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海底デート

 街中のカフェテラス、おれはそこで一人お茶を飲んでいた。


 この国にやってきた目的、それは国力が低下してるこの国を盛り返すためだ。


 どうやれば一番いいのか、それを知るために、まずは国民の生活を知るために街にでて、観察をしてるのだが。


「全然わからない」


 ため息を漏らし、注文したホットティーを飲む。


 朝早くここに来て、昼過ぎまでずっと座って観察してるんだけど、何もわからない。


 どこがわからないとかそういう次元の話じゃない、何がわからないのかわからない、というレベルだ。


 そろそろあきらめようとした、その時。


「坊や、ここ良いかしら?」


 おれの前に一人の美女が座ってきた。


 かなりの美人で、妖艶、と言ってもいいくらいの色気を放ってる。


「いいですけど……他の席もあいてますよね」


 おれは警戒して、子供モードで返事した。


「さっきからずっとみてたけど、坊や、あなた午前中からずっとここにいたよねえ」


「うん、そうだよ」


「なにかを見てるの? それとも誰かと待ち合わせ?」


「どっちでもないよー。暇だからぼうっとしてるだけ」


 本当の事をいえないし、おれは適当にごまかすことにした。


「あらそうなの。だったらお姉さんと良いことをしない?」


「いいこと?」


「そう。い・い・こ・と」


 美女はシナを作って、ウインクを飛ばしながら言う。


 誘惑。言い方からして「そういうこと」なんだろうな。


 なんか身の危険を感じるし、何より――この人に悪い。


「ごめんなさい、ぼく、結婚してるんだ」


「え?」


「しかもお嫁さん二人なんだ」


「……嘘よね」


「本当。だからそういう誘いには乗れないんだ」


「ぼうや、お姉さんはからかうものじゃないのよ」


「『ピクチャーフォン』」


 論ずるよりも証拠、おれは魔法を使って二枚のパネルを出した。


 テレビ電話のような魔法。直後、パネルに二人が応答した。

『どうしたんですかルシオ様?』

『あれ? シルヴィもいる。何かあったのルシオくん』

 シルビアとナディアの間も繋がるようにしたから、三者通話になった。


「シルビア、ナディア。悪いけど左手をちょっと見せて」

『こうですか?』

『なになに、お土産を買ってくれるの?』

 二人の幼女妻は左手を見せた。


 薬指に結婚した瞬間体と一体化する魔法の指輪があった。


「ありがとう。あとでお土産買って帰る」


 おれはそう言って電話を切った。


 美女の方を向く。


 美女はあっけにとられてた。


「と言うわけなんだ。信じてもらえた?」


 いうと、美女は豹変した。


 おれのむかいの席にどかっと座り、足を投げ出した。


「けっ、つまんねえガキ。やな事の前に気分転換しようと思ったらますますやな気分になったよ」


 いきなりやさぐれだしたが、それはそれで色っぽい女の人だ。


「にしてもさ、その歳で妻帯者、しかも二人かよ」


「うん、だからぼくの事をナンパしない方がいいよ。この国だとそれは違法なんだよね」


「頼まれたってしねえよ。まったくガキのくせに色気つきやがって。お前みたいなのがいるからこっちにいい男が回ってこないんだよ」


 それは大分いいかがりのレベルだと思うな。


 そもそもおれは二人の嫁をもらってるんだ。おれみたいなのが増えたらむしろ回ると思う。


 思うが、言わなかった。


 下手に言っちゃうとかなり面倒臭い話になりそうだ。


「そこのお嬢さん」


「ん?」


「もしよければぼくと一緒にお茶をしないかな」


 美女の隣に男がやってきて、ナンパした。


 まあかなり綺麗な人だし、やさぐれててもそういう色気があるから、モテるのはあたりまえ――。


「ぼくの名前はイサーク。麗しきあなた、お名前を教えていただけないでしょう」


 ってイサークかよ!

