですかルシオ様!」


「なんというか……うん、ごめん」


「わたしに謝らないで下さい!」


 ごもっともだ。


「それよりもベロニカさんの所に今すぐ行ってください。ちゃんとルシオ様の手ではめてあげてください」


「ああそうする――うん?」


 なんかおかしい。いまシルビアはなんて言った?


 顔を上げて彼女を見る。


「えっと、シルビア?」


「なんですか!」


「いまなんて?」


「ですから! 今すぐベロニカさんのところに行って、ちゃんとルシオ様の手ではめてあげてください。そうじゃないとベロニカさんかわいそうです」


「えええええ」


 ナディアが驚きの声をあげた。


「それ本当なのルシオくん?」


「まあ、一応……」


「マジなの? 正気なの? あたまイカれちゃったの?」


 シルビアよりも遙かにストレートで、遠慮のない言葉でおれを罵倒した。


 怒られるのは覚悟してたが、どうにもずれてる気がする。


「あの……二人はなんでそんなに怒ってるんだ?」


 聞くと、二人は揃ってプンプンした。


 二人は同時におこった。


「「ちゃんとはめてあげないとだめでしょ!」」


「…………………………」


 思考が停止した。


 なにを言われたのかすぐにはわからなかった。


 つまり……渡したことを怒ってるんじゃなくて、渡し方にダメだしをされてるって事なのか?


「ひどいですルシオ様、そんなプロポーズのしかたってないですよ」


「そうだよ! 指輪だけ渡して自分ではめてとかはないよ! こういうのはちゃんとルシオくんがはめてあげないと」


「見損ないました!」


「こんなもの返してやる――って外れないじゃん!」


 ナディアは指輪をはずして投げつけようしたが、魔法の指輪で体と一体化してるから外れなかった。


 ありったけの言葉でおれを罵る二人、表情も珍しくマジ怒りモードだ。


「待て待て、とりあえず待ってくれ。二人はおれが別の女の子にプロポーズしてもいいのか?」


「え?」


「え?」


 二人はきょとんとなった。


 そこまでは考えてなかったのか。


 と、思いきや。


「なんでダメなのですか?」


「うん、なんでダメなの?」


「いやだって……プロポーズしたら……」


「だってふえるんですよ? ルシオ様のお嫁さんが」


「うん! もう一人増えたら絶対楽しくなるよね」


「わくわくするよね、四人になったら一緒に何をしよう」


「まず一緒に空を飛ぼうよ、ルシオくんを二人分呼び出してさ、みんなで一緒に空飛ぼ」


 シルビアとナディア、二人は和気藹々と遊びのプランを語り合った。


 現状を整理した。


 つまり、二人ともおれが嫁を増やすことにまったく異論はなくて、ベロニカにプロポーズした方法に怒ってるって事か。


 いやおれも別に本当に増やすんなら問題はないんだ。


 シルビアとナディアが言うように、三人家族から四人家族になってできることがどう増えるのか楽しみだし、ここ二三日、特にベロニカが子供になってからの一緒にいるときは楽しいし。


 だからベロニカが三人目の嫁なら嬉しいんだが。


「待ってくれ二人とも、そうじゃないんだ」


 おれははしゃぐ二人をとめた。


 ベロニカに指輪を渡すまでに至った流れを説明した。


 成り行きでそうなった事を強調した。


「そういうことだったんですね……」


「なんだ、ちぇ」


 二人して残念がった。


 話がわかればその気持ちもわかる。


 おれもなんだか残念になってきた。


 二人がベロニカを含めた遊びのプランを語ってる時の顔は本当に楽しそうで、こっちまで楽しくなったからだ。


「ごめんなさいルシオ様、わたしの早とちりでした」


「ごめんね、ルシオくん」


 二人は謝った。


「でもベロニカさんは混乱してますので、説明と誤解を解いた方が」


「そうする」


     ☆


 客間のドアをノックする。


「……はい」


 ちょっと遅れて返事が聞こえた。


 中に入る。ベロニカは隅っこで膝を抱えて体育座りしてた。


 部屋に入ってきたおれをジト目で睨んできた。


 さて、どう謝ったものか。


「えっと……」


「あたくしは妾なのですか?」


「はい?」


「あたくしは妾なのですかと聞いているのですわ!」


 パッと立ち上がって、ぷんぷん怒りながら聞いてきた。


「ごめん何の事かわからない。なんで妾なんて話になってるんだ?」


「シルビアから聞きましたわ。二人ともあなたに直接指輪をはめてもらいましたと」


「ああ、それは確かに」


「二人はあなたにはめてもらって、あたくしには指輪をポンと……二人よりも下の妾と言うではありませんか」


 ………………。


 その発想はなかった!

 ベロニカはずんずん近づいてくる。


 指輪をおれの胸に押しつける。


「あたくしは妾なんてまっぴらごめんですわ。妻以外なる気はございませんの」


「あ、ああ」


「だからこれは今度いただきますわ」


「……え?」


 こんど? コント? 近藤?


 ……まさか、今度か?


「今度って……どういう意味なんだ」


「決まってますわ、これをあなたからはめてもらえる様になるまで、妻として迎えてくれるようになるまで受け取らないと言うことですわ」


「……」


「もう一度言いますわ。妾なんてまっぴらごめんですわ。あの二人のような『妻』以外はあり得ませんわ」


「……ぷっ」


 思わず吹き出した、そして大笑いした。


 なんかもう、とてつもなく面白かった。


 そして、妙に嬉しかった。


「な、何がおかしいんですの?」


「いやおかしくはない、おかしくはないんだ」


「ならなんですの?」


 おれはベロニカから指輪を受け取って。


「ベロニカ」


 まっすぐ見つめた。


「結婚してくれるか?」


「……え?」


「三人目になるけど、した後はみんなで仲良くしてるのが条件だけど、それでもいいのなら」


 左手を取る。


「おれの嫁になってくれないか」


 きょとんと言葉を失った。


 遅れて意味を理解して、顔が真っ赤になった。


 戸惑い、でも拒絶はない。


 やがて彼女はおずおずと頷いた。


 耳の付け根まで真っ赤になって、上目遣いでおれをじっと見る。


 期待。


「まだだいぶ永い人生だ」


「……」


「楽しく、気ままにたのしもう」


「……はい」


 しっとり頷くベロニカ。


 指輪をはめてやった。


 魔法の指輪は、ベロニカの薬指と一つになった。

第三の嫁、やっぱり幼女。

ビジュアルとしてお見せできる日を祈ってます。

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