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未来嫁

「えええええ!? じゃあルシオくん、モンスター退治をしてきたの?」


 夜、新居の屋敷の中。


 さっそく運び込んだキングサイズのベッドの上で、おれとナディアはお手々をつないで横たわっていた。


「ああ。知らせが入って急行して、対応してきた」


「ねえねえ。どんなモンスターだったの?」


「『クリエイトデリュージョン』」


 魔法を唱えて、空中に映像を映し出す。


 ぬぽーとした、オーガのようなモンスターが現われた。


「これがいっぱいいたの?」


「いや、こいつ一体。『クリエイトデリュージョン』」


 もう一回魔法を唱えて、モンスターの横に建物を映す。


「これってこの屋敷?」


「ああ、サイズの割合は一緒だ」


「えええ、じゃあこの屋敷よりも大きいって事?」


 驚くナディア。当然の反応だ。


 映像に映し出されてるモンスターと屋敷。ざっと比較して、モンスターは屋敷の三倍近くの大きさがある。


 数字に直せば体長100メートルはあるってデカブツだ。


「これを倒したの? さっすがルシオくん」


「倒したっていうか、追い払ったっていうか」


「追い払った?」


「どうにも悪さをするモンスターじゃなくてな。村に現われたけど人間は襲ってなかった」


「じゃあ何をしたの?」


「『クリエイトデリュージョン』」


 映像に手を加える。


 牛や豚と言った動物がモンスターの前に現われる。


 モンスターはあめ玉サイズの牛や豚を摘まんで口の中に入れ、丸呑みした。


「村の家畜を食べてた」


「お腹ぺこぺこなんだ。なんか山に降りてきた熊みたいだね」


「まるっきりそれだ。で、どうやら定期的に村に現われるみたいだから、町のみんなは困ってるらしい」


「そりゃこまるね。牛と豚をこんな風にパクパク食べられてたら」


 映像が動く、モンスターにとって、牛一頭は大体サイコロステーキ一個分くらいの大きさしかない。


「でもすごいねルシオくん。こんなでっかいのを退治するなんて」


「退治してないぞ?」


「え? でも」


「対応しただけで、退治してない。食べ物ほしさにでてきただけで、話を聞くと人間を襲ってないらしいんだ。だからこうした」


 映像を追加する。


 小さいおれがでてきて、魔法で牛を一頭大きくした。


 この屋敷と同じ位大きくした。


 モンスターは最初驚いたが、大喜びで牛に飛びついた。


 巨大化した牛を平らげて、満足げになった。


「こんな感じで、お腹いっぱいになってもらった」


「そっか。さっすがルシオくん。倒すだけじゃないんだね」


「倒そうと思えばできるけど、そんな必要なかったみたいだからな」


「そっかー」


「そういえばイサークにもあったな」


「えー? なんでなんで? ここに来てるの?」


「ああ」


 頷き、魔法をかけ直す。


 映像がぷつんと切り替わる、まるでテレビのチャンネル替えをしたみたいだ。


 イサークの姿が映し出される。


 今朝見た、人妻をナンパして、捕まって連れて行かれる一部始終が映し出される。


 それをみて、ナディアはケラケラ笑った。


「あはははは、捕まっちゃった。えー、人妻をナンパすると捕まるんだ」


「らしいな。この国だと」


「あたしやシルヴィをナンパしてもそうなるのかな」


「なるらしい。今朝来た人を覚えてるだろ? シモンって人。あの人がナディア達に話しかけなかったのはそれが原因だったらしい」


「そうなんだー。よし、ルシオくん、今度あたしをまた大人にして」


 一瞬どきっとした。


 大人にして、という言い回しに。


「『グロースフェイク』」


 魔法をナディアに掛けた。


 ナディアは十六歳の美少女になった。


「そうそうこれこれ。もうちょっと大人にならない?」


「こうか」


 魔法を重ねがけした。


 ……どきっとした。


 ナディアは更に大人になった。二十代半ばくらいの美女に。


 パジャマ姿からネグリジェ姿になる。雰囲気もいつもの元気はつらつな感じから、大人びた感じになる。


「うん、これよ」


 気のせいか、口調まで大人びている。


「この姿で義兄さんの前に出てやるわ。ふふ、どうなるのか楽しみね」


「やめてやれ」


 おれは苦笑いした。


「その姿だと間違いなくナンパしてくる。再犯だと今度は七日間じゃすまなさそうだ」


「間違いなくするかしら」


「するな」


「ルシオも?」


 ナディアがおれの上に馬乗りになって聞いてきた。


 またどきっとした。


 おれを組み敷く妖艶な美女、口調も呼び方も変わって、まるで知らない人のようだ。


 これが……大人になったナディア……?