 おれはそいつをみた。イサーク、おれの実の兄。


 いつも通り派手な貴族の服を更に派手に改造したやつを着てる。


 正直関わり合いになりたくない。


 あんな服でナンパなんて成功するのか、ってくらいの格好だ。


 関わり合いになりたくないけど……、仕方ない。


「……こんにちは、イサーク兄さん」


「げっ、ルシオ」


 おれに気づいたイサークはのけぞった。


 というか実の弟に「げっ」はないだろ「げっ」は。


「なに、あんたら兄弟?」


「実はそうなんだ」


「ふうん」


 イサークはおれを無視して、美女をさらに誘った。


「どこのどなたかは存じませんが、良いことを教えてあげますよ。こいつは外面はいいけど、こう見えて妻帯者持ちのつまらない子供です」


「……」


「こんなのよりぼくと一緒に楽しみませんか。大人同士で。いろいろとたのしい事をしってますよ」


「そうだねえ、子供と一緒にいてもつまらないもんねえ。ここは大人同士の楽しみとしゃれ込みたいね」


「でしょでしょ、だから」


「いこうか、ルシオ」


 美女はおれの手を取って立ち上がった。


「えっ、ぼく?」


「そう」


「な、なななな。なんでルシオなんだ?」


「いっただろ? あたしは子供には興味がないって」


 イサークが呆然となった。


 その間、美女はおれの手を引いて歩き出した。


 カフェテラスを離れ、すたすたと人混みのなかを歩く。


 大通りを二つ通ったところで、おれは美女に訴えた。


「お姉さん、もっとゆっくり」


 実は結構歩くのが速かった。


 おれはまだまだ子供だ。手足が短くて、大人の彼女の歩幅について行くのが大変だ。


「……」


「お姉さん」


「ベロニカ」


「え?」


「ベロニカ・アモールだよ」


 立ち止まって、おれをみる。何かを訴えかける様な目つき。


 どうやら名前で呼んでほしいらしかった。


「そっか。ごめんなさいベロニカさん。それとやっぱりごめんなさい、兄さんがご迷惑をかけて」


 おれは謝った。あんなんとはいえ、身内が迷惑を掛けたんだ、謝らないと。


 イサークのところにはあとでマミをけしかけとくか。


「いいさ。どこの家にもそういうどうしようもないのっているもんさ」


 なんか実感がこもってる。


 この人も兄か姉に苦労してるのかもな。


「それよりも、どこに行こうか?」


「え?」


「なんだい、その『えっ』ってのは」


「ううん、だってもう用事は済んだのよね。イサーク兄さんから逃げられたし」


「大人同士の時間はこれからだよ?」


「え? それは兄さんから逃げる方便なんじゃなかったの?」


「あの男は論外。体つきとは裏腹に子供過ぎる」


 それは同感だ。


「で、ルシオは見た目より遙かに大人さ。最初にみたときからそう思ってた、だから声を掛けたのさ」


「……」


 驚いた。


「想像より更に大人で、嫁までいたのはさすがに予想外だったけどねえ」


「そんなことないよ」


「それならそれでもいいさ。それよりもどこかに行こう」


「妻帯者にナンパはダメだよ」


「馬鹿男に迷惑を被った迷惑料の請求はしてもいいだろ?」


「……それもそうだね」


 それを言われると返す言葉もない。


 さて、何をしようか。


 この街はよく知らないんだよな。


     ☆


 少し離れたところにある海にやってきた。


 ゲルニカの首都・ルモは海から近い。


 飛んできたらすぐだった。


 着地したところから見渡せる長い海岸線。


 エメラルドグリーンの、元の世界に比べれば数十倍は綺麗な海だ。


「海か」


 ベロニカは平然としていた。


 ルモの近くにある海だから、特に感動はないみたいだ。


「こんなところに連れてきてどうするんだい?」


「ちょっと待って、今準備するよ……『アダプテーション』」


 ベロニカと自分に魔法を掛けた。


「はい、これでおしまい」


「今のは魔法かい?」


「うん」


「驚いたね。その歳でもう魔法を使えるのかい」


 ベロニカは笑顔で言った。


 ますます気に入られたようだ。


 一万近くあるなんて……言わないでおこう。


「さ、行こう」


「行こうって、どこに」


「海の底!」


 ベロニカの手を引いて走り出した。


 さっきとは真逆のパターン。


 思いっきり引っ張られて、ベロニカはバランスを崩しそうになりそうだった。


「ちょ、ちょっと待ちな、このままじゃ海に入っちゃ――入っちゃってるよ」


「いいからいいから」


 構わずベロニカを引っ張って、パシャパシャ水をかき分けながら海の中に入る。


 足首まで浸かって、膝まで浸かって、腰まで浸かった。


 ベロニカはわめくけど、気にしないで海に連れ込んだ。


 全身が海に入った。


 ベロニカは目を閉じて、息を止めてぐっとガマンする。


「もう目を開けても大丈夫だよ」


「えっ?」


 驚くベロニカ、目を開ける。


 まわりをみる。


「ここ……海の中だよね。なんで普通にしゃべれるんだい?」


「さっき掛けた魔法の効果だよ。この魔法は普段過ごせない場所でも、陸の上と同じように過ごせるようにする魔法」


「すごいねえ、こんな魔法もあったのかい」


「それよりもほら、あそこに魚が泳いでるよ」


 おれは歩いて、魚の方に向かっていった。


 『アダプテーション』のおかげで、水の中にいる感覚がまったくしない。普通に歩ける。


 そこにいる魚は泳いでるけど、こっちからしたら空中を飛んでる様にみえる。


 不思議な光景だ。


「へええええ」


 ベロニカはしゃがみ込んだ。


 海底に泳いでる魚と目線の高さを合わせた。


 指を出してつんつんする、魚が逃げていった。


「わああああ」


 楽しそうに目を輝かせる。


「ちょっと歩こうか」


「うん」


 すっかりとテンションがあがったベロニカを連れて、海の底を散歩した。


 坂道になってるのをゆっくり下っていった。


 みえる全てが陸の上とまったく違う光景で、連れてきたおれもかなり楽しい。


「よくこんなのを考えつくねえ」


「魔導書を読んでるときいつも考えてるからね。『この魔法はどんな風に使えば面白いのか』とか」


「へえ」


「大抵思い通りに行くんだけど、たまに失敗もあるんだ」


「失敗ってどんなのだい?」


 おれは今までの失敗を話した。


 むしろ成功したものより自慢するって感じで。


 失敗したものの方が、予想しなかった結果になって、実際面白いからだ。


 散歩のあと、陸上に上がる。


 ベロニカは晴れやかな顔で、「うーん」って伸びをした。


「ありがとうルシオ」


 口調も最初に話しかけてきた頃の、大人びたものにもどった。


 案外こっちの方が本当の彼女なのかもしれない。


「だいぶ気が晴れたよ」


「そういえば、いやなことの前の気晴らしっていってたね」


「あら、それで付き合ってくれたんじゃなかったの?」


「ごめんなさい、今思い出した」


「ふーん」


 ベロニカはおれをじろじろみた、ちょっと表情が硬い。


 忘れてたことを怒ったのか。


「やっぱりルシオの方がずっと大人だね。あのバカ兄貴よりも」


「そうかな」


「うん、いい男。これで大人になったら……末恐ろしいわね。どれだけいい男になるのか想像もつかないわ」


 どうだろうな。


「ちょっと悔しいかもね」


「え?」


「出遅れた女の戯言、気にしないで」


 ウインクを飛ばしてきた、やっぱり綺麗だ。


「それじゃあね。可愛い嫁さんと仲良く」


「うん、バイバイ」


 手を振って、ベロニカと別れた。


     ☆


 海の底で拾った貝殻をお土産に持って、屋敷に戻ってきた。


「あっ、ルシオ様」


 シルビアがばたばたでてきた、なんか慌ててる?

「どうした」


「大変です、お客様です」


「客?」


「はい、この国の前の女王様だそうです」


「……なるほど」


 それは慌てるわな。


 おれは気を引き締めた。


 前女王がやってきた、何事もないわけがない。


 いろいろシミュレートする、何がどうなって、どういう状況でどんな魔法を使えば良いのかを。


 あの国王(脂肪お化け)の前だったら結構な歳か。


 ……おばあちゃんとかだと良いな。


「その人はどうしてる?」


「応接間に通しました。なんかすごく困ってる感じでした」


「そうか」


 困ってるのか。まあ、おれが来た経緯を考えればな。


「ルシオ様、着替えはどうしますか?」


 おれは考えた。正装して魔法で大人になった方が良いかもしれないが。


「いや、これ以上困らせる必要もないだろ」


「わかりました」


 応接間につく、中に入る。


「お待たせしました、ルシオ・マルティンで、す?」


 驚いた、中の人に驚いた。


 シルビアが言ったとおり困った顔でそこにいたのは。


 ついさっきまで一緒にいたベロニカだった。

新しいヒロイン登場、この子があんな事になるなんて――。

ビジュアル的な物も含めて、これからの展開にご期待下さい。

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