「どうなの……ルシオ」


「それは……」


 どう答えようか、と言葉を選んでいると。


 ガチャ、とドアが開く。


「お待たせ、あれ?」


 シルビアが入ってきた。


 湯上がりのシルビア、可愛らしいパジャマ姿。


「ナディアちゃん、何してるの?」


 大人になった幼なじみを迷いなくナディアと呼ぶシルビア。


「あれ? ナディアちゃんだよね?」


 かと思えばその姿に首をかしげた。


「うん。ルシオに魔法で大きくしてもらちゃった」


「ルシオ?」


「ふふ。なんか、そう呼びたい気分。体が大人になったからかな」


「……」


 シルビアはしばらく考え込んでから、おれの横にやってきた。


「ルシオ様。わたしもナディアちゃんみたいにしてもらって良いですか?」


「うん? ああいいぞ」


 大した事じゃない。


 おれは即答して、シルビアにも魔法を掛けた。


 『グロースフェイク』、大人に偽装する魔法。


 二段重ねで、シルビアも二十代半ばの姿にした。


 大きくなったシルビアはナディアとは違うタイプの美人になった。


 ナディアは変わった、しかしシルビアは変わらなかった。


 正統派な大人、お淑やかな美女になった。


「おー、シルヴィそうなるんだ」


「ふむ。大人のシルビアはこんな感じなんだな」


 シルビアは自分の手足を、自分の姿をまじまじと見る。


「そうね、ナディアの気持ちがわかるわ」


 シルビアの口調も変わった。まるで上品な奥様みたいな感じだ。


「でしょう? ねえ、その格好だとルシオをどう呼びたいの?」


「そうね……」


 シルビアはおれを見つめて、穏やかに微笑んで、耳元に唇を寄せてきた。


「あ・な・た」


 どきっとした、胸がむずむずした。


 耳元で囁かれた「あ・な・た」はとんでもない破壊力だった。


「うん、似合う。そのシルヴィならその呼び方が似合う」


「ナディアこそ、ものすごく似合っているわ」


「でも変な感じ。ルシオの事をすごく可愛く見えてしまうのよね」


「わたしも。ものすごくかわいいわ」


 二人はおれを見つめた。


 なんか……目が妖しいぞ?


 まるで獲物を見る肉食獣の様な目だ。


 こんな目をする二人……はじめてだ。


 二人はじりじりおれに迫ってくる。


 なんかまずい、いや夫婦だからちっともまずくないけど、でもなんかまずい。


 なんとかしなきゃ――そう思ったおれはひらめく。


「『グロースフェイク』」


 同じ魔法を、今度は自分に掛けた。


 二人にしたのと同じように、二回分かけた。


 青少年を経由して、青年の姿になった。


 自分じゃ顔がどうなってるのか見えないけど、二人より大きくなった。


 身長は……ざっと180はあるみたいだ。


「……」


「……」


 迫ってきた二人が止まった。


 目を見開き、おれをじっと見つめる。


「シルビア? ナディア?」


 どうしたんだろうかと、二人の顔の前で手をヒラヒラ振ってみた。


 二人とも反応がない、じっとおれを見つめているだけ。


 そうして数十秒。


「かっこいい……」


「素敵……」


 二人は同時に口を開く。


「ルシオ、腕、くんでいい?」


「あなた、わたしにもそうさせて?」


 聞く二人、しかし動かない。


 今までならおれが答える前に「手をつないで」きていた。


 しかし今は顔を赤らめて、おれの答えを待ってる。


 おれはにこりと笑って、ポスン、とベッドに体を投げ出した。


「いいぞ。おいで」


 いうと、二人は大喜びで飛びついてきた。


 シルビアは左に、ナディアは右に。


 いつものポジションで腕を組んできた。


「今日はこのまま寝るか」


「うん」


「はい」


 頷く二人と、いつもとはちょっと違う夜を過ごした。


 普段は手をつないで寝る夜、今日は腕を組んで一緒に寝た。


 ちょっとだけ、未来を先取りした、幸せな気分になった。

妖艶美女ナディアと、貞淑妻シルビア。

二人の二十年後くらいを想像して書きました。もちろんルシオとはラブラブのままです。

